在宅介護では、肉体的・精神的・金銭的な負担が蓄積されやすく、さまざまな悩みや不安を抱えながら介護を続けている方が少なくありません。そうした方々を救うべく、国や自治体は、在宅介護を行っている家族への支援制度や支援サービスを用意しています。
今回は、そうした在宅介護を行っている人向けの支援制度ついて解説しますので、どのような制度があるかを知り、困っている場合には積極的に活用していきましょう。
介護保険サービス
在宅介護をしている家族への支援として、まず基本となるのが「介護保険サービス」です。
介護保険サービスには、訪問介護、福祉用具貸与、デイサービス(通所型)、ショートステイ(短期入所型)等のさまざまなサービスがあり、自己負担額1~3割程度で利用することができます。
介護保険サービスには、介護をする側の人間の「レスパイトケア」の目的も含まれているため、たとえば「休息が欲しいのでデイサービスを利用して代わりに1日介護を行ってもらう」という使い方も問題なく可能です。
ただし、介護保険サービスを利用するには、申請手続きを行い「要介護認定」を受ける必要があります。
家族介護慰労金
家族介護慰労金(自治体によっては「介護手当」「寝たきり老人等介護手当金」などとも呼ばれる)は、自治体が用意している在宅で介護している家族に対する慰労金です。
受け取れる慰労金の額は自治体によって異なり、年間10万円程度の自治体もあれば、月額制で毎月15000円程度受け取れる自治体もあります。対象となる要介護度も自治体によって異なり、要介護度4~5と指定している自治体もあれば、要介護度2~3程度で受け取れる自治体もあります。
その他、細かなルールも自治体によって異なりますので、詳しくはお住まいの自治体の家族介護慰労金の案内をご確認下さい。
なお例として、以下は埼玉県川越市の家族介護慰労金の受給条件となります。
申請対象者
出典:埼玉県川越市「家族介護慰労金」
次の要件をすべて満たしている要介護高齢者を現に在宅で介護している家族。
・過去1年間、要介護4又は5が継続している。
・過去1年間、介護保険サービスを利用していない(年間7日間以内の短期入所サービスの利用は除く)。
・過去1年間、要介護高齢者及び家族のいずれもが市民税非課税世帯に属する。
※ただし、連続して90日以上の入院があった場合は、入院前後の在宅期間を通算して1年間とする。
介護休業給付金
「介護休業給付金」は、家族の介護のために休業が必要になった場合(介護休業と呼ぶ)に受給できる給付金です。休業開始前の給料の67%分を最長93日間受給可能であり、この93日間は一度に使い切る必要はなく、最大3回に分けて受給することもできます(同一対象家族の場合)。
なお、介護休業給付金を受給するには、以下のような条件があります。
- 雇用保険の被保険者である
- 2週間以上にわたり家族の常時介護をする休業であること
- 休業を開始する前の2年間に、11日以上働いている月が12ヵ月以上ある
- 職場復帰を前提とする休業であること(休業後に離職することを予定している人は対象外) など
介護休業給付金について詳しく知りたい場合には、厚生労働省の「Q&A~介護休業給付~」ページや、お近くのハローワークにご確認ください。
介護保険住宅改修費
「介護保険住宅改修費」は、在宅介護のために住宅を改修(リフォーム)した場合に支給される補助金です。たとえば「手すりの取付け」「段差の解消」「引き戸等への扉の取替え」など、介護に関する住宅改修が対象となります。
支給限度基準額は20万円となり、また改修の一部(1~3割)は自己負担する必要があります。たとえば改修費に20万円掛かり、自己負担が1割の場合は、支給額は18万円となります。残額分は、次の改修費用に回すことができます。
航空会社の介護帰省支援
JALの「介護帰省割引」、ANAの「介護割引」のように、航空会社側も家族への支援サービスを用意しています。
主に離れて暮らす家族を介護する際の移動で対象となる割引であり、実家が遠く、介護帰省に航空機が必要となる方には心強いサービスといえます。
なお、対象となる人は、「二親等以内の親族の方」と「配偶者の兄弟姉妹の配偶者」ならびに「子の配偶者の父母」までとしている航空会社が多いです。
ヤングケアラーに対する支援
「ヤングケアラー」とは、親に代わり祖父や祖母などの在宅介護を行っている10代程度の若い世代のことを指します。中学生17人に1人、 高校生24人に1人がヤングケアラーであるという調査結果もあり(NHKの調査より)、社会問題となりつつあります。
ヤングケアラーへの支援は、現在、国や自治体がさまざまな支援を検討している段階ですが、支援の実施が始まっている自治体もあります。たとえば群馬県高崎市では、1日2時間、週2日まで、家族の介護や家事、兄弟の世話などをサポータースタッフが無料で行ってくれます。
ヤングケアラーに対しての相談窓口を用意している自治体も多く、電話だけでなくLINEやSNSで相談ができることもあります。
地域包括支援センターの支援
「地域包括支援センター」は、介護に関するさまざま悩みや困りごとを相談できる、地域に密着した総合相談窓口です。
地域包括支援センターというと、「要介護者が抱える悩み」の相談をする場所と捉える方もいますが、要介護者のことだけでなく、介護をする側の家族の悩みや問題についてもプロの専門家が相談に乗ってくれます。
たとえば、以下のような家族が抱える問題についても相談が可能です。
- 介護が原因で退職を考えている、職場復帰が上手くいかない(就労支援)
- 他の家族が介護に協力してくれず困っている
- 介護が原因で困窮している
- 介護によるストレスで精神的に追い込まれている など
地域包括支援センターの支援対象は、要介護者だけでなく、その家族も含まれます。「自分のことだから」と遠慮せず、介護が原因で苦しんでいる場合は積極的に地域包括支援センターに助けを求めるようにしましょう。
家族同士で支援し合うことも大切
ここまで国や自治体の支援サービスを紹介しましたが、こうしたサービスを利用するだけでなく、家族同士で支援し合うことも大切です。
とくに「自宅で親と同居している家族に介護を任せきっている」「長男や長女だからという理由で介護を任せきっている」という状況はあまりよいことではなく、そのまま他人任せにしていると、いずれ大きな問題に発展しかねません。
介護は一人で行おうとすると、精神的・肉体的な負担を溜め込みやすいですが、家族同士が協力・分担することで、負担を大きく軽減できることがあります。家族内で介護にかける比重が偏っている場合には、相手を配慮し、同じ家族として積極的に介護に参加する意識が大切です。
なお、もしも事情により現地での介護には混じれない場合には、「金銭的」な支援を行うことも一つの解決策です。「自分は遠くに住んでいるのでなかなか介護帰省はできないが、その分お金を多めに支援する」といった形でも支えとなれることがあります。
使える支援制度は遠慮せず活用しよう
以上のように、在宅介護で苦労をしている家族への支援制度は数多く用意されています。在宅介護を行っていれば、これら大半の制度を利用することができ、また支援金などの返却は原則として不要です。
在宅介護は精神的にも金銭的にも負担が溜まりやすいものであり、意思だけでは乗り越えられないこともありますので、使える支援制度は遠慮せずに積極的に活用し、家族の置かれている現状を少しでもよいものに改善していきましょう。