【知的障害者地域生活推進委員会】社内研修 強度行動障害支援①理解編
「強度行動障害の理解と支援のアセスメント」
登壇者
坂井 翔一 氏
(社会福祉法人 はるにれの里/札幌市自閉症・発達障害支援センター おがる)
開催概要
主催:株式会社土屋 知的障害者地域生活推進委員会
目的: 強度行動障害支援についての理解を深め、アテンダントの支援の向上を図ること。
開催日: 2025年2月19日
開催場所:オンライン
対象:土屋グループの全スタッフ(非常勤含む)
プログラム
<研修内容>
- 強度行動障害とは?
- 強度行動障害を理解する
- 発達障害分類
- アセスメントの方法
<知的障害者地域生活推進委員会 委員長・奥永孔太郎よりご挨拶>
現在、土屋ではホームケアの重度訪問介護、アクティブプレイスの生活介護、デイホームたいわの共生型デイサービス等で強度行動障害のある方の支援を行っています。
支援の質の向上のために、正しい知識を持っていただく、またクライアントのおかれている状態を正しく理解して頂きたいという思いから今回の研修を企画しました。
今回の研修を通して、現場での日々支援で困っている方々の課題解決につながったり、また正しい理解を持つことで支援に興味を持って下さる方が一人でも増えて頂ければ幸いです。
委員会としては、「知的障害、強度行動障害のある方を支える」のではなく、重い障害があっても、なくても、一人でも多く地域で自身の望む暮らしを続けていくことを支えることを目標に、今後も活動していきたいと思います。
<社内研修>
強度行動障害とは?
強度行動障害とは「自傷、他傷、こだわり、もの壊し、睡眠の乱れ、異食、多動など本人や周囲の人のくらしに影響を及ぼす行動が、著しく高い頻度で起こるため、特別に配慮された支援が必要になっている状態」を意味します。
■どんな状態の人?
たとえば…
異食といって、カーテンレールやカーテン、壁紙などを全部はがして食べてしまったり、強化ガラスを素手で割ってガラスを食べる人や、ネジやテレビを食べる人もいます。
また、強い他害がある人や、自傷で失明している人もいます。
このように、強度行動障害の人たちでは、ただの他害・自傷ではなく、きわめて難しい状態、もしくは高い頻度でそれらの行為が起こっています。
強度行動障害は、知的障害の程度がかなり重く、自閉症の特徴も強いタイプの人たちに起こる状態像(自傷・他傷・破壊・非衛生的・異食・極端な固執行動等)のこと。
*…知的障害の程度が軽く、自閉症の特徴が強い人たちは、誤学習や問題行動、反社会行動(非行・虞犯・触法行為)と呼ばれるものになります。
■強度行動障害って治るの?
強度行動障害は、生まれ持った障害(一次障害)ではなく、後から付いてくる二次障害です。
自分に合った形で教えられていなかったり、周囲が誤った対応を繰り返すことで行動が激しくなり、その結果として「強度行動障害の状態」になっています。1次障害は治すことはできませんが、二次障害は十分、治療や支援の対象になります。
■どうすればいいの?
中学・高校あたりで行動障害が激しくなる傾向が見られますが、この時期にはもう身体も大きくなっていて対応が難しくなります。
そのため、小学生以前や小学生の時期に適切な関わりをすることが重要です。
現在では、強度行動障害になる前の「予防的支援」の重要性も叫ばれています。
すでに強度行動障害が現れている人では、治すことは難しいですが、軽減するために目標を立てて進めていきます。
そうでなければ、いつしか支援の目的が問題行動を減らすこととなり、そうすると目の前の問題行動を減らしても、また次の新しい問題行動が出てくるだけになってしまいます。
<まとめ>
強度行動障害は、あくまでも知的障害の程度が重く、自閉症の特徴が強いタイプの人たちです。
支援全般に使えるものはないため、このように明確にカテゴリーを分けることが重要です。
強度行動障害を理解する
①発達障害の脳のタイプ
一次障害である発達障害の人たちは、「発達障害の脳のタイプ」として生まれてきます。
左利き・右利き、暑がり・寒がり、甘いものが好き・嫌いなども脳のタイプですが、これと同じで、現在では“個性”や“違い”として捉えられています。
<クイズ>
あなたはジェットコースターのようなスリルのある乗り物は好きですか?嫌いですか?
本研修会では、ジェットコースターのような乗り物が好きだという人は2~3割、嫌いだという人は7~8割いました。
好きだという人は、ここでは少数派の脳のタイプになりますが、好きだという人たちは、嫌いだという人に比べて劣っている人たち、問題行動を抱えている人たちではありません。
それが脳のタイプです。
厳密に言うと、発達障害もそれと同じことですが、そういったタイプの人たちの脳の違いというのは、より日常に近いところで沢山起きています。
非日常のジェットコースターであれば“みんな違ってみんないい”ということで済ませられても、発達障害では「コミュニケーション」や「感覚」、「注目の仕方」という日常の中に違いがあります。
そして、日常に近くなればなるほど、多数派の方が正しいと思ってしまい、「どうしてそんな変なコミュニケーションの取り方をするの?普通はこうだよね」と言ってしまう。
その積み重ねが、強度行動障害や自閉症・発達障害の人の「困り感」につながっていきます。
日常に起きる違いは折り合いがつきにくく、トラブルになったり成功体験になりにくいことがあります。
②どういう支援をすればいいのか?
支援にはいくつも正解がありますが、一つだけうまくいかなくなるやり方が下図のD(多数派のやり方)です。
というのも、発達障害の人は10人に1人くらいいます。
たとえば学校では、他にも色々な国の子どもや、ユニークな特性を持った子たちもいます。
そうすると、D(多数派のやり方)だけではうまくいきません。
とはいえ、A(個別化された支援)では、年齢が上がるにつれ、「このままでいいのか」となったりもします。
小学校3年生ではいいかもしれない、支援学校や支援学級だったらいいかもしれないなど、支援の内容はライフステージや生活する場所によっても変わります。
大事なことは、多数派の人と、少数派の人の「歩み寄り」です。
双方は違う文化であるため、互いを知って歩み寄る。
つまり多数派の人も少数派の人を理解し、一方で少数派の人も多数派の人を少し理解して振る舞うことが重要になってきます。
強度行動障害の支援の場合、多くが「寄り添いすぎた」支援となっています。
例えば、本人に「今日はこれで遊びたいの?」と聞いた際、それがヒットしていると遊び始めますが、そうでなければ「違う」と大暴れします。
こうした「王様の支援」では、本人のご機嫌を伺うしかなく、もう打つ手がありません。
ですから、本人が「今日はこれで遊びたい」と教えてくれればいいわけで、そのための支援が必要となります。
本人から歩み寄るのはコミュニケーションの力、社会性の力であることが多いので、
大人であってもコミュニケーションの支援は非常に重要です。
③支援者に必要なこと
同じ場所・映像を見ても、自閉症や強度行動障害のタイプの人たちでは注目する箇所が違います。
一般的には“人”に注目するという特徴がありますが、自閉症や強度行動障害のタイプの人たちは、人よりも自分の興味関心の強いモノに注目するという特性があります。
これは、脳の中にあるフィルターに違いがあるからです。
異なるフィルターを通しているので、同じ指示でも、理解や感じ方、優先順位の付け方などに違いが出てくる場合があります。
強度行動障害の行動が起きるのは、そのフィルターを通して物事を理解して、誤学習しているからであり、その行動を変えたいのであれば、彼らの個性、特性のフィルターを理解しなければいけません。
理解して、違うやり方を考えるという柔軟な発想ができる支援者になることがとても重要になってきます。
これが自閉症や発達障害、強度行動障害を支援する上において一番重要なことです。
発達障害分類
自閉症では、人や集団との関わりに難しさがあるなど、社会性の特性が中核となります。
また、理解や発信、やり取りが難しいなどのコミュニケーションの特性もあります。見通しが持てなかったり、変化も苦手です。
日常生活において、様々なところに違いが起きているなかで、特に重要なところは「やり取り」の問題で、このあたりの支援が必須となります。
ただ、一人一人まったく異なるために、重要なのは一人一人の様子を見ていくことです。
そうした視点をもって「本人の行動を見る」ことが重要です。そうすると、本人の特徴が見えてきます。
本人の特徴を押さえる際には、「強み」と「弱み」を見るのが大切。
弱みと強みでは支援への活用のされ方が違います。弱みは「配慮」の支援、強みは「プラス」の支援です。
そうすると、例えば、視覚的な情報にすぐ反応する子に対して、「見えたら気になるので隠しましょう」ではなく、
「見て情報を取ることが得意だから、どうやって本人に分かりやすいように見せて伝えるか」というプラスの支援になります。
強度行動障害の人たちはほとんどが配慮の支援しか受けてきていません。
「気になるから隠そう」「あそこには行かないようにしよう」「この人が付かなきゃいけないからキーマンだけで支援をしよう」という形になり、
そうなると配慮の支援から抜け出せなくなります。
行動障害がますます強くなったり、その場所から違う場所に行くことができなくなります。
そこから抜けだすためには、強みの特性を押さえ、「強み」を使った「プラスの支援」を考えていくことが支援において非常に重要となります。
配慮の支援もしつつ、強みをうまく使って支援や活動場所を広げることがQOLを向上させる重要なポイントになります。
アセスメント
①アセスメントとは
アセスメントとは「必要な情報収集」です。
多くの現場では、アセスメントは必ず行われているにもかかわらず、上手く使えていません。
情報収集だけをしていて、「結び付け」が行われていないからです。結び付けるために、情報を収集することが必要です。
例えば知能検査でIQ80と出たとして、学習内容については分かっても、どういった環境を設定したらいいかは分からないわけです。
一方、発達障害に特性のアセスメントをして、刺激に引っ張られてしまいやすい特性があることが分かった場合も、
環境設定については分かっても学習内容に関しては分かりません。
つまり、アセスメントは万能でなく、必ず得意不得意があるものです。
アセスメントの得意なことを知ることが、アセスメントを効果的に使えるようになるための重要なポイントです。
情報を得るためには、アセスメントの持つ意味を意識したり、知ることが大切です。
目標・計画⇒フォーマルアセスメント
・ニーズの整理
・スキルチェック
支援⇒ インフォーマルアセスメント
・特性把握(強みと配慮)
・好きなもの/余暇
▸ニーズアセスメントのポイント
ニーズは目標や取り組みを決める重要な入り口の情報収集
・本人/保護者/支援者の3軸で整理
・いくつかの領域に分けて偏りを防ぐ
・足りない場合は材料を集めてから面談
▸スキルアセスメントのポイント
スキルアセスメントは目標や取り組みを具体的にするために必須な情報収集
・役割分担されている項目
・できる/できそう/今は難しい/やってほしい
・本人が日常できる状態
▸特性アセスメントのポイント
特性アセスメントは、目標や取り組みがうまくいくための支援を考えるのに必要な情報収集
・アセスメントの3つの視点 <客観的/チーム/ユニークな特性>
▸興味関心/モチベーションアセスメントのポイント
興味関心アセスメントは、目標や取り組み、活動がうまくいくために必須な情報収集
・モチベーションや評価のされ方
②強度行動障害の人たちのアセスメントとは
強度行動障害の人たちの場合、上記(全般)のアセスメントだけでは足りません。
不適応行動が出ているので、それについての考察が必要になります。
強度行動障害の人たちのアセスメントで重要なポイントは、不適応行動だけではなく、行動や全体の生活などに注目することです。
例えば、強く「叩く」という問題行動を発している場合、それが休み時間なのか、仕事の時間なのか、ご飯の時間なのかで、叩く理由が全く違うことが多くあります。
そのため、行動を具体的にしていかなければ使えません。すべきことは、まずは「行動を知る」ということです。
人間の行動には、
①適応する行動<青>
②気になる行動<黄>
③止めなければいけない行動<赤>
の3つがあります。
そして、肝心なのは③の行動を止めても、それでストレスが溜まり、別の③の行動を引き起こします。
つまり、③の行動を減らしても、増えるのはまた③の行動となります。
強度行動障害の人たちが例えば4時間を事業所で過ごす場合、この時間軸が変わらない中で、③を減らして、新たな③を増やしても意味がありません。
そのため、①(適応する行動)を増やせばよいことになります。
そうすると、時間軸が変わらない以上、②と③は必然的に減っていきます。
それには下記の<行動整理シート>が使いやすいと思います。
・困っている行動だけではなく、上手くいっている場面も書く
・行動の状況や意味、頻度、周囲の困り感を書く
・現実的な対応方法を書く
こうしたシートを使用して、行動のバランスのアセスメント(上手くいっていることも含む)を取り、
行動自体を細かく書き出すと、解決しやすい③の行動が明らかになります。
たとえば③の行動が10個あり、そのうち3つを解決するだけでも、①の適応時間が3つ増えるということになります。
そうすると本人のストレスはその分下がります。
そうしたターゲット行動が決まると、支援の内容に関するアセスメントに移ります。
こちらに関しては次回の研修で詳しくお話ししますが、問題行動を抑える支援ではなく、強みを上手く使ったプラスの支援も考えて本人のQOLが上がるような支援を考えていくことが重要となります。