土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)
はじめまして、秦 明雄と申します。
東京生まれの東京育ち、現在49歳で愛する妻と高校2年生の息子がいます。大学卒業後、金融機関で2年間勤めて介護とは無縁の業界に転職しました。その後、約20年以上にわたり店舗経営と人材育成コンサルティングの仕事をしている私にとって、介護業界は別次元の世界に映っていました。ましてや家族や周りに介護を必要とする人が誰一人いなかったから尚更です。そんな私がなぜ今からちょうど1年半前に、介護の世界へ飛び込んだのか。その決断には大きく2つの強い動機がありました。
まず1つ目は「業界で働く人たちの社会的地位を向上させたい!」。そして2つ目は「これからの日本がさらに超高齢化社会を迎えるにあたって、介護業界が抱える問題や課題を少しでも解決できる一翼を担いたい!」という思いで、未知なる世界へ飛び込んだのを昨日のように思い出します。
仕事を始めてから半年間はクライアント宅へ伺うたび、初めて乗るジェットコースターのように期待と不安の中で衝撃を受けながら、目まぐるしい毎日を過ごしていました。その毎日は長年にわたって趣味の一つである坐禅を忘れてしまうほど、あっという間の時間でした。そして半年が過ぎて医療的ケアにも慣れ、少しずつ重度訪問介護という仕事の輪郭がうっすらと見え始めた頃、私の心の奥底から繰り返し叫び声のような問いかけが始まったのです。
それは昨今の大きな時代変化に伴うさまざまな社会環境や、時代の流れとともに移り行く人間の価値観なども照らし合わせ、「何をもって良い人生といえるのだろうか」という迷宮入りするような自問でした。
ちなみに私たちの誰もが、少しでも良い人生を歩みたいと思っているのではないでしょうか。もちろん私も心からそう思っている一人です。今でもクライアント宅へ訪問させていただき、重度の障害をもったご本人や懸命に介護をなさっているご家族の方と関わる中で、人間はこの世に生まれて与えられた命とどう向き合い、そしてどう生きていくのかということに対して、いろいろな感情が掻き立てられます。
そんな心境の中で、いつも通り仕事が終わった帰りの電車での出来事です。私は新宿駅から山手線に乗ったのですが乗車した瞬間、車内でものすごい音がしていたのです。何かと思ったら、座っていた40代くらいの男性が顔を上に向けて口を大きく開けながら爆音でいびきをしていたのです。周囲の人たちは険悪な表情でその男性を見ていて、付近一帯が重い雰囲気で包まれている中、恵比寿駅から外国人の男女4人が乗ってきて、その中の女性がいびきをかいている男性を見たとたん、大爆笑しながらWonderful(素晴らしい)と!
その場面を目の当たりにしていた私は、険悪な人たちと大爆笑をしている外国人たちの、あまりにも真逆な反応に思わず笑いをこらえながら、大袈裟かもしれませんが、ある意味で現実世界の真理を垣間見た感じがしました。と申しますのも、私たちの人間社会では善悪、優劣、勝ち負け、損得、好き嫌いなど背反する二元論の概念が基本的原理として働いています。つまり事柄は同じでも受け取り方や解釈、感じ方の違いで体験や経験そのものが全く変わるということです。
ちなみに私は無宗教ですし、ここで哲学的なことや精神論を諭すつもりは毛頭ございません。しかし現在、世界に先駆けて超高齢化社会を迎えている日本が歩んでいくこれからの道のりは多くの社会的な問題や課題が山積しています。しかし二元論ではなく、総合的に多様性を容認し、肯定する概念の多元論で新しい理想の社会を創造していける力が日本にはあると私は信じています。そして、ただ信じるだけの他力本願ではなくて今の私にできることは何か。
冒頭で少し触れましたが、私の趣味の一つに坐禅があります。禅との出合いはちょうど27歳のときでした。大学卒業後、満身創痍でがむしゃらに仕事に取り組み血尿を出しながら、また吐血寸前の状態でも結果最優先でとにかく目標達成だけをモチベーションに働いた結果、どんなに結果を達成しても満たされない欲望に囚われ、誰もが本来は兼ね備えている人間の本質である優しさ、思いやり、無条件の愛を見失っている自分に気づいて坐禅を始めたのがきっかけでした。当時もがいていた27歳の若造が直観的にその教えに心惹かれ、とにかく今よりもっと幸せに生きたいと縋る思いから、坐禅を始めたのを今でも鮮明に覚えています。
禅には奥深い実践の教えがいくつもあります。たとえば「只管打坐(しかんたざ)」「眼横鼻直(がんのうびちょく)」「照顧脚下(しょうこきゃっか)」「空手還郷(くうしゅげんきょう)」など。そして数多くある禅語の中でも、私がクライアントと接しているときによく頭を過ぎる禅語が、禅の基本的な考え方である「即今、当処、自己(そっこん、とうしょ、じこ)」です。また壁にぶち当たって苦しいときには「即今、当処、自己」の教えを、心を鎮めて自分に言い聞かせます。この教えは「今、その瞬間に自分がいるその場所で、自分ができることを精一杯やっていく」という意味で、命を全うするというのは正しくそういうことなんだと自らを奮い立たせるのです。
末筆となりますが、介護業界での一翼を担えるよう「即今、当処、自己」を実践して参ります。最後までお読みいただき深謝いたします。
秦 明雄(はた あきお)
ホームケア土屋 関東