介護において大きな支えとなる存在が、配偶者、子供、兄弟といった「家族」です。
両親や配偶者が要介護状態となった場合、同じ家族として、何ができ、何をするべきなのでしょう。反対に、できないこと、やってはいけないことはあるのでしょうか。
今回は、介護において家族ができることの範囲や注意点について解説します。何をすべきかを把握し、来るべき時に備えましょう。
介護で家族ができること・やるべきこと
要介護状態となると、自分ひとりで日常的な生活をおくることが困難になるため、身近な存在となる家族のサポートが必要不可欠です。
介護において家族ができることには、主に以下5つが挙げられます。
- 直接的な介護
- 家事的な手伝い
- 各種手続きや調整
- 見守り
- 気持ちを支える
以降ではそれぞれの詳細を解説します。
直接的な介護
直接的な介護として、食事、着替え、洗顔、口腔洗浄、移乗、体位交換(起床時など)、排泄、入浴、服薬管理などが挙げられます。
こうした介護行為は、同じ家族同士で行うのであれば特に資格や免許は不要であり、自由に行うことができます。ただし経験がないと事故なども起こりやすいため、慣れないうちは細心の注意を払いながら行いましょう。
どこまで行うかは要介護者の状態次第であり、移乗や入浴など特定の行動のみ自分ひとりで行えないというケースもあれば、寝たきり状態でほとんどの行動にサポートが必要となるケースもあります。
訪問介護のサービスとして、こうした直接的な介護を受けることも可能であり、その場合は「身体介護」として扱われます。
家事的な手伝い
家事的な手伝いとして、買い物、食事の支度、掃除、洗濯、ゴミ出し、家計管理などが挙げられます。
要介護者の場合、こうした日常的な家事も自分ひとりで行えなかったり、時間が掛かることがあるため、家族のサポートが支えとなります。特にスーパーなどへの買い物は、要介護状態となり手足が不自由になると現実的に難しくなるため、家族のサポートが欠かせなくなってくるでしょう。
訪問介護のサービスとしてこうした家事的な手伝いを受けることも可能であり、その場合は「生活援助」として扱われます。ただし以下のような日常生活の枠を超えた家事は、訪問介護のサービス対象外となります。
- タバコ、お酒など嗜好品の購入
- 使っていない部屋の掃除
- 散髪や美容院への同行
- 草むしり
- ペットの世話
- 家電の修理 など
たとえば「草むしり」や「ペットの世話」などは、訪問介護で訪れたホームヘルパーに依頼することは基本的にできないため、こうした介護サービスの手の届かない作業ほど、家族がサポートしてあげたい部分となります。
各種手続きや調整
介護保険サービス(訪問介護サービスやデイサービスなど)の利用が必要となった場合、役所に行き「要介護認定」の手続きを行い、ケアマネージャーと面談しケアプランの作成を進めてもらう必要があります。また、要介護状態の認定を受けると、月1回以上はケアマネージャーとの面談が発生します。
こうした手続き、調整、面談などは、要介護者本人が行うことも可能ではありますが、一般的は本人ではなく家族があいだに入り代理で行うケースが多いです。
正しく手続きを行っておかないと、容態にあった介護保険サービスが受けられなかったり、出費が増えることがあるため、家族側もよく理解を深めた上で進める必要があります。
見守り
要介護者は、身体が上手く動かせずちょっとしたことで転倒してしまったり、急に身体の具合が悪くなることもあるため、定期的にその状態や様子を見守ってあげる必要があります。
同居状態であれば見守りはさほど難しいことではありませんが、頭悩まされるのは、要介護者と別居をしていたり、仕事などで常に同じ家にいられないという状況の場合です。こうした場合は、警備会社の見守りサービスを利用したり、市販の見守りカメラを購入しスマホなどから見守るという方法もあります。
なおカメラで見守る行為に対しては抵抗のある人もおり、見張られているようでストレスとなってしまうことがあります。心を労わるためにも、導入する場合は、要介護者とよく話し合い理解を得ることが大切です。
気持ちを支える
要介護状態となると漠然とした不安を抱えたり、気持ちが暗くなってしまう方もいます。そのため、話し相手になってあげたり、悩みを聞くなどして、気持ちを少しでも晴らしてあげることも家族としての大切な役割です。
主治医やホームヘルパーさんも要介護者の相談に乗ってくれることはありますが、雑談をしたり、親しい関係として対話をするというのは立場上なかなか難しいものであり、心のケアを自然に行えるのはやはり身近な家族となってくるのです。
介護で家族ができないこと・やってはいけないこと
同じ家族であっても、どのようなことでも行って良いわけではありません。介護においてできないこともあります。
具体的に、以下4つのことは、介護においてやってはいけないことです。
- 医行為
- 尊厳の保持をしない
- 失礼な態度をとる
- 介護(扶養)の放棄
以降ではそれぞれの詳細を解説します。
医行為
医行為(医療行為)は、医師法第17条により、医師の業務独占とされており、同じ家族であっても医行為を行うことは原則として禁止されています。医行為を行うには専門的な知識や経験も必要となるため、素人が行うと相手の身体に危害を加えてしまう結果にもなりかねません。
ただし、以下、日本小児医療保健協議会が述べるように「違法性の阻却」(違法と推定される行為について、特別の事情があるために違法性がないとすること)という扱いで、一部の医行為が許されることもあります。
「医行為」を行うことに関しては、形式的には医師法違反となるが、それなしでは日常生活を送ることができないので違法性を問わないとする運用、すなわち「実質的違法性阻却」とされ、違法性は無いとされている。
出典:日本小児医療保健協議会 「学校における医療行為の判断、解釈についての Q&A」
尊厳の保持をしない
「尊厳の保持」というのは、一人の人間として尊重されている状態、自尊心や人間としての価値や役割を保つことです。介護保険法第一条では、尊厳の保持が介護の根底にあることを定めており、介護において特に重要とされていることです。
同じ家族であっても、要介護者の尊厳の保持をしない、尊厳を踏みにじるような行為はやってはいけないことです。要介護者となっても自分らしくいられるように、自分らしく生きられるようにサポートすることが介護を行う側の役目となります。
失礼な態度をとる
上記の「尊厳の保持」とやや重複する部分もありますが、要介護者に対し「無視する」「子供のように扱う」「冷淡な態度で接する」ような対応は避けるようにしましょう。こうした態度を取られると要介護者側は、孤独感に苛まれたり、悩み苦しんでしまうことがあります。
家族を毎日のように介護していると、どうしても不満や苛立ちが発生することはありますが、それを要介護者にぶつけるのはよくありません。しかし溜め込むと自分が潰れてしまうこともあるため、趣味を楽しんだり、同じような境遇の人たちに悩みを聞いてもらうなど、自分なりのストレス発散方法を模索することが大切です。
介護(扶養)の放棄
要介護者の子供、兄弟、配偶者には介護の義務があります。
民法877条第1項にて「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」という定めがあり、民法第752条では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定められております。
厳密には「扶養」や「扶助」として義務であり、たとえば親が介護状態となり、生活費や介護保険サービスの利用費が足りなくなった場合には、子供、兄弟、配偶者は金銭的に助ける必要があります。
なおこの義務は必ずしも強制となるわけではなく、経済的に余裕がなく、要介護者の面倒を見る余力がないと裁判所が判断した場合には、扶養ができていなくても問題にはならないのが一般的です。
ただしそうした状況をそのままにしておくわけにはいかないため、困窮しており親の扶養ができない場合には、地域包括支援センターや生活困窮者の相談窓口(福祉相談課や生活サポートセンターなど)に相談することが大切です。
支えることは大切だけれど無理のし過ぎには注意
以上、要介護者に対し、家族ができること・できないことについて解説しました。
家族というのは、介護が必要となった場合に特に大きな支えとなる存在です。家族がどれだけ介護に協力的であるかによって、要介護者の生活が大きく変わることもありますので、家族の各々が「自分に何ができるか」という意識を持ち、一致団結してサポートしてあげたいところです。
ただし、介護は肉体的な負担や精神的な負担も大きくなりやすいため、無理をし過ぎるのは禁物です。大変だと感じた場合には「家族のことだから」と抱え込まず、地域包括支援センターなどに相談するようにしましょう。