【認知症ケア事例】グループホーム入居中の認知症高齢者の個性への向き合い方とは?

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認知症の高齢者がグループホームで過ごす中で、どのように個性を尊重していくかは非常に重要なケアの課題です。
「個性の尊重がいかにして生活の質(QOL)の向上に繋がるのか」を、事例を通して解説していきます。
グループホームで認知症患者さん(入居者さん)のケアを行う看護師や介護士、グループホームへの入居を検討されている方やそのご家族の方は、ぜひ最後までお読みください。

グループホームとは?

実際の事例考察に入る前に、事前知識として「グループホーム」について知識を深めておきましょう。
グループホームは、高齢者が共同生活を送ることができる介護施設です。通常、6〜10人程度の少人数で暮らし、個室や共用スペースを利用しながら、家庭的な雰囲気の中で生活することができます。

高齢者の入居が基本となることから、認知機能が低下している方や認知症の方の利用も多く、グループホーム運営では、認知症ケアが必須になります。

グループホームのメリット

グループホームのメリットには以下のようなものがあります。

24時間の介護サポート

グループホームでは、専門の介護スタッフが24時間体制でサポートを提供します。認知症の高齢者に対して、日常生活の手助けや、食事や入浴などの介助、薬の管理などが行われます。

家庭的な環境

グループホームは、一般的な家庭の雰囲気を再現することを目指しています。これにより、高齢者がリラックスしやすい環境が整い、認知症の症状の進行を遅らせる効果が期待できます。

個別化されたケアプラン

グループホームでは、一人ひとりの高齢者に対して、個別化されたケアプランが作成されます。これにより、各個人のニーズや状況に応じた適切な介護が提供されることが保証されます。

社会参加の機会

グループホームでは、地域とのつながりを大切にし、高齢者が社会参加する機会を提供します。地域のイベントへの参加や、趣味やスキルを活かした活動が行われることがあります。

家族の負担軽減

グループホームへの入居により、家族は高齢者の介護負担を軽減することができます。また、家族は定期的に高齢者との交流を維持することができ、良好な関係を築くことができます。

グループホームは、認知症の高齢者にとって、安心して暮らせる環境を提供し、家族もサポートを受けられる介護施設です。適切なケアを受けながら、地域とつながりを持ち、自分らしい生活を送ることができることから、認知症の高齢者やその家族にとって、非常に有益な選択肢となります。

認知症高齢者の個性を尊重することの重要性とは?

認知症の方が個性を尊重されることで、自分らしい生活を送ることができ、生活の質が向上します。
この記事では、グループホームでの個性尊重事例を紹介し、その重要性を考察します。

【事例】

80代(男性)当時の要介護度5
車いす上での生活全般に介助が必要な状態
 

入居者の個性と要望①

自宅で生活している時から、私服は全てスラックスにシャツのみで、ジャージ類は着たことがありません。服装にはこだわりがあり、気に入った靴が日本で買えないからとそのためだけにイタリアへ飛ぶこともあったそうです。

グループホームのがわに入居してからも、認知症が進行しても、立つことができなくなっても、毎日スラックスとシャツに着替えて生活をしていました。

 

ご家族からの要望②

入居前、自宅から車で行ける距離に自分用の御墓の区画を購入しましたが、お墓の完成前に認知症を発症して入居したため、未だに本人に見せてあげられていない。生きているうちに連れて行って見せてあげたいと奥様より希望がありました。


課題

まずはこの事例に関する2つの課題について考えていきます。

課題1:劣化した衣類の買い替えと介護者側の意識改善

入居から何年も経過しており、持ち込んだ衣類は破けるなど劣化が深刻となっていました。
買い替えが必要になりますが、自力で立つことができず状況を理解することも難しい中で、本人のセンスとサイズに合う衣類を購入する必要があります。上背のある方なので介助者の膂力もある程度必要でした。

また、職員の中には【ジャージを着てもらう方が(私たちが楽にできて)いい】という意見も一定数いたことに対して、入居者の趣味嗜好や個性を尊重することの意義と、介護者側の身体的な負担を最小限にする方法、二つを説明していく必要がありました。

課題2:車いす対応の車の手配と家族全員が揃った外食の実現

家族の車では立つことのできない本人を乗せることができないため、車いす対応の車を用意しなければなりません。

奥様の要望で、海外勤務で多忙な家族にも時間を調整してもらい、家族全員が揃って外食をする機会も一緒に設けることに。送迎と食事介助(場合によっては排泄介助)を1人でこなせる職員の帯同が必須でした。

解決策

課題を明確にした上で、課題解決のための方法(解決策)を検討してくことが重要です。

この事例に関する実際の解決策を考えていきます。

解決策1

最寄りの大型商業施設(※イトーヨーカドー)の紳士服売り場へ職員が下見に行き、店員に「車いすの方をお連れして、試着室で私が抱えている間に着替えや裾上げなどを一緒に行ってもらうことは可能か」を確認する。快く引き受けてくださった。

膂力のない夜勤明けの職員が寝巻からスラックスへ替えることが難しいため、ベッド上で横になった姿勢でもズボンを履き替えられる方法を伝えて、実践して理解してもらいました。

解決策2

息子さん・娘さんと日時を調整し、外食の場所は息子さんが手配してくださることに。移動は事業所の車いす対応車を用意し奥様にも同乗してもらい、道案内などをお願いしました。また、男性職員1名をその日は個別対応に専念できる配置にすることで、何が起きても対応できる準備をしました。

ケアの実施内容と結果

本人がもともと着ていた衣類を持参して、センスを合わせられるように店員さんと相談しながら数着をピックアップ。
試着室で職員が更衣と車いすからの立ち上がりを介助、立っている間に店員さんが裾上げをする、その繰り返しで3着を購入。

 今後のために股下の寸法なども記録。奥様に衣類を確認してもらったところ「主人が好きそうなものばかり」とお墨付きをもらうことができました。
寝巻からスラックスへ替えるだけでなく、汚れた時の着替えに関しても職員一丸となり時に二人介助で対応しながら「この方はジャージを着たくない方だ」という共通意識を持つことができました。

 事業所を出発して、菩提寺までの入り組んだ道を多少迷いながらも無事到着。入居者さん家族全員で、まだ誰も入っていない本人用の御墓と、その近くにある奥様一家の御墓に手を合わせ、場所を変えて本人が行きつけだったお店で外食をしました。

そこで大事な情報収集の機会があり、職員が先輩から申し送られてきた「本人は下戸」というのが誤った情報であり、本当は「無類の酒好き」だと息子さんから知らされ、この日の外食以降は晩酌などお酒を召し上がる機会を積極的に設けるようになりました。

 その後の経過

入居者さんは自分のファッションを貫くことができました。
床ずれ(褥瘡)ができないように、亡くなる直前は医療と相談して寝巻に着替え予防を優先することになりましたが、棺の中ではお気に入りのワイシャツ、スラックス姿に着替えていらっしゃいました。

 誤った情報で意図せず我慢させてしまっていたお酒に関しては、飲み込む力が衰えて飲み物にトロミをつける必要がでてきた時期でも、日本酒やビールだけはトロミがなくてもむせ込まないことに気付き、トロミをつけず美味しさの変わらないお酒を最後まで嗜むことができました。

 認知症高齢者の誤嚥性肺炎は認知症故に本人が「飲み込むことを意識できていない」ことが原因になることがありますが、この方の場合「本人が飲みたいと強く意識できるもの(お酒)」なのがトロミを使わずに飲めた要因なのではないでしょうか。

 亡くなられた際のご葬儀にて、ご家族から「生きている間にここ(菩提寺)に連れて来られて本当に良かった。」とお言葉を頂戴しました。

 この事例を通じて、認知症ケアでは個性の尊重が大切であることが実感できます。

個性尊重の認知症ケアがもたらすメリット

認知症ケアにおける個性尊重の重要性としては、以下のような点が挙げられます。

個々のニーズに応えるケア

認知症の症状や進行は個人差があります。個性尊重のケアでは、一人ひとりのニーズや好みに応じたアプローチが可能となり、適切なサポートを提供できます。例えば、音楽が好きな人には音楽療法を、絵画が好きな人にはアートセラピーを提供することで、自分に合ったケアを受けられます。

入居者・その家族の精神的な安定

個性を尊重し、自分らしい生活を送ることができる環境では、精神的な安定が保たれます。過去の経験や趣味に触れることで、自分のアイデンティティを取り戻すことができ、心の安らぎを感じられるでしょう。

社会参加の促進

個性尊重のケアでは、認知症患者の得意分野や興味を活かし、地域や施設内での社会参加を促進します。これにより、自己効力感が高まり、孤立感や無気力感の軽減につながります。

家族との関係改善

家族が患者の個性や好みを理解し、それに対応したケアを提供することで、家族間のコミュニケーションが円滑になります。また、家族も患者の本来の姿を取り戻すことができるので、共に過ごす時間が有意義になるでしょう。

スタッフのケアの質向上

個性尊重のケアを提供することで、スタッフも患者の個性を理解し、それに応じたケアを学ぶことができます。これにより、スタッフのケアの質が向上し、患者との信頼関係も築きやすくなります。

株式会社土屋なら個性に寄り添ったケアができます

株式会社土屋は、お一人おひとりの事例に寄り添った介護サービスを提供しています。

介護を受けられる方やそのご家族、介護を提供するケアスタッフなど、介護に関わる全ての方のQOL改善を実現するため、最大限の努力をしております。

土屋のサービスに興味がある方、土屋で共に働きたい方は、どうぞお気軽にご相談ください。

※画像は全てイメージです。 

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