『日中認知症ケア交流と介護施設視察レポート』鈴木暢大/国際企画室
2025年6月24日から27日にかけて、「専門家と行く 中国・北京の医療介護・認知症ケア最前線 視察ツアー」が開催されました。
本ツアーは、日本と中国の介護・認知症ケアに関わる専門家の交流を目的とし、北京における先進的な介護施設や地域包括ケアの現場を視察するとともに、6月26日には「日中認知症ケア交流シンポジウム」が開催されるなど、日中双方の実践知の共有が図られました。
1. 視察の概要
6月24日、参加者は羽田空港および関西国際空港からそれぞれ北京に到着した後、北京長友養老サービスグループを訪問しました。
同グループは北京を中心に全国で介護事業を展開し、総ベッド数は約5,000床、さらに5,000床規模の新施設を建設中とのことでした。
特に注目されたのは、日本のユニットケアを参考にした認知症専門施設「慧院」です。
ユニットケアは、少人数の生活単位でケアを提供し、家庭的な環境を重視する点が特徴で、中国国内でも先進的な取り組みといえるそうで、中国国内はもとより私たちのように日本など海外からも多くの視察があるとのことでした。
交流会では、現場スタッフや施設長との意見交換が行われ、介護人材育成や設備開発、CCRC(Continuing Care Retirement Community)事業など幅広い展開について学ぶ機会となりました。
6月25日には、地域密着型ケアで注目される「龍振養老サービスグループ」を視察しました。
同グループは25の施設や高齢者総合サービスセンターを運営し、北京市内20万人の高齢者にサービスを提供しています。
特に「劲松老年家園」や「劲松西コミュニティ高齢者総合サービスセンター」では、ショートステイ、デイサービス、食堂などを一体化した地域包括ケアのモデルを展開しており、1日目の北京長友養老サービスグループより日本の地域密着型サービスに近い理念が感じられました。
6月26日には、国有企業である北京恒颐健康管理有限公司の「恒颐復健之家・自如」を訪問。
ここでは、急性期後の回復期や生活期におけるリハビリ支援が重視され、医療と介護のシームレスな連携が実現されています。
100床規模と、昨日までの視察先と比べても小規模感は否めず、中国の基準においてもその床数などからランクが限定されるといわれながらも、医療従事者と介護スタッフが一体となった包括的サービスは、日本においても参考となる取り組みでありました。
2. 日中認知症ケア交流シンポジウム
6月26日午後には、宿泊ホテル「北京共享際5L飯店」を会場に「日中認知症ケア交流シンポジウム」が行われました。
本シンポジウムには約150名の中国国内医療・介護関係者が参加し、日中双方の専門家が認知症ケアにおける課題と展望を共有しました。
基調講演として、医療法人社団悠翔会の佐々木淳氏が「認知症に対して日本社会の認識変化の歩み」をテーマに、日本の認知症施策の変遷を紹介。
続いて、株式会社あおいけあの加藤忠相氏が「壁無し、鍵無し」を理念とした認知症施設ケアの実践を語りました。
これらの講演は、中国においても施設ケアの質向上を図る上で強い関心を集めていました。
さらに、認知症啓蒙活動家の洪立氏による「認知症に優しい社会の構築」や、長友グループの李冬梅氏による現場実践報告が行われ、現場目線の工夫や課題が共有されました。
シンポジウム後半では映画「ケアニン」の上映と討論会が行われ、参加者間で活発な意見交換や写真・動画撮影などがなされていました。
3. 日本と中国の介護・認知症ケア比較
今回の視察を通して、日中の介護分野には共通課題と相違点があることを改めて理解しました。
日本は超高齢社会を背景に、在宅介護・施設介護・地域包括ケアを組み合わせた多層的なケア体系を発展させてきています。
一方、中国は急速な高齢化が進行しており、都市部を中心に施設整備や人材育成が急務となっています。
ただし、北京長友養老グループや龍振養老グループのように、民間・公的機関が連携し、地域資源を活用したケアモデルは着実に広がりつつあるように思います。
また、中国では公園での朝の運動や交流など、介護予防に寄与する生活文化が根付いており、日本の高齢者福祉との融合による相互学習の余地が大きいと感じました。
認知症ケアに関しても、ユニットケアや「鍵のない」自由な生活空間づくりなど、日本型の先進的取り組みが中国に応用されつつあると思います。
4. 今後の展望
日中間の介護・認知症ケア交流は、単なる視察にとどまらず、両国の制度・文化を踏まえた実践モデルの共有に発展する可能性があると思います。
特に、介護人材不足や認知症の増加は共通課題であり、ICTや介護ロボットの活用、地域コミュニティとの連携など、多様な解決策を模索する必要があるのではないでしょうか。
今回のツアーで得られた知見は、今後の日中両国における福祉政策の改善や新たなサービスモデルの構築に寄与すると期待されます。
また、視察もそうでしたが、今回同席させていただいた、各種専門分野のプロフェッショナルとの交流も視察と同等、それ以上の経験となりました。
コロナ禍以降、オンラインでの繋がりも多いと思いますが、実際に顔を突き合わせて同じ課題に目を通し、意見を突き合わせることの重要性を改めて認識したこともあります。
5.余談
視察の合間に故宮や万里の長城の見学もさせていただきました。
どちらも規模がものすごく大きく、国内外から多くの観光客が押し寄せて見学していました。
日本語の堪能なガイドさんから歴史を教えてもらいながら、じっくり聞くと改めて理解できます。
残念ながら時間の都合で広大な施設をくまなく見ることはできませんでしたが、文化や慣習を知るためにもとてもいい経験になったと思います。
株式会社土屋について
株式会社土屋は、高齢者や障がい者の方々がより良い生活を送るための介護サービスを提供し、また、さまざまな社会的ニーズに応えるための事業を展開するトータルケアカンパニーです。
■会社概要
会社名:株式会社土屋
所在地:岡山県井原市井原町192-2久安セントラルビル2F
代表取締役:高浜敏之
従業員数:2,766名
設立:2020年8月