『重度障害者の就労に必要なこと』
~ALS協会副会長の髙野元氏とトークイベントを開催~
開催レポート
株式会社土屋では2025年3月19日、創発計画株式会社代表取締役・日本ALS協会副会長の髙野元氏を招き、「ALS等の重度障害者の就労に向け、何が必要なのか」をテーマとしたトークイベントを開催しました。
本イベントは、ホームケア土屋ゼネラルマネージャー・星敬太郎との対談形式で行われ、髙野氏より、ご自身が開発されたコミュニケーション支援システム「HeartyPresenter」を用いてお話しいただくとともに、
星より、当社が実施した就労意向調査のご報告ならびに当報告を用いたディスカッションが行われました。
当日は福祉・医療関係者ら総勢約280名の方にご参加いただき、髙野氏よりご自身の経験を踏まえたさまざまな知見をいただくとともに、
「HeartyPresenter」を用いた講義の実演など、AIの発展により多くの可能性が見い出せるイベントとなりました。
登壇者
髙野 元 氏/創発計画株式会社代表取締役・日本ALS協会副会長
ALS療養者として、コミュニケーション支援システム「HeartyPresenter」を開発し、企業経営と社会活動を続けている。日本ALS協会の副会長としてALS患者の支援にも尽力。
星 敬太郎/ホームケア土屋ゼネラルマネージャー
重度訪問介護サービスの統括者として、障害をお持ちの方々の生活支援に携わる。
司会:宮本武尊/株式会社土屋取締役
開催概要
- 目的:障害の有無にかかわらず、誰もが自分らしく働ける社会の実現に向けて、企業や社会に求められる具体的な取組みについて議論する
- 開催日:2025年3月19日
- 開催場所:オンライン(ウェビナー)
- 対象:土屋グループ全従業員及び介護業界・福祉全般に従事する方、クライアント・ご家族、興味のある方(一般公開)
イベント実施の背景
当社・土屋総研においては、2024~2025年にかけて、土屋グループのクライアント136名を対象に「就労に関する調査」を実施しました。
当調査より、重度障害をお持ちの方で現在就労されていない方の約3割が、テクノロジーの発展を背景に働くことへの意欲を示していることが明らかとなりました。
一方、その実現を妨げる要因として、企業側の受け入れ体制の不備や、各種制度の認知不足、コミュニケーション手段の未整備など、社会システムの課題が指摘されました。
そうしたことから、当社ではALS当事者として企業経営と社会活動を行う髙野元氏をお招きし、誰もが自分らしく働ける社会の実現に向けて、
企業や社会に求められる具体的な取組みについて議論する場を設けるべく、本イベントを開催しました。
イベント概要
<ホームケア土屋ゼネラルマネージャー・星 敬太郎>
星より、株式会社土屋の紹介ならびに重度訪問介護の説明が行われ、とりわけ就労中に重度訪問介護を使用できないという制度上の問題および就労可能なケースが取り上げられました。
1事例として、自治体の就労支援特別事業を活用し、当社で重度訪問介護を使用しながら勤務している社員の紹介がなされました。
<創発計画株式会社代表取締役/日本ALS協会副会長・髙野 元 氏>
髙野氏より、ご自身が開発されたコミュニケーション支援システム「HeartyPresenter」ならびにパソコンの音声合成機能を用いて、自己紹介とともにALS療養の経緯についてお話しいただきました。
また、分身ロボット「オリヒメ」を用いた“公的支援を利用した社会参加の実際やその方法”について知見をいただき、
人との出会いにより、様々なつながりが生まれ、それが新たな社会参加やチャレンジに結び付いていく様子が映し出されました。
重度訪問介護の課題である就労問題については、ご自身の経験を元に、重度障害者の就労に必要なことに関して、制度の抱える問題と共に詳細に語られました。
<就労意向調査結果(土屋総研実施:対象136名)の概要>
①テクノロジーの発展による就労意向
②働くために、テクノロジーに何を期待するか
就労支援におけるテクノロジーへの期待は、「意思・伝達システムの向上」が11件と最も高く、
次いで「就労支援と環境の整備」が8件、「コミュニケーションと生活支援の充実」が7件などという結果となりました。
③テクノロジーが発展しても就労が難しい理由
就労が難しい理由としては、「身体機能の制限のため」が11件と最も多く、次いで「就労支援・制度面での課題」が8件、
他にも「医療・介護制度の課題」「環境・設備面での課題」「意思疎通・認知面での課題」「過去のトラウマ」などが挙げられました。
テクノロジーへの期待が明確になると同時に、就労を困難にする要因を課題として捉える必要性が見える調査結果となりました。
【詳細はプレスリリースにて】
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000057.000084582.html
<ディスカッション>
先述の「調査意向調査」を元に、重度の障害があっても「就労」という選択ができる可能性や、雇用する企業側は何ができるのかを模索すべく、ディスカッションが行われました。
その中で、「企業側の具体的な取組み」に関して、髙野氏は「障害者を仲間として働いてもらうという意識がとても大切です。
この仕事ができるかというのではなく、この人にできる仕事を作るという考え方が必要です」と述べられました。
その他にも髙野氏は、企業側の取組みとして、「在宅勤務が認められる」「体力に合わせた短時間勤務が認められる」「体の状態に合わせた生産性が認められる」の3つを挙げています。
質疑応答
質疑応答では多くのご質問が寄せられましたが、時間的制約でイベント内での回答が難しかったものについては、後日髙野氏がすべての質問に回答くださりましたので、以下、内容を記載いたします。
①
Q:児童・学生のうちは看護師が排泄医療行為をできますが、卒業し就労した際、同じケア内容でもすべて自費となるのはハードルが高いです。
これも18歳の壁の一つだと思います。法整備や医療介護事業の整備で事態は進むものでしょうか?
A:運用が当事者の思いと乖離しているのは、現実としてありますよね。
そもそも重度訪問介護を含む障害者総合支援法は、70年代の障がい者運動から40年近くかかって法制化されています。
事例を作り、訴え続けることで、いつか受け入れられると信じたいところです。
実際、数年前にさいたま市が、重度訪問介護が就労に使えないのはおかしいと支援制度を作ったことから、厚労省も障がい者雇用の枠組みを作りました。
②
Q:脳性麻痺の方は、これから新しい事を覚えたいというモチベーションがあります。
それに比べて、ALSの方は、今のうちに出来る事をしておくという考えの方が多いです。
その分、技術支援が出来ても新しい仕事を覚えるというモチベーションは高くないでしょうか。
A:ALSの方も様々ですが、私は新しい技術を導入したい性格なのが幸いしたと思います。
進行が落ち着き、看護介護環境が整うと、新しいことに挑戦したいと思う当事者も出てくるのではないでしょうか。
③
Q:就労希望は、年代的にはどうですか。若い人が多いのでしょうか。
中途障害の方が主なのか、幼少期からの障害がある方なのか、知りたいです。
A:私は50歳目前でALSの診断を受けて、中途障害者になりました。この病気は60歳以上が多いので、若かったかもしれません。
④
Q:視線入力を習得するために、どのくらいの時間・労力がかかるものでしょうか?
A:私は3ヶ月かかりました。
⑤
Q:スキルがないと、やはり難しいですね
A:そうかも知れませんが、スキル獲得の努力自体が、御本人が社会とつながる感覚になるかもしれませんね。
⑥
Q:大学で、重度障害のある方の支援をしています。
お話をお伺いして、ICTの活用や就労に必要なスキルの獲得のために、教育の機会が必要ではないかと思いました。
星さんが言っていたように、修学でも就労でも重度訪問介護が利用できれば、機会が広がるように思います。
教育と就労を通じたサービスの連続性についてどのように思われますか?
A:そのとおりだと思います。
健常者と同様に、教育から就労というか社会参加には連続性があったほうが良いですね。
⑦
Q:一人でヘルパー事業所を運営しているとの話を聞き、興味津々です。
A:さくらモデルと名付けられています。
⑧
Q:高野さんはなぜそのようにポジティブであり続けることができるのでしょうか?
A:心の声に従っているからではないでしょうか。自分の気持ちに嘘をつかず、忠実でありたいと思っています。
株式会社土屋について
株式会社土屋は、高齢者や障がい者の方々がより良い生活を送るための介護サービスを提供し、また、さまざまな社会的ニーズに応えるための事業を展開するトータルケアカンパニーです。
■会社概要
会社名:株式会社土屋
所在地:岡山県井原市井原町192-2久安セントラルビル2F
代表取締役:高浜敏之
従業員数:2,766名
設立:2020年8月