『デンマーク研修を終えて』白鳥美香子(土屋ケアサービスカンパニー 社長室)
はじめに、このような貴重な機会をいただきまして、心より感謝申し上げます。
私にとって海外に行くことは実に27年ぶりでした。
子どもが生まれる前には何度か海外を訪れる機会がありました。
昔は旅行先の情報をガイドブックや地図で調べていましたが、時代は変わり、通信機器の発展によって今ではスマホで瞬時に検索できます。
ずいぶん便利な世の中になったと実感しました。
現地でもスマートフォンやPCの使用に困ることなく、快適に過ごすことができました。
ただ、翻訳アプリなどの便利なツールがあるとはいえ、言葉が通じない歯がゆさは身をもって感じました。
現在、私には3人の子どもがおり、次男は日常生活全般に介助を要する脳性麻痺の障害を抱えています。
今年の4月には長男が、昨年には長女が就職し、育児にも一区切りがついた節目の時期を迎えていました。
私の不在中は、母をはじめとする家族やホームケア土屋仙台のアテンダントの皆さんに支えられ、安心して研修に参加することができました。
改めて、支えてくださったすべての方々に感謝申し上げます。
昨年、私は新たな部署に異動し、これまでとは異なる業務に携わるようになりました。
戸惑いや不安もある中で、今回のデンマーク研修は自分の視野を大きく広げ、日々の仕事に新たな視点と気づきをもたらしてくれる貴重な経験となりました。
研修地は、デンマーク・オーデンセにあるノーフュンスホイスコーレという、約75名の世界各国の学生たちが暮らし学ぶ全寮制の教育機関です。
「対話による人格形成」を理念に掲げ、授業だけでなく共同生活を通じた多様な文化交流が実践されています。
この場所で、株式会社土屋の研修メンバーと生活を共にしました。
朝ごはんは7時半、夜ご飯は18時、明日の集合時間は何時と毎回、皆と時間を確認しながら行動していました。
この季節は過ごしやすく気温18度前後程度で、梅雨はなくカラッとしていました。
しかし、日照時間は22時までと長く、夜明けは4時頃という時期だったため、明るくなると目が覚めてしまう私にとっては、すこし寝不足となりました。
研修は5日間で、行政機関から就労支援施設・作業所、グループホーム、特別支援教育機関、小学校に至るまで計6か所を視察しました。
各現場で行われたセッションを通じて、福祉や教育の理念と具体的な取り組みを直接学ぶことができました。
私自身は、今回の研修において2つのテーマを持って臨みました。
1つ目は合理的配慮推進委員会の委員長という立場から「デンマークの障害者雇用」が、どのようなものなのか。
2つ目は障害のある子どもを持つ家族の視点から、「障害者の将来を見据えたケアや支援の在り方」を学ぶことでした。
まず、1つ目のテーマであるデンマークの障害者雇用についてです。
この研修を通じて「フレックスジョブ制度」の存在を知りました。
この制度は、障害のある方へ企業が支払う賃金と通常賃金の差額を国が補填し、障害のある方の安定した就労を国と企業が支えるものです。
こうした国と企業が一体となった経済的自立支援の姿勢は、土屋の障害者雇用においても参考になると感じました。
また、デンマークでは、福祉制度の大枠を政府が担っているそうです。
たとえば「早期年金」では、受給額から税金を支払う仕組みとなっており、受給者は「ただ助けてもらう人」ではなく、「自分も税金を納める社会の一員」だと実感できるようになります。
その結果、福祉サービスを“もらうもの”ではなく“自分の権利”と捉え、制度への理解や必要な合理的配慮を自ら積極的に求めやすい環境が作り出されているという事を学びました。
次に、2つ目のテーマである障害者の将来を見据えたケアや支援の在り方についてです。
デンマークでは18歳で社会的に成人とみなされ、親元を離れて自立生活を送ることが当たり前として根付いているそうです。
本人の意思だけでなく、社会全体が「自立」を後押しする文化には大きな驚きがありました。
一方で、日本のように「いつ・どのように自立するか」を本人の選択に委ねる自由度の大切さにも改めて気づかされました。
私の話になりますが、息子は現在20歳で、いずれ一人暮らしを目指しています。
いざ自立生活を始める際には、本人はもちろん家族全員が納得して新生活をスタートできるよう、事前に準備を進め、環境を整えていきたいと考えています。
また、家族の絆の温かさを大切にしながら、住み慣れた地域で暮らせる環境を提供している重度訪問介護サービスの必要性を改めて強く実感しました。
さらに、教育現場の特別支援教育機関(日本の特別支援学校高等部相当)では、一人ひとりの学びのスタイルに合わせた教室設計と、ペタゴー(pædagog)と呼ばれる専門職による支援が徹底されていました。
具体的には、デンマークの福祉や教育の現場にある、人を尊重する姿勢、一人一人のバックグランドを理解し、受容する姿勢が安心感と自己肯定感を育んでいるように感じました。
私の息子が通っていた日本の特別支援学校にも、一人ひとりの個性を大切に伸ばすことで可能性を広げ、社会参加へつなげる学びの場がありました。
国や具体的な内容は違えど、生徒に向き合う姿勢には差はないと感じました。
最後になりますが、この研修を通じてデンマークでは、福祉と教育が一体となって「自分の考えを持ち、対話によって解決する力」を小さな頃から育んでおり、文化を超えて「誰もが平等に尊重される社会」の大切さを強く実感しました。
異文化を体験する中で日本の良さである、家族や地域の絆を大切にしながら、一人ひとりが「いつ・どのように生きるか」を自ら選ぶ自由を尊重する文化にも改めて気づかされました。
今後はこうした学びを、土屋の制度や業務に活かし、関わる方々を尊重し、対話を重視する姿勢をはじめ、柔軟な視点と創造力をもって取り組んで参りたいと思います。
改めまして、本研修の機会をくださった皆さま、ご同行の皆さま、そして家庭や業務を支えてくださったすべての方々に心より感謝申し上げます。
ありがとうございました。
株式会社土屋について
株式会社土屋は、高齢者や障がい者の方々がより良い生活を送るための介護サービスを提供し、また、さまざまな社会的ニーズに応えるための事業を展開するトータルケアカンパニーです。
■会社概要
会社名:株式会社土屋
所在地:岡山県井原市井原町192-2久安セントラルビル2F
代表取締役:高浜敏之
従業員数:2,766名
設立:2020年8月