地域で生きる/22年目の地域生活奮闘記94~税金の正しい使い道について思う事~ / 渡邉由美子

最近、よく考えることがあります。例えば重度障がい者に限らず、今この日本社会で人権が保障されている人はどれほどいるのだろうかといったことです。

そんな時、某市の知的障がいや身体障がいを持つ人たちが自ら役者となって、人権や平和について演じる舞台を観る機会がありました。演劇を生で観ることができれば、もっと深くリアリティのあるものに感じると思います。しかし忙しい日常の中で現地に赴く時間を確保しようとすると、日々の生活が立ち行かなくなってしまいます。そこでZOOM配信を活用して、この舞台を観劇しました。

この舞台は毎回、テーマが異なります。重い障がいをもつ人たちが社会に重度障がい者の存在を知り、正しい理解をもってもらいたいと伝え続けるために、何ヵ月も練習を重ね、本番にのぞみます。2時間半にも及ぶ演劇はとても素晴らしく、次世代を担う子供たちにフルインクルーシブ教育の大切さを説く内容であったと感じました。

本来ならば仲間内だけで観劇するのではなく、重度障がい者を見たことも聞いたこともない人たちに観てもらいたいと思います。障がい当事者が自分たちで演じ、自らメッセージを伝えていくこの演劇の存在をより多くの人に知ってもらいたいですし、そのために私に何ができるのかを考えていきたいです。

それからこの演劇を市の事業として市長はじめ、各部署の職員の方たちが時間外の夜にも関わらず、最初から最後までフルサポートして、地元の小学校の児童やもっと小さな子供たちが演劇を通じて障がい者問題に関わる機会を自然に作っていることがまた素晴らしいところなのです。

日常的な関わりの中で、関係性が深く出来上がっていなければ、並大抵でできることではありません。それは私が日々行政と関わる中でそこまで深い関係性を築けずにいる経験から容易に理解できることなのです。

少し話題は変わりますが、この原稿を書いている現在、ネット上は、物価の高騰による生活困窮者の救済策として国から給付金が支給されるという話題で持ちきりです。この秋にも非課税所帯やそれに準ずる生活に陥っている人々にプッシュ型で給付金が配られるようです。

そんなニュースを耳にしながら、先日、大学生が奨学金返済のために詐欺に遭い、最終的には帰らぬ人となったという事件を思い出しました。その大学生は事情があって奨学金を返すことが厳しくなり、友人からもちかけられた投資話に乗ったそうです。ところがその投資は詐欺で、150万円の借金を抱えてしまいました。命の重さと比べればほんの少ない額の借金が返せなくなったことを苦に、その大学生は命を絶ってしまったのです。

だます人が悪いということは言うまでもありませんが、私は学校を卒業してから何年もかけて返さなければ学びを保障されないという奨学金制度そのものに疑問を抱き、制度自体を変えていかなければならないと思います。その学生は「奨学金を早く返して、親を楽にさせたかった」という遺書をのこしてこの世を去っているのですから。

また、重度障がいがあることで日常生活に全面的な介助が必要であっても、高い学力をもつ人はたくさんいます。しかしそのような人たちの多くは、たとえ奨学金を借りて学ぶことができたとしても、将来、その借金を返せるほどの仕事ができそうもないという理由で進学を断念せざるを得ないのです。

このようにやりたいことがあってもそれを可能にする制度や支援体制がないに等しい今の日本社会の中では、生活困窮者の万人がその状態から自ら抜け出すこともむずかしければ、安定した生活を維持し続けることなど到底できないと考えてしまいます。

話が広がりすぎてしまうので詳細は省きますが、国の税金の在り方についても日々、疑問を感じずにはいられません。たとえば安倍元首相の国葬にかかる費用についても、2億円という額を耳にした当初ですら「そんな馬鹿な」と思っていましたが、今や16億円という莫大な費用をかけて国葬が行われようとしていることに驚きを隠せません。

給付金に関しては、本当に困っている人にとってはとてもありがたいものであることは事実です。ただ公費の使い道はもっと他にあるのではと感じます。先日の幼稚園バスに園児が取り残された事件についても、海外では「Leave No Student Behind(生徒をだれも置き去りにしない)」というスローガンのもとに、事件の防止対策がとられています。ある国ではバスのエンジンを切るとアラーム音が鳴り響き、後ろの席までくまなくチェックしてスイッチを消さないとその音が止まないといった装置が取り付けられているそうです。

「二度と同じことが起こらないように」とただただ言うのではなく、再発を防止する対策を講じるために公費がきちんと充填されているのです。

今の日本は内閣支持率の下落を止めるために困窮対策の給付金を支払うなどというような感じがあります。本当に生活に困っている人を助ける対策を講じるのではなく、単なる政治家の支持率稼ぎのための施策で終わってしまっているというのが現状であり、給付額や対象世帯も迷走しています。

一時しのぎの施策ではなく、「最終的には国が守ってくれる」と思える一本筋の通った施策を、人権や生存権の保障という観点でしてほしいと願います。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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