【ハラスメント・虐待防止・身体拘束適正化委員会主催】『介護・福祉現場の虐待防止と身体拘束適正化』

虐待防止・身体拘束適正化研修『介護・福祉現場の虐待防止と身体拘束適正化』

開催レポート

2024年10月、ハラスメント・虐待防止委員会では、法定研修として土屋グループの全従業員を対象に、『虐待防止・身体拘束適正化研修』を行いました。

研修会では、虐待・身体拘束を防ぐために必要なポイントと通報制度について、弁護士の外岡氏より現場スタッフの目線に立った講義が行われました。

登壇者

外岡 潤 氏(弁護士法人おかげさま 代表弁護士/株式会社土屋・顧問弁護士)

開催概要

目的: 土屋グループの従業員が、虐待・身体拘束に対する基礎知識と、防止に向けた取組み・対応を学ぶこと。
開催日時: 2024年10月23日
開催場所:オンライン
対象:土屋グループの全従業員
主催:ハラスメント・虐待防止(身体拘束適正化)委員会
委員長:五十嵐憲幸
司会:竹内利文(同委員会 副委員長)

テーマ

<委員長よりご挨拶>
<外岡氏による研修>

「高齢者・障害者虐待と身体拘束についての基礎知識」

1.虐待防止法の最低限押さえるべきポイント
2.虐待防止の心構え
3.身体拘束について検討する3ステップ

<五十嵐憲幸委員長よりご挨拶>

「令和5年度使用者による障害者虐待の状況等」(厚生労働省)によりますと、障害者に対する虐待は増加傾向にあり、土屋グループにおいても虐待・身体拘束に関わる相談件数(第5期:2023年11月~2024年10月)は10件となっています。

その内、虐待と認められ改善を図ったものが2件、身体拘束が認められ未記録であったことより「身体拘束廃止未実施減算」が適応となった事案が1件あり、決して少なくない状況と言えます。

第6期は、ホームケア土屋においてはアテンダント(ヘルパー)の入社増に伴う現場件数の増加が予想され、新規グループホーム等も各地で立ち上がる予定であることから、当委員会では虐待・身体拘束の廃止に向けた取組みに尽力する所存です。

土屋グループの皆さまにおかれましても、虐待ならびに身体拘束についてご認識いただき、ご理解・ご協力をお願いいたします。

<外岡氏による虐待防止・身体拘束適正化研修>
【高齢者・障害者虐待と身体拘束についての基礎知識】

「令和6年 高齢者虐待の実態把握等のための調査研究事業」(厚生労働省)によりますと、令和4年度で虐待の相談・通報件数は2,795件、虐待判断件数は856件と、いずれも右肩上がりで推移しています。

特別養護老人ホームや有料老人ホーム等、入居系で相談・通報件数が多くなっていますが、訪問系サービスでも全く起きていないわけではありません。

虐待の種類としては、「身体的虐待」(殴る・蹴るなど)が最も多く、次いで「心理的虐待」(人格や尊厳を傷つけるような言葉の暴力)が挙げられています。

原因としては、「教育・知識・介護技術等に関する問題」が一番強く課題として認識されており、それぞれの職員が内部研修を通して繰り返し理解を深めることが、虐待を抑えるためにも大切です。

本研修では、「虐待防止法」および「身体拘束廃止・防止の手引き」に沿って、虐待・身体拘束の予防に向けての基礎知識ならびに通報制度についてお伝えします。

1.虐待防止法の最低限押さえるべきポイント

■虐待予防の基礎~「類型」と「定義」~


虐待を予防するためには、「高齢者虐待防止法」ならびに「障害者虐待防止法」に定められている「類型」「定義」を知ることが重要です。

「類型」にはどんな種類があるか、そして「定義」は法律の条文上どのように規定されているかを押さえ、現場で虐待が起きている場合に、「これはもしかしたら虐待ではないか」と気づいて判断できることが大切です。

これは現場で働いているスタッフにしかできないことでもあり、皆さんご自身がクライアントを守る目を持つことが、虐待を防止する上で非常に重要な鍵となります。

▸高齢者虐待の5つの「類型」

・身体的虐待
・心理的虐待
・経済的虐待
・性的虐待
・ネグレクト(介護・世話の放棄・放任)

虐待には上記の5種類があります。

これを念頭に置いた上で、現場でクライアントや周りの方々と関わり、その中で「これは〇〇的虐待じゃないか?」とピンとくることが、虐待防止に向けた第一歩となります。

まずは5種類ある虐待をイメージで頭にインストールしていただければと思います。

虐待の「定義」 (高齢者虐待防止法 第二条)

イ 身体的虐待
高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること

障害者虐待防止法の場合には「違法な身体拘束」も明記されていますが、高齢者においても、身体拘束が違法なものであれば身体的虐待と解釈されます。

ロ ネグレクト
高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること

ご利用者の要求にすぐに対応できなかったり、忘れてしまったなどがあったとしても、それが1、2回であれば“著しい放棄”とは言えないため「虐待ではない」と判断できます。

一方、忙しいからとナースコールをご利用者の手が届かない所に置くなどを恒常的に行えば虐待と認定されます。

ハ 心理的虐待
高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと

「著しい」という文言にもある通り、よほどひどい暴言、トラウマになるような言動をすれば心理的虐待となります。

一方、ご利用者と仲良くなって、冗談を言い合うような関係であっても、後々クライアントから「実は傷ついていた」などとクレームが来るケースがあります。

それが虐待に当たるのかを考える場合、この「定義」に照らし合わせ、一般的に見てひどい言葉を投げかけたわけではなければ「著しい」に当たらないので虐待ではないと判断することができます。

二 性的虐待
高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること

トラブルになるケースに清拭、なかでも異性介助による陰部洗浄があります。

条文の規定に「わいせつな行為」とあるように、通常決められている計画通りの手順で、他の人と全く同じ方法で行っていれば、わいせつな行為ではないと言えるため、性的虐待でないと判断できます。

ホ 経済的虐待
高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること

各家庭では、ご家族が金銭を管理している場合も良く見受けられます。
ご利用者の障害年金をご家族が使い込んでいる可能性があっても、お金の流れは外から見えないため、判断の難しさがあります。

もし皆さんが「このご利用者はいつも食べ物も少ないし、服も買ってもらえていないみたいで気の毒だな」と感じた時には、「お金を取り上げる、使わせないということが定義にあったけど、これって経済的虐待じゃないかな」とピンときていただければと思います。

■虐待防止法における通報義務

「高齢者虐待防止法」・「障害者虐待防止法」

対象:養護者(家族)および事業所(施設)職員
内容:虐待の防止等のための責務を課す。

⇒虐待を受けたと思われる高齢者・障害者を発見した際の、市区町村への通報義務

「高齢者虐待防止法」(第二十一条)には、虐待を受けたと思われる高齢者・障害者を発見した際の、市区町村への通報義務が明記されています。

つまり法律では、実際に虐待の場面を目撃していなくても、状況的に虐待があったと思われる段階で通報してよいことになっています。

例えば、「介助中にあざを見つけたけれども、どうも自分でぶつけたというわけではなさそうだ。ご家族からも説明がなくて怪しい。

他にも何かおびえているようなそぶりがあるので、虐待を受けたのではないか」と感じた場合には、事業所に持ち帰って話し合うのもいいですが、法律が求めていることは、「虐待を受けたと思われる高齢者・障害者の方を発見したときには、市町村に報告しなければならない」ということです。


虐待防止法上の通報は、警察への通報とは意味合いが異なり、少しでも虐待の疑いがある最初の段階で役所にも知ってもらい、高齢者・障害者の方が不利益を受けたり、怖い思いをしないように守っていくという考えの下にあります。

ただし、「実際に障害者の方に手を上げていた」、「あざができて、このままでは命も危ないのではないか」などという場合は、躊躇せずに役所に直接通報することをこれらの法律は求めています。

<ポイント>

①5つの「類型」と「定義」を頭に入れて、現場で起きていることに「気づき」、「判断」できることが重要です!

②虐待を見つけたら、身近な上長や施設長、管理者にすぐに報告しましょう。虐待かどうか迷うときも、上長等に報告・相談しましょう。

<虐待防止に向けたレッスン>

基本的に、虐待か、虐待でないかについて、皆さんが現場で感じる直感は正しいと思いますが、それを言葉で説明するものが「類型」「定義」です。

まずは5種類の類型のうち「どの虐待に当たる可能性があるか」を考え、次に「条文には何と書いてあるか」と、定義と照らし合わすことで判断できるようになることが大事です。

もちろん一人で判断する必要はなく、上司に報告・相談をするなどで、みなで考えて決めていけばいいと思います。

〇 Lesson1

訪問先で、ご利用者と家族の距離が近く、ご利用者の頭を家族が笑いながら小突いた。けれどもご利用者も叩き返していた。

①類型に当てはめる
⇒「身体的虐待」の可能性が考えられる
②条文を見る
⇒「ご利用者が怪我をするような暴行」とある
③判断する
⇒笑いながら小突くくらいであれば身体的虐待とまでは言えないので、虐待の認定でいうと、通報するほどではない。

だたし、状況から見てあまりに乱暴ということがあれば通報する必要があるかもしれませんし、少なくともそういったことはなるべく控えるようにアプローチすることが必要と思われます。

〇 Lesson2

ご利用者をあだ名で呼んでいる。あるいは、クライアントから「○○ちゃんと呼んでほしい」と言われ、あだ名で呼んでいた。

①類型に当てはめる
⇒「心理的虐待」の可能性が考えられる
②条文を見る
⇒「著しく」とある
③判断する
⇒著しい暴言ではないため、心理的虐待とは言えない

ただし、あからさまに相手をけなすような命名であれば心理的虐待になります。

〇 Lesson3

利用者が嫌がるので、4日間入浴させなかった。

①類型に当てはめる
⇒「ネグレクト」の可能性が考えられる
②条文を見る
⇒「著しく」怠ったとある
③判断する
⇒「お湯に入るのが嫌」というのが入浴しない理由だったので、代わりに清拭をしていた。

あるいは、カンファレンスやご家族の間で、お風呂に入らないことを課題として話し合っていた。事業所として気にしていたわけなので放棄とは言えない

2.虐待防止の心構え

介護事業者においては、アテンダントがご利用者に虐待をしてしまった場合、市町村が都道府県と連携して調査し、介護保険法や障害者総合支援法に基づいて監査が行われます。

事実であれば、公表・改善命令等、ペナルティが課されることもあります。

虐待についての世間の目が非常に厳しくなってきている中でこうした事件が起きると、マスコミにも注目され、いろいろな悪影響、不具合が発生します。

■現場で絶対に起こしてはならないこと

法律には障害者総合支援法もあれば刑法もあります。
身体的虐待がエスカレートすると、刑法の範疇である「傷害罪」や「殺人罪」にもなります。

現場で絶対に起こしてはならないことは、こうした「刑事罰相当」の虐待です。
つまり、あるクライアントを叩いてしまったというケースでは、虐待防止法のフィルターで見れば身体的虐待ですが、刑法では傷害罪や暴行罪となります。

このうち、暴行罪は暴力とまでは言えないようなものであっても、怪我をさせるに至らなければ認定され、成立する範囲が広いものでもあります。

例えば、ご利用者と仲良くなったので、歩行の介助をしている時におでこを指でちょこんと突いたら、ご利用者がバランスを崩して転んでしまったという事件もあり、たとえふざけ半分でも絶対にしてはいけません。

それが身体的虐待だけではなく、暴行罪という犯罪で刑事事件になってしまう恐れもあります。

■虐待の線引きの仕方

虐待はグレーゾーンが広く、「どこで線引きをすべきか」については、「尊厳」という言葉が重きをなすと考えます。

それを法律で定めているのが憲法第13条であり、そこには「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と明記されています。

なぜ虐待・身体拘束がいけないのかといえば、それが相手の人格を傷つけて、「尊厳」を奪う行為だからです。

ですから線引きとしては、その行為に「害意」という、相手を害する意図(憎しみ・敵意・危害を加えようとする邪悪な心)が現れているかで判断できると思います。

心理的虐待など判断が難しいケースでは、ご利用者に対して投げかけた言葉の背景・意図が重要です。

和ませようと思って言ったが、普段も同様のやりとりをしていたなどであれば、いじめや邪悪な心はないようだと判断できますし、相手の障害や特徴をあげつらってバカにしていたのであれば害意の現れと言えます。

たとえ本人にそこまでの意図はなかったとしても、相手の尊厳をどう考えているのかを見直す必要があると思います。

虐待の線引きとして、そのような見極め方が根底にあればいいと思います。

<ポイント>

虐待予防は接遇(マナー)から!認知症・障害を持たれていない方であれば「どう感じるか」、一般人の感覚、センスを大切にしましょう。

部屋をノックしてから入る、テレビを見ている前を黙って横切らないなど、日々の細かい配慮の積み重ねが重要です。

自分がされたくないことはしないこと!相手の尊厳を大切にすることが虐待の一番の予防です。

3.身体拘束について検討する3ステップ

現場においては、動いて怪我をしてしまう、チューブを抜いてしまうなどの思いがけない事故を予防するために、やむを得ず拘束することがどうしてもあるかもしれません。

どうすれば、この拘束が例外的に許されるのか、それを検討するための3つのステップがあります。

■「身体拘束廃止・防止の手引き」

令和6年3月、厚労省のガイドライン「身体拘束廃止・防止の手引き」がリニューアルされました。

<注目ポイント>

・身体拘束の定義を「本人の行動の自由を制限すること」に変更
・「尊厳の保持」と「自立支援」の実現への考え方を追加
・在宅で家族が行う場合も身体拘束であると明言

身体拘束の対象となる具体的な行為(例)

(「身体拘束ゼロへの手引き」平成13年3月 厚生労働省より抜粋)

①一人歩きしないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
②転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
③自分で降りられないように、ベッドを網(サイドレール)で囲む。
④点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
⑤点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、また皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手装等をつける。
⑥車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける。
⑦立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する。
⑧脱衣やオムツはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
⑨他人への迷惑行為を防ぐために、ベッド等に体幹や四肢をひも等で縛る。
⑩行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
⑪自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。

*他にも身体拘束に該当する行為があることには注意が必要

身体拘束の定義は、はっきりと法律で決まっているわけではありません。

例えば、ご利用者のベッドにセンサーマットを設置する(センサーがなると職員が駆け付け、ご利用者が歩き出そうとするのを制止するため)ことが

身体拘束に該当するかに関しても、厚労省のガイドラインには書いていないものの該当しないとは限りません。

では、どのようにして、その行為が身体拘束に当たるかどうかを判断すればよいでしょうか。

▸外岡流・身体拘束の定義

外岡氏が考える身体拘束の定義…
「特定の利用者」の「行動の自由」の一部又は全部を「直接的」に制限する行為

「直接的に制限」とは、対象となる行動を制限することを主目的としている場合を指します。

ですから、いわゆるドラッグロックは、強度行動障害の方の行動や多動行為等を制限する目的で向精神薬を過剰に服用させる場合に成立します。

一方、センサー・カメラは特定の利用者の行動の自由を結果的に制約する可能性はありますが、

直接的に制限するものではないため、身体拘束には当たりません。

もっとも、使い方や目的次第でトータルでみて拘束に当たる可能性はあります。

■身体拘束が許容されるための3要件

身体拘束に該当しても、それが例外的に許される場合があります。その3つの要件が「切迫性」、「非代替性」、「一時性」です。

1.切迫性
利用者本人または他の利用者等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと
2.非代替性
身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと
3.一時性
身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること

この3つの要件をすべて満たす場合に、例外的な扱いとして身体拘束が許容されます。
ただし、これらを身体拘束廃止委員会などのチームで検討・確認して「記録」しておくことが大切です。

<3要件を当てはめてみよう>

例:
グループホームで夜勤職員が利用者の居室の引き戸にモップを固定して、開かないようにした。

室内に設置した見守りカメラの様子から、家族が異変を察知し発覚した。
>職員は「玄関から外出してしまう危険性があった。

夜間の階段の上り下りの危険性から、独自に判断し実施した」と話している。

①切迫性…利用者はその日に限って危険が迫っているわけではないので認め難い

②非代替性…外部から拘束以外にも方法はある

③一時性…夜通し拘束していたのであれば一時的とはいえない

 ⇒要件を満たさないので違法な身体拘束、虐待と認定されると思われる。

身体拘束は一人では判断しづらいので、個人でなく組織で常に検討し、ご本人や家族に説明して合意を得る必要もあります。

また、日々の記録もしっかりつける必要があります。

■検討・確認・記録のポイント

検討…個人ではなく組織(身体拘束適正化委員会等)で検討する。早期の解除に向けた検討も。
確認…本人・家族への説明と同意
記録…日々の記録(身体拘束の態様/時間/拘束されている利用者の心身の状況/緊急やむを得なかった理由)

<身体拘束の対応チャート>

<ポイント>

身体拘束について検討する3ステップは「切迫性」、「非代替性」、「一時性」。

組織で検討し、本人・ご家族の合意を取得した上で、日々の記録を付けることが重要です。
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