認知症は、脳細胞に損傷や壊死などが生じることによって脳の認知機能が次第に低下してしまう脳の病気です。
認知症を発症する原因は様々ですが、認知機能の低下そのものが誘因となる中核症状と、本人の性格や環境から誘発される行動・心理症状が出現することにより、認知症クライアントには日常生活において様々なサポートが必要になってきます。
認知症のクライアントが様々な助けを必要としているとき、大きな負担を感じやすいのは介護者である家族の方々です。
24時間体制での認知症ケアにおいて精神的にも肉体的にもしんどいと感じてしまった介護者に対して、支援はあるのでしょうか。
今回のコラムでは認知症の家族をケアする介護者に対する支援についてご紹介していきます。
認知症介護の特徴
認知症は冒頭でご紹介した通り、脳の細胞自体が損傷したり、壊死してしまうことによって引き起こされる病気です。
現時点では症状を完全に治す治療薬や治療法は見つかっておらず、記憶力・理解力・判断力が低下する中核症状や、暴力性が増幅したりせん妄などの症状が出現する行動・心理症状の進行を、薬で緩やかにしていくことが主な治療になります。
大切な家族が認知症と診断され、戸惑いのなかで介護をしていくことは介護者である家族に対して大きな負担がかかる傾向にあります。
身体的ストレス
認知症のクライアントは、年齢に伴うある程度の身体機能の衰えはあるもののまだまだ身体が元気、という方が非常に多くいらっしゃいます。
そのためせん妄や徘徊などの症状が出現していると24時間目を離すことができず、身体的に疲弊してしまう介護者の方が多くいらっしゃいます。
また記憶障害などで家族のことを認識できなくなった上で暴力をふるう傾向のあるクライアントもおり、肉体的に限界と感じられる介護者も少なくありません。
精神的ストレス
大切な家族が自分のことを忘れてしまったり、これまでとは180度人が変わったかのような人間性で接してくることに対して、戸惑いと悲しみを感じてしまうのも認知症介護の特徴です。
原因は脳細胞の損傷にあると分かっていても「どうしてこんなになってしまったのか」と思い悩む方も多いです。
また日本では「家族の介護をするのは当然」という旧態依然とした考え方が根強く残っていることもあり、「家族の介護が辛いと感じるなんて、自分はダメな人間なんだ」と、介護者が自分自身を追いつめてしまうケースも見受けられます。
認知症介護による影響
認知症の介護で身体的・精神的に追いつめられた介護者の多くが介護疲れを感じ、地域から孤立し行政との適切な連携が図られない場合、介護者の生活に大きな影響が生じてしまう可能性があります。
介護離職
認知症の家族に対する24時間体制の介護が必要になってくると、介護者の誰かが介護離職をせざるを得ない状況になってしまうことが、社会問題となっています。
介護離職は社会的に労働人口が減ってしまうだけでなく、家庭の収支に対する影響と生活苦、介護者の孤立化と自己実現の阻害など様々な弊害をもたらします。
介護うつ
24時間を通して認知症の家族に向き合うことで、肉体的にも精神的にも疲労が蓄積してしまった状態の介護者が陥りやすいのが、介護うつです。
眠れない・食欲がない・気分の落ち込みが続くといった介護うつの症状が介護者に見られるようになると、認知症介護どころではなく、介護者自身の生活が立ち行かなくなってしまいます。
高齢者虐待
介護うつが悪化し、介護者が追いつめられた状況が続くことによって起こる高齢者虐待や高齢者殺人も、認知症介護と深い関係がある社会問題です。
厚生労働省の調査によると、家族などの介護者から寄せられる高齢者虐待に関する相談や通報の件数は、2006年が18,390件であったのに対し、2020年には35,774件とほぼ倍増しています。
認知症の介護者支援
認知症介護の疲れやストレスを感じている介護者や、初めての認知症介護に戸惑いを感じている介護者に対しては、行政が主導する支援とのつながりをもってもらうことが大切です。
家族だけで認知症の介護に対する問題を抱え込むのではなく、社会全体が当事者意識をもって認知症と向き合うことが重要になってきます。
介護保険サービスの利用
認知症介護を担う介護者の負担を軽減することのできる支援の一つが、介護保険サービスです。
日本の介護保険制度では、介護度認定で介護や支援が必要と認められたクライアントに対して、通所型や入居型の様々な介護保険サービスを提供しています。
家族のライフスタイルやクライアントの状況に応じて24時間体制の在宅介護支援が受けられるサービスや、認知症対応の入居型施設などを選択して利用することで、身体的・精神的な負担の軽減につながります。
介護者コミュニティへの参加
認知症の介護で毎日孤独感を感じていたり、誰にも相談できないと思い悩んでいる方には、介護家族の会や認知症と向き合う家族の会など、同じ境遇にいる方と出会えるコミュニティへの参加を考えてみると良いでしょう。
認知症介護の辛さを分かち合うことができたり、他の家庭での解決策を聞くことができたりするのはもちろんのこと、誰かと話をすること自体が気分転換につながります。
外出が難しい場合はオンラインコミュニティやSNSを活用してみると良いでしょう。
また担当のケアマネージャーに話を聞いてもらうことも、有効な支援策の一つです。
特にケアマネージャーには守秘義務がありますので、家族の込み入った問題などを相談しやすいというメリットがあります。
アテンダントの視点から新しい対処法を知ることができたり、今まで知らなかった行政支援に関するアドバイスを聞くことができたりしますので、アセスメントの機会などを利用して積極的に相談していきましょう。
「認知症の人と家族の会」は全都道府県で展開中
認知症の人と家族の会は、公益社団法人として日本全国で運営されている組織です。
認知症のクライアント本人はもちろんのこと、家族や介護者に対する支援の場として運営されており、電話相談や会報の購読などが可能となっています。
認知症の介護者として支援を探している場合は、一度問い合わせてみると良いでしょう。
認知症の介護者として辛くなってしまったら。積極的に支援を活用していこう。
認知症の介護が辛いと感じやすい理由と、介護者に対する支援についてご紹介させていただきました。
認知症は誰もが発症する可能性のある病気で、介護者にとっては突然大きな負担が生じ、戸惑うことが多くあります。
行政の支援や境遇を同じくする人達との交流を通し、心身のバランスを保った認知症介護を行っていきましょう。