認知症の初期症状といえば「もの忘れ」を思い浮かべる方が多いでしょう。しかしもの忘れだけではなく「思い込みが激しくなった」「被害妄想がみられるようになった」などの変化が、認知症の初期症状の場合もあります。
けれども、なぜ認知症の初期症状で思い込みが激しくなるのか、またどのように対応すればよいのかわからない方は多いでしょう。
そこで本記事では認知症の初期症状で思い込みが激しくなる原因について、またよくある症状と対処法についても解説します。
身近な方の変化に気づいて認知症の早期発見につながるように、ぜひ参考にしてください。
認知症の初期症状で思い込みが激しくなる理由
認知症は、脳の病気や障害などによって記憶や思考の認知機能が低下し、日常生活に支障が出てしまう状態をいいます。
認知機能の低下により記憶が曖昧になったり混乱したりすると、現実と自分の認識との間にずれが生じます。そのずれを直そうと、辻褄を合わせようとした結果、思い込みにつながるのです。
思い込みが激しくなる背景にあるもの
思い込みが激しくなると、支離滅裂な言動や自分勝手な振る舞いに周囲は振り回されてしまいます。しかし思い込みの背景には、認知症の方が抱えている苦しみや不安があるのです。
わからないことやできないことが増えると、認知症だとは気づけなくても自分の中で起きている変化に不安を感じるようになります。さらに今まで簡単にできていたことで失敗したり、周囲からの指摘でプライドを傷つけられたりすると、やるせなさや自分への怒りも感じるようになります。そのような負の感情に加えて「自分の力でなんとかしたい」「周りに迷惑をかけたくない」と必死に取り繕ううちに思い込みにつながってしまうのです。
思い込んでしまうと、自分が思い込んでいることが真実と解釈してしまうため、現実を理解できず、他者からの指摘も受け入れられなくなります。
家族や周囲の人がまずできることは、認知症の方の言動の背景にある気持ちを理解し、寄り添うことです。
よくある思い込みや被害妄想とその対処法
認知症の方は病気に気づいている・いないに関わらず、繊細に自分の変化を感じ取り、不安などのさまざまな感情を常に抱えています。そのため、けっして否定したり怒ったりせず、優しく寄り添うことが大切です。頭ごなしに否定してしまうと、自分自身を否定されたと感じて深く傷つき、思い込みがさらに激しくなる原因になります。
また、早めに医師に相談することが大切です。適切な治療や内服により症状を和らげることが可能ですし、日常生活で気をつけることや対処法などのアドバイスがもらえます。脳神経外科や神経内科、もの忘れ外来などで相談するといいですが、かかりつけ医があればまずはかかりつけ医で相談してもよいでしょう。
よくある思い込みとその対処法について解説します。
ものを盗られたと思い込む
いわゆる「もの盗られ妄想」です。記憶が障害されることにより、ものを盗られたと思い込んでしまいます。買い物に行ったことを忘れて財布のお金が減っているためにお金を盗まれたと思い込む、しまい込んでどこにあるかわからなくなり盗まれたと思い込む、などです。
⇒対処法:
身近な家族や介護士に疑いの目を向けることが多いため、疑われたほうは感情的になりがちですが「病気によるもの」であることを理解し、冷静に対応しましょう。まずは話をしっかり聞き、不安や怒りの気持ちに寄り添います。一緒に探すことや新しいものを買いに行く提案をしてみるのもひとつの方法です。ただし一緒に探す場合は、先に見つけたとしても本人が見つけるように仕向けましょう。先に見つけてしまうと、見つけた人が疑われてしまうことがあるからです。
現実にはないものが見える、聞こえる
レビー小体型認知症の方に多い症状として、幻覚と幻聴があります。幻聴や幻覚は神経伝達がうまくいかないために起こる症状です。目の前にありありと見えていたりはっきり聞こえたりしているため、混乱して暴れるなどの危険な行為につながることもあります。
⇒対処法:
まずは本人が訴えている内容を聞き取り、実際に見えている・聞こえている前提で対応しましょう。周囲の安全を確保し、部屋を明るくして一緒に確認する、別の部屋へ移動するなどの対応を取ります。話をしているうちに落ち着いて治まることも多いため、しっかり傾聴しましょう。
見捨てられたと思い込む
できないことが増えていき、家族や周囲の人に頼りにされていないと感じると「見捨てられ妄想」につながることがあります。
施設に入居したり、家族の都合でデイサービスやショートステイにあずけられたりすると、家族に見捨てられたと感じて悲しみや不安を感じてしまいます。
⇒対処法:
本人の悲しみや寂しさ、不安にしっかり寄り添いましょう。施設であっても自宅であっても、なにか役割を持ってもらうことで「必要とされている」と感じて見捨てられ妄想が和らぎます。家事を一緒に行ったり、家族や介護士が相談にのってもらうのも効果的です。
思い込みの対応に疲れてしまったときは
身近な人の思い込みの対応で、心身ともに疲れてしまうことはよくあります。特に家族の思い込みや被害妄想に対応するのは精神的に辛いことが多いでしょう。
被害妄想の訴えが続く場合は、いったんその場を離れることも大切です。認知症の方が一人になっても問題ないのであれば「用があるから帰ってきてからまた話を聞くね」など理由を作って離れましょう。そのほうがお互いに冷静になれる場合もあります。
それが難しいのであれば、地域包括支援センターや市の窓口などで介護のプロに相談して、介護保険サービスを利用しましょう。ヘルパーに来てもらったりデイサービスやショートステイを利用したりして、離れる時間、休む時間を作ることが大切です。
一人で、もしくは家族だけで対応しようとせず、プロの力もかりて無理なく介護を続けられるようにしてください。
認知症を理解し、身近な人の変化に気づけるようになろう
本記事では、認知症の初期症状で思い込みが激しくなる原因について、またよくある症状と対処法について解説しました。
認知症は早期発見、早期の治療開始が大切です。根本的に治すことはできませんが、適切な治療により進行を遅らせることはできます。また病気を理解し適切な対応ができれば、認知症の方もその家族や周囲の方もストレスを軽減することができます。 超高齢社会の日本では認知症の方は増え続けていて、認知症について理解することは社会全体の課題といえます。ぜひ認知症の理解を深め、身近な人の変化に気づけるようになりましょう。