
笑顔でつなぐ介護 ― 小さな声に寄り添って ―
「ありがとう。」
認知症だった祖母が、母に向かってそう言った日のことを、私は今でも忘れることができません。
私の介護の原点は、認知症の祖母を介護する母の姿を見て育ったことにあります。
祖母は昼夜逆転や徘徊を繰り返し、警察に保護されたこともありました。
母のことさえ分からなくなる日もあり、当時の私は「介護は大変でつらい仕事」「絶対に介護の仕事はしたくない」と思っていました。
その後、祖母は転倒による大腿骨骨折で車椅子生活となり、介護の負担はさらに大きくなりました。
それでも母は、仕事で疲れて帰ってきても嫌な顔ひとつせず、穏やかな表情で祖母に寄り添い続けました。
そんな母の姿に応えるように、祖母は少しずつ笑顔を見せるようになり、「ありがとう」と感謝の言葉を口にすることが増えていきました。
その光景を見た私は、介護とは人の心を支え、その人らしさを取り戻す力のある仕事なのだと気づき、介護への思いは大きく変わりました。
特別養護老人ホーム、グループホームで経験を積み、現在は重度訪問介護に携わっています。ALSや脊髄損傷、脳性麻痺など重い障害のある方と一対一で長時間関わる中で、信頼関係を築くことの大切さを日々実感しています。
『小さな声を探し求める』を読んで、私は改めて「小さな声」とは言葉だけではないことに気づきました。
表情や視線、呼吸の変化、しぐさ、文字盤で伝えられる一文字一文字、そしてご家族の何気ない言葉も、その人の思いが込められた大切な声です。
相手が伝えたい思いは、大きな声ではなく、ふとした表情やわずかな変化の中にあることが少なくありません。
その小さな声に気づこうと努力し続けることこそが、介護に携わる私たちの大切な役割なのだと、この本は改めて教えてくれました。
以前、私自身の体調が優れなかった時、ALSのクライアントの方が文字盤を使って「大丈夫?」と声をかけてくださいました。
一文字ずつ、時間をかけて伝えられたその言葉は、どんな長い言葉よりも私の胸に深く響きました。
支援する側の私が励まされ、「支援する人」と「支援される人」ではなく、一人の人として心が通い合えた瞬間でした。
この経験を通して、信頼関係は日々の小さな積み重ねの中で育まれ、その積み重ねがより良い支援につながるのだと実感しています。
クライアントやご家族が今どのような思いで過ごしているのか。
その答えは、いつも言葉で伝えられるとは限りません。
だからこそ私は、表情や視線、その人らしいしぐさにも目を向け、言葉にならない思いにも耳を澄ませたいと思っています。
小さな声を探し求めていく。
これこそが重度訪問介護の仕事にとって一番大切なことだと思います。
今も私の介護の原点にあるのは、どんな時も祖母に寄り添い続けた母の姿です。
そして、この本を読んで、その原点は「笑顔」だけではなく、「相手を思い、寄り添い、小さな声に気づこうとする姿勢」であったことを改めて教えられました。
これからも、一人ひとりの小さな声に真摯に向き合い、その人らしい暮らしを支えられる介護者であり続けたいと思います。





















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