福祉防災シンポジウム2024 レポート
令和6年6月17日(月)
作成者:SDGs推進部 防災委員会 原香織
シンポジウム講演情報の詳細
【開催日時】
2024年6月9日(日)13:00~15:30
【開催方式】
現地開催(東京都慰霊堂)、オンライン開催(ZoomWebiner)
【当日の参加者】
現地開催(スタッフ以外:27名)、Zoom参加(61名)
土屋スタッフ:19名、映像音響配信スタッフ:6名、手話通訳者:2名
※当日資料&動画を後日、土屋防災委員会研修にて全社員(2500名)に周知予定
【講演者】
中林 一樹氏(東京都立大学名誉教授、首都防災ウィーク実行委員会)
立木 茂雄氏(同志社大学 社会学部社会学科)
岡野谷 純氏(NPO法人 日本ファーストエイドソサエティ 代表理事)
古本 聡(株式会社土屋 取締役、防災委員会 副委員長)
原 香織(株式会社土屋 災害対策アドバイザー)
【パネルディスカッション】
コーディネーター:岡田千秋(株式会社土屋 取締役、防災委員会 委員長)、講演者全員
講演内容
登壇者:古本聡、原香織「介護福祉事業者である土屋の防災観・障害当事者として防災に取り組む」
「介護福祉事業者である土屋の防災観・障害当事者として防災に取り組む」土屋で災害に備えて行っている対策、昨年、今年の受賞やメディア掲載について。
●主な災害対策として、職員向けに独自で作成している「緊急アンテナBOOK」
●クライアント向けに作成をしている「災害対応パーソナルBOOK(地震編、水害・火災・生物剤・化学剤・放射性物質)」についての説明と、実際にそれを用いて災害対応訓練を実施している様子(頸椎損傷クライアント宅での水害時垂直避難の際の移動方法、ご家族3名が視覚障害者宅での水害に備えての準備と福祉避難所への避難)を動画共有。
●安否確認の仕方についてアプリ3種(安否確認システムBiz、チャットワーク、LINEグループ)の紹介、アプリや通常の電話回線がスムーズに使えない時の為に「災害伝言ダイヤル171」を職員間の連絡連携だけでなく、個別避難計画内での他事業所、ご家族との間の連絡にも使用している。
●BCP作成について(敢えて2段階に分けて作成をし、簡易BCP→本格BCPへと移行した)
●2023年4月、「『災害対応パーソナルBOOK』を活用した、みんなで助かる防災」が第9回「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靱化大賞)<準グランプリ・金賞>を受賞し、新たな繋がりのきっかけになっていることへの感謝を示した。
●2024年4月、内閣官房国土強靭化室発行の「民間の取組み事例集」に掲載されたこと、Webサイトで掲載されていることをお伝えした。
●まとめ、個々人の災害への心構えと周囲との繋がり強化により「みんなが繋がる防災」をこれからも実現していきたい。
登壇者:中林一樹氏「関東大震災100年、その時何が起き、いま必要なことは?」
関東大震災から101年目、関東大震災だけでなく、阪神淡路大震災、東日本大震災の被災データと、会場である東京都横網町公園一帯での当時の被害、その時身元不明となった方のご遺骨がここ東京都慰霊堂へ納めされているということ等が語られた。
関東大震災での死者のうち88%が火災による死者、阪神大震災は就寝時間帯での被災であった為、死者のうち9割強が自宅でなくなられた。
東日本大震災での死者は97%が津波による死者。地震災害でもそれぞれ命を奪う原因が異なっていた。
当時の東京は現在に比べて人口が密集している範囲が狭く、現在との大きな違いは若者が多く、平均寿命も現在の半分くらいだった。
そして、現在との大きな違いは9割以上が借家であり、避難の際に家財道具をみんなが持ち出した為、燃えやすくなり火災旋風をおこすことになり3日に渡る火災により焼き尽くされた。
現在の東京では当時程の人的被害はないが、まだまだ木造密集地もあり、火を見ずして避難できるかどうかが火災被害を減らすキーポイントになる。
共助という言葉が防災で多く使われるようになったのは阪神淡路大震災で、この時2/3の人が共助で助かった。
現在のスーパー高齢化(1/3以上が高齢者)の中、水害・地震で直接死、関連死が増えるが、地震の場合はそれが顕著で、その原因は逃げる時間が全くない為である。
ボランティアの力が阪神淡路大震災以降強くなっているが、現代の高齢化社会の中では、平時と災害時をシームレスに移行できるボランティアが必要。
- 「個別避難計画」の作成
- 社会福祉施設の「避難確保計画」の課題
避難先でどのように避難を確保するのかも現代の災害で命を守る、資源を確保する、大きな課題。
登壇者:立木茂雄氏「福祉専門職と共に進める“誰一人取り残さない防災”」
土屋は、福祉と防災を一緒に考えているという事で感銘を受けた。今までは、防災と福祉は全く関係しないと思われていたが、福祉と防災は一緒に考えないといけない。
2018年7月の西日本豪雨で51名が死亡、うち避難行動要支援者が42名。(三宅遥・愛さん動画)
災害が起こるたびにみなさんの利用者さんのような方々が被害を受ける。もっと面的に発生したのが東日本大震災、それを全体死亡率と障害者死亡率データを比較解説。
自立生活ができる社会基盤が整っていた宮城県で多く亡くなった。その原因は、福祉では平時のことしか考えられておらず、いざという時の備えに関しては防災・危機管理がやる事だ、と分断されていた。
入所施設に入っていて被害にあった人の数も宮城県が多い。その原因は、まとまった土地が手に入り地価が安いが危険な場所、定期的に津波が襲ってくる場所だったこと。
2023年より都市計画法の改正により、人の集まる施設は危険な場所に建ててはいけないとされた。
【根本的解決】
平時・災害時を切れ目なくつなげる(防災と福祉の連携)
【防災の基本的な視点】
危険度と社会の脆弱性が合わさった時、災害が発生(社会的に作られる)災害は「社会現象」。
別府の取組みは、根本的な問題に抜本的な解決策を(平時の福祉・災害時の福祉・危機管理を連結)
- 地域でケース会議(災害時ケアプラン調整会議)
- 当事者参加型
- 作る時に福祉専門職が仕事として関わる
目標設定、災害で生き延びる力をつけたい、家族・当事者の防災リテラシーを高めたい。リテラシーを高める事で人はより早く非難行動ができる。
SONAEというアプリを開発した、そこには「ハザードマップ」、「安心防災帳」、「私の行動のタイムライン」を入れ込み、防災リテラシーを高め、それを基に地域との調整会議を行う。(別府市の取組みの動画)実際に避難訓練をやる事が大事、そこで改善策を出す。
立木研究室では、色々なキャラを作り、避難訓練を試している。マンツーマン支援、ゾーン支援、まるで計画がない時はどうするか?マンツーマン支援からゾーン支援にすることで、みんなで声を掛け合い一緒に逃げる方が合理的。
災害時の当事者に対する合理的配慮の提供になる。合理的配慮は防災ではなかなか難しかったところだが、その人の状況に応じてその場にある資源を提供する事が必要。
2021年5月災害対策基本法が改正され、内閣府(防災)で個別避難計画の努力義務化、2024年4月からは民間事業者全てが義務化。
多くの日本の自治体では地方交付税措置として、福祉専門職が個別避難計画策定に関与すると1件当たり7000円国庫から報酬されるというものもある。
世の中は、土屋が始めていることに制度的には追いついて来ているが、それが広がれば良い。
【パネルディスカッション内容】テーマ:障害者の避難について 岡田、立木氏、中林氏、古本、原
はじめに、本年1月1日の能登半島地震時の被災地近郊の土屋事業所(福井、富山、石川)の初動対応とBCP作成をしていた意義がコーディネーター岡田より話され、立木氏へ「実際に合った事例など絡めて」を伺った。
立木氏:奥能登(輪島市、珠洲市、能登町、鼻水町)に関わっているが、被災時、電気も通信も止まっていた。
BCPの義務化になり皆さん取組んでいるが、土屋のまずはBCPの考え方を浸透させるのは良いやり方。(能登の動画共有。能登の石川の入所施設で実際何が起きたか)
管理者がずっと泊まり込みで入所者のケアしたものの、その場での支援が困難と県が判断、一斉に100人強の入所者の避難受入れ先の調整。
外に利用者を出した時点で報酬が入らなくなる、2・3・4月報酬がないまま雇用調整助成金などを利用して社会保険などは支払われてきたが、毎月400~500万出ていく。その後、出ていった人の半分は戻ってこない想定。
自事業所でどのようなハザードが想定されていて、どのくらいの確率で災害が起きるか、被害の規模はどれくらいか?をリスクマップにし、BCPの前段として作成、生き延びる事を可能にする事業とはどんなものかを考える必要がある。
災害関連死を生じさせない為に利用者を外に出したが、その時点で収入が途絶える事を考えていなかった。分析、検討して、戦略を立てる事を本気になって考え続けなければならない、というのが現在の輪島の状況です。
岡田:BCPは義務だから、減算になるから取り敢えずやろうという考え方があるが、そのままだと災害が発生した際に対応できない。その為に土屋の中でもBCMとして考えている所、古本に現段階の考えを聞く。
古本:マネージメントにBCPが活かせているかというと問題点があるが、2段階に分けて下地を作っていき、社員の理解を得られたのは大きい。
岡田:土屋のBCPは簡易BCPから入り、絵に描いた餅にならないように始めた。そこで1日でも止めてはいけない事業だという事を現場のマネージャーやアテンダントに知って貰うことから始めていった。
そこから本格的なBCPに取組み、社内全体でやれたことは良かった。能登周辺事業所のマネージャーも最初は他人事のようだったが、実際の被害があり、「考えていたことがどれだけ大事な事だったか」を感想で言ってくれ、自分たちがやって来た方向性が間違っていなかったと思えた。
中林氏へ質問、場所・地域によって異なる災害状況になると思うが、どの様に思われるか?
中林氏:災害は地面が揺れる事ではなく、家が壊れる事。コンクリート造が良くて木造が悪いというものでもなく、木造だと壊れてもすぐ直せるという特質もある。
使いやすく継続しやすい災害時に於いても日常使いとしても相応しい建物を造るのが基本。BCPを防災だと思っている人が多い、特に行政がBCP(業務継続計画)という言葉を使うようになりそう思われているが、企業は「事業継続計画」で考える必要がある。
水や食べ物の準備も必要だが、それがずっと継続して支援ができるようにどう防災するかを考えないといけない。
岡田:腑に落ちた。もう一つ、立木氏に質問。避難した後のこと、避難所では自助でやっていかないといけない。特に障害のある方などは電気機器を使うことが多いが、全国的な避難所の状況は?
立木氏:災害対策基本法の改正で、個別避難計画の中で福祉避難所へ直接避難しても良い事になったので指定避難所へは行かず、予めサポートが受けられるところへ直接避難して良い。
個別避難計画を避難する事だけに終わらせず、サービスを継続する為にシェルタリングも計画に入れて欲しい。ICFでやるべきことが形式化できるので、分けて考えてはいけない。
尊厳を守る事、ウェルビーイングを維持する事、それを続けるにはどうしたら良いかを全ての枠組みの中で考えて欲しい。
中林氏:避難というのが日本の場合こんがらがり易い。「避難所(生活する場所)」・「避難場所(逃げる為の場所)」。支援が必要な人が行くところが「福祉避難所」、お家で避難すること「在宅避難」。
家の安全確保をし、その人が生き延びていけるように関連死をおこさないよう計画するのがBCMでありBCPである。
岡田:非常に有意義なお話でした。いま土屋では在宅での避難という所をやっていますが、もう一歩やっていかないといけないと思うのですが原さんどうですか?
原:土屋では「避難訓練」ではなく「災害対応訓練」と言っていて、逃げても良いし逃げなくても良い、その方の状況の中で色々なリスクを考え、災害時にどう対応するかを考え実際に動いてみることを当事者、近隣住民を交えてやっているが、現状、まだ進み切っていない為、先生方のご協力も得ながら進めていけたらと思う。