【知的障害者地域生活推進委員会】行動障害 アテンダント向け社内研修レポート
■開催概要
主催:株式会社土屋 知的障害者地域生活推進委員会
目的: 知的障害・強度行動障害・ASD(自閉症)の特性ならびに基礎知識の習得により、アテンダントの支援の向上を図ること。また、チーム支援の重要性の認知。
開催日時: 2024年2月28日および3月26日
開催場所:オンライン
対象:株式会社土屋のアテンダント
■本日の研修内容
- はじめに
- 「行動障害」とは
- 「発達障害」と「知的能力障害」
- ASD(自閉スペクトラム症)とは
- 特性の理解
- 支援の技術
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<社内研修>
~プロフィール~
名前:角南成禅
経歴:“子どもたちと遊びたい!”との思いから、ボランティアで発達障がいや知的障がいがある子どもたちと関わり始め、その後、児童デイサービス(現放課後等デイサービス)や知的障がい児・者ガイドヘルパーの仕事をきっかけに介護業界へ。
約20年間、介護の仕事に従事し、行動障害がある方とも多くの関わりを持つ。
障害の基礎知識
①障害種別の違い
身体障害:肢体不自由・脳性麻痺・視覚障害・聴覚障害・内部障害
*筋ジストロフィーやALSは難病に指定されるが、進行により身体障害にも該当
精神障害:精神疾患・発達障害など
*精神疾患…統合失調症・双極性障害(躁うつ病)など
*発達障害…ASD(自閉症)、ADHD、LDなど
知的障害:知的障害
<ポイント>
脳性麻痺、視覚障害など身体障害の内容によりクライアントへの関わり方が違うように、同じ精神障害でも「精神疾患」の方、「発達障害」の方への関わり方も大きく異なります!
②障害者手帳について
精神障害 ⇒ 精神障害者保健福祉手帳
知的障害 ⇒ 療育手帳
<ポイント>
障害者手帳は3種類あります!クライアントによっては複数の手帳をもっていることも。
③障害者手帳と受給者証
〇障害者手帳
医師によって診断された障害の公的な証明書。身分証明書にもなり、公共交通機関(JRなど)や施設などで割引サービスが受けられる場合もある。
〇受給者証
障害福祉サービスを利用するための証明書。自治体により利用できるサービス種別や時間数が大きく変わる場合がある。
<ポイント>
障害を有することを証明するものが「障害者手帳」であり、障害者手帳だけでは福祉サービスが受けられない!
訪問介護・居宅介護・重度訪問介護などの福祉のサービスを受けるためには「受給者証」が必要。そのため、クライアントは障害者手帳と受給者証の2種類を基本的に持っています。
本日の研修内容
1 はじめに
本日のテーマは「行動障害」です。行動障害のある方と関わる際は「やる気」だけでは失敗します!
支援を行う為には、クライアントを「理解しようとする姿勢」や「障害の知識を学ぶ」、「関わり方・接し方の工夫をする」ことが重要になります。
そして、クライアント自身や障害について知れば知るほど、クライアントと関わりやすくなります。
クライアントのことを知らなかったり、行動障害の知識がないと「怖い」というイメージが先行しすぎるのを感じています。
ただ、それらを知ってしまえば、実は健常者の方以上に関わりやすい場合もあります。
<どんな行動にも「必ず理由」がある!>
「行動障害」のあるクライアントと関わる上で、大前提があります。それは「どんな行動にも『必ず理由』がある」ということです。
クライアントの行動が理解できない場合には、我々アテンダントは「なぜその行動をしているのか」を考える必要があります。
行動の根拠を見つけるためには、クライアントを「理解しようとする姿勢」がとても重要になりますし、それこそがアテンダントに求められているものです。
クライアントの行動には「必ず理由がある」と思って日々のケアに当たることが大切です。
2 「行動障害」とは
行動障害とは、「自傷・他害・こだわり・破壊・睡眠・異食・多動などの行動が、本人や周りの生活や環境、社会に影響を与える状態」を言います。
行動障害の度合いが高ければ「強度行動障害」と診断されます。この基準は『強度行動障害医療度判定基準』の判定スコアにより確認できます。
強度行動障害については、行動障害児(者)研究会(1989)による定義をかみ砕くと、以下のようになります。
①知的障害・自閉症・統合失調症といった精神科的な診断ではない。いわゆる障害者手帳が出るような障害ではない。
②直接的な他害(噛みつき・頭突き等)や間接的な他害(睡眠の乱れやこだわりの強さ等)、自傷行為などが、通常では考えられない頻度や強さで起こっている状態にある。
③親の育て方の問題ではない。
<ポイント>
行動障害と強度行動障害は同じ。他害や自傷行為等の度合いや頻度が高ければ「強度行動障害」と診断されます。
◎行動障害が起きる人を支援するためには
行動障害には自傷行為、破壊行為、異食など様々なものがありますが、こうした行動を見ると、我々はつい
「大変だ!何とかしないと!」と、その状況ばかりに着目してしまいます。ただ、そこだけに注目して支援をしても効果が薄いのが実状です。
支援を成功させるには、「クライアントについて知る」ことが大前提となります。具体的には、クライアントの性格や障害特性の知識です。この二つを合わせて、クライアントの「個性」になります。
次に、「クライアントの生活環境を知る」ことが大切です。ご家族や友達、近所の方、そしてクライアントの過去の経歴・経験、近くにあるコンビニ、スーパーマーケット、そして私たち支援者です。
行動障害は、これらの環境の中でポツンと現れます。つまり、行動障害だけ見ても意味がなく、行動障害を減らしたり、なくすためには、まず「その人のことを知る」。
そして「その人の周りにある環境を知る」ことが重要になります。
◎行動障害が起きる人を支援するためには
クライアントについて理解していなかったり、行動障害自体の知識がないと関わり方も分からず、アテンダントは疲弊してしまいます。
けれど、実は行動障害を起こしているクライアント自身も、我々以上に“しんどい”という状態にあります。
行動障害が起きる人を支援するためには、正しい障害の知識が必須です。そこに自分自身の経験を併せてアプローチする=行動に移すのが重要です。
この行動は直接的な行動だけではなく、「待つ」ことや、あえて「何もしない」ことも含まれます。
<ポイント>
知識+経験⇒行動
3 「発達障害」と「知的能力障害」
◎行動障害における認定の違い
行動障害は、他の障害特性や環境によって生じる状態のことを指します。二次障害であり、知的障害・発達障害とは全く別物です。
そして、その状態が強い「強度行動障害」では特別な福祉サービスが受けやすくなります。
「強度」というのは、そのサービスを受けるために付けられた名称に過ぎないので、強度があるから行動障害自体が大変で、強度が付いていない行動障害が楽だという基準ではありません。
◎行動障害を起こしやすい人とは?
知的障害や発達障害のある方が行動障害を起こしやすいと言われています。とりわけ、中度以上の知的障害と自閉症の特性が濃い人に行動障害が多いとされます。
そのため、行動障害が起こっている人と関わる際は、まずは知的障害や自閉症、発達障害などの「知識」が必要になります。
そして、そうした障害と環境が掛け合わされることで行動障害が生まれます。行動障害は、環境が起こした二次障害ということになります。
それゆえ、環境や関わり方を変えることで、行動障害を減らしたり、なくしたりするのも不可能ではなくなります。
<ポイント>
中度以上の知的障害と自閉症の特性が濃い人たちに行動障害が起こりやすい。
知的・発達などの障害 × 環境 = 行動障害
◎知的障害とは?
知的障害はおおむね18歳までに現れ、知的検査や日常生活能力などで診断されます。
日常生活に支障が生じていて、特別な援助を必要とする状態がある方が該当します。
また、IQがおおむね70までの方ですが、日常生活に支障が生じているのであれば、70以上でも診断される場合があります。
反対に、日常生活で支障が生じていないのであれば、70以下でも知的障害とは診断されない場合もあります。
さらにダウン症や発達障害との合併も見られます。
◎発達障害とは?
発達障害もおおむね18歳までに現れ、発達検査や心理検査などで診断されます。生まれつき見られる脳の働き方の違いによって、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴があります。
発達障害は大きく、次の三つに分類されます。
・ ADHD(注意欠如・多動症)
・ LD(学習障害)
このうち、
ADHD(注意欠如・多動症)は、物忘れが激しかったり、つい先ほどまでの行動を忘れていたり、衝動的に動いてしまう特徴があります。
何度言っても忘れ物をするといった症状もADHDの特徴にあてはまります。
LD(学習障害)については、知的レベルは標準以上でも、例えば読むことだけが苦手、あるいは漢字を書くことだけ、計算だけ苦手など、ごく一部の学習能力が明らか他の学習レベルよりも低いという特徴があります。
ASDやADHDやLDの有名人も多くおられます。またトゥレット症候群、吃音、なども発達障害に含まれています。
◎発達障害と知的障害の関係
発達障害(ASD 、ADHD、LD)は合併するケースも見られます。ASD だけの方もいれば、ASDとADHDが合併している、すべてASD、ADHD、LDの特性が全てある方もいます。
そして発達障害は知的障害とも合併する場合があり、ASDと知的障害の特性を持った方に行動障害が起こりやすいと言われています。
重度訪問介護サービスは制度上、行動障害・強度行動障害のある方にサービスを提供できる場合があります。
4 ASD(自閉スペクトラム症)とは
自閉症は現在、ASD(自閉スペクトラム症)と呼ばれることが多く、ASDは自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群などの総称として使われます。
・広汎性発達障害…自閉症と同じ
・アスペルガー症候群…知的に遅れはないが、独特のこだわりが非常に強かったり、対人関係や社会的コミュニケーションの困難など
データによって異なるものの、ASDは20人~40人に1人(2.5%~5%)の割合で存在する可能性が指摘されています。
学校の1クラスに1~2人いるということですが、それくらい多く自閉の特性のある方がいるわけです。
過去には男女比で4対1と、男性の方が多いと言われてきましたが、ASDはコミュニケーションに大きな影響を与える障害であり、基本的に高いコミュニケーション能力をもつ女性のASDが見落とされてきた側面があります。
それゆえ、現在、女性のASDが非常に注目されています。
◎ASDの原因
ASDは生まれつき、脳の中枢神経系にある“情報を整理するメカニズム”に特性があります。脳の構造自体が一般と違うことから、健常者と比べて感覚が全く異なる場合があります。
“できること、できないこと”にばらつきがあり、日常的にさまざまな困難や“しんどいこと”が多くあります。
現在は、遺伝を始めとする、多くの要因が複雑に絡みあってASDが生み出されると考えられており、親の育て方や虐待、愛情不足が原因ではありません。
また、トラウマなどを背景に、自分の殻に閉じこもってしまうなどといった後天的なものでもありません。ASDは先天的な、生まれながらにもった特性であり、成長の段階でASDになるというものではありません。
<ポイント>
ASDは生まれながらの特性。
親の育て方・虐待・愛情不足が原因ではない。
◎ASDの特徴
②空間や対人、特定の行動に対する強いこだわり
③感覚が極端に鋭い、あるいは鈍い(感覚の偏り)
④変化に対する不安や抵抗
⑤活動や興味の範囲が狭い など
「社会的なコミュニケーションの困難」に関しては、脳の構造が異なるために、思考プロセスや考え方・感じ方も違います。それによって、日常生活に困難が生まれます。
「変化に対する不安や抵抗」に関しては、例えば急な予定の変更に耐えられないなどがあります。
そして「活動や興味の範囲が狭い」ために、一つのことに真っ直ぐになったりするという特徴があります。
◎ASDの得意なこと、苦手なこと
★得意なこと
・具体的に示されて納得できたルールや決まり事をしっかり守ります。
・ルーティンが得意で、同じことを繰り返すことで安心します。
これらを生かせば、ASDの方の日常生活を安定させることができます。
★苦手なこと
・見通しの立たないこと。明日、何をすればいいのか、この後、何があるのかが不安になります。
・複数同時での作業や活動。マルチタスクと言われるものや、ながらの行動が苦手です。
ASDの方に関わるためには、これらを理解しておくことが大事なポイントです。
5 特性の理解
◎ASDの主な特性
①こだわりが強い
・同じことを何度も何度も、何時間も繰り返すことがある。
例;初代プリキュアのオープニング曲をずっと聞き続ける
・置いてある物の配置、時間、手順などを自分自身で決めていて、そのルールを譲れない。
例:コンビニやスーパーなどでジュースのラベル、お菓子や本をきれいに並べたりする。
他にも様々な「こだわり」がありますが、それがマイナス面で影響している場合もあります。
②感覚過敏・鈍麻
例:おにぎりを食べてるはずなのに、泥だんご食べてるようにしか感じない。
例:シャワーを浴びると、たくさんの針で肌をざくざく刺されているように感じて痛い。
感覚過敏・鈍麻については、後ほど詳しく説明します。
③エコラリア(オウム返し)
エコラリアには即時性と遅延性があり、即時性は聞いた言葉をすぐに返し、遅延性では前に聞いたフレーズが全く関係のない時に出てきます。
即時性のエコラリア例:
こちらが「ちゃんと片付けしましたか?」と聞くと、「ちゃんと片付けしましたか?」とすぐに返してくる。
遅延性のエコラリア例:
街中を歩いている時に、前に聞いたことのあるCMのフレーズなどを突然叫び出したりする。
エコラリアでは、その言葉に本来の意味は含まれません。
例えば、「おはようございます」とオウム返しをした方では、その言葉はただの文字の列でしかなく、音声を発しているだけで朝の挨拶の意味は含まれていません。
そのため、「わかりましたか?」⇒「わかりましたか?」と返答があっても、その言葉に意味はないため、誤解されやすいということがあります。
④独特のコミュニケーション
・呼んでも反応がない
・目線が合わない
・“あっち”“ちょっと”などの曖昧な表現は伝わらない
ASDの方には独自のコミュニケーションがあり、分かりづらいことも多くあります。
関わり始めた頃は、無表情や無反応と感じることも、しっかり表情や雰囲気があるため、本人を知れば知るほど分かってくるようになります。
⑤パニック
行動障害という言葉が生まれる前は、上記のような行動はパニックと呼ばれることもありました。これは基本的に、情報(刺激)が多すぎて、頭がパンクしたような状態で起こります。
フラッシュバックが起きて過去の嫌な経験を思い出し、それが目前で起こったような状態になってパニックに陥ることもあります。
ASDは「忘れられない障害」とも言われていて、昔の記憶、特に嫌な記憶が今起こったような形で脳内で再生され、それがパニック・行動障害の原因になる場合もあります。
パニックが起きた場合、あるいは起こりそうだと感じる時は、基本的には刺激の少ない静かな落ち着ける場所で過ごしていただくのが非常に大事になります。
例えば、見えることに困難を抱える方は人混みを避ける、音が苦手な方であれば静かな所に行く、匂いが苦手な方は場所を変えるといったように、ますは苦手なものから遠ざけることが重要です。
◎ASDの方と関わる上での必須の知識~感覚過敏~
ASDの方は、五感などから得る情報の処理や刺激に対して一貫性がなく、感じ方が全く違います。
感覚が鋭すぎたり、鈍すぎたりしますが、このような状態は生活する上で非常に“しんどい”ことが続くということです。
私たちが、その生きづらさを理解することで、今まで気づけなかったことにも気づけるようになる場合があります。
①視覚過敏・鈍麻
・光によって視界がちらつく
・視点のフォーカスが当てられない
例えば蛍光灯の光は、常に一定の明るさで光っているわけではなく、点滅したり、光が強くなったり、弱くなったりを繰り返しています。
私たちの脳では一定の明るさで処理されますが、ASDの方では、それがずっと点滅されているように感じ、常に目の前でチカチカしている場合があります。
人によってはLEDや太陽の光が苦手というように異なりますが、光によって視覚の情報がしんどくなる方もいらっしゃいます。
また、視点のフォーカスが当てづらい場合もあります。人が沢山いるイラストの中で、「赤い服の人を見てください」とお伝えしても、イラストの映像全部が脳の中に入って処理されてしまい、その人だけに注目することができません。
目の前の相手に注目できず、後ろにあるものすべてが見えている状態です。後ろで走り回っている人、通り過ぎていく猫など、すべてが見えると気が散りますが、それが常に起こっている状況のため、刺激が強すぎてしんどくなってしまう方がいらっしゃいます。
②聴覚過敏・鈍麻
・特定の音に対しての不快感や嫌悪感
・聞きたい音の特徴を捉えられない
人それぞれ苦手な音はありますが、多くの人にとっては全然苦にならない音が“嫌な音”に聞こえるような感覚を持っておられる方もいらっしゃいます。
そして視覚と同じく、聴きたい音の特徴が捉えきれない方もおられます。例えば、対面で話をしている時、相手の声をクローズアップして聴ける能力が一般的に備わっていますが、それを持っておらず、周りの音すべてが入ってきて、相手の話を聴くことができない方もいます。
また、蛍光灯や換気扇の音、エアコンやパソコンのファンの音なども、人の声と同じように聞こえてしまう。全ての音を耳が拾ってしまい、それでパニックを引き起こすケースも見られます。
③味覚過敏・鈍麻
例:
・白いご飯は食べれるが、おにぎりになった途端、泥団子の味にしか感じられなくなる。
・カレーのルーとライスを別々では食べられるが、一緒に口に入れると乾電池を食べているような感覚になる。
味覚の過敏・鈍磨がある方にとって、食べられないものは“好き嫌い”というレベルではなく、「体にいいから食べなさい」などの無理強いは、“泥団子や乾電池を食べなさい”と言われているのと同じことになります。
④嗅覚過敏・鈍麻
⑤触覚過敏・鈍麻
<過敏>
例:
・夏に厚着、冬に薄着など、暑さ・寒さの感覚が違う。
・衣類が肌に触れると、やすりをかけられているような痛みを感じる。
感覚の違いにより冬に寒さを感じず、半袖でいるなどで風邪をひくこともあります。そうした場合は、季節に合った適切な服装を伝える必要があります。
衣類自体も、成分によっては肌に触れるとやすりをかけられているような感覚になる方もいるので、着る服を選ぶ必要があります。
<鈍麻>
・嫌な刺激を、より強い刺激で上書きしようとして「自傷行為」が起こる場合もある。
見える、聞こえる、匂う、肌で感じるなど、様々な嫌な感覚を消すために、例えば歯形が残るくらい手や指を噛む、脳震とうを起こすほど強く頭を叩くなど、自傷行為に移るケースも多く見られます。
⑥感覚過敏についてのまとめ
感覚過敏は多種多様であり、人によって、またタイミングや状況によって大きく異なります。このような感覚の違いを、私たち支援者は知っておく必要があります。
ASDの特性を持った方は24時間365日、大変な状態で生活されており、クライアントの置かれている状況を理解しようと努力でするためにも、こうした知識が必須です。
<感覚過敏を軽減する(一例)>
・視覚過敏⇒メガネやサングラス
・聴覚過敏⇒イヤーマフ(音が流れないヘッドホン状のもの。外の音は聞こえるが、小さい音が聞こえづらくなる)
・嗅覚過敏⇒マスク
・味覚過敏⇒食べられないものを避ける
・触覚過敏⇒刺激の少ない衣類の選択 など
クライアントそれぞれで必要な対応は異なるため、介助者はそれを探る必要があります。
支援の技術
◎クライアントへの関わり方を工夫するための技術
①リフレーミング
リフレーミングとは、物事を別の角度から捉えることにより、今まで見えてこなかった、あるいは感じられなかったことを発見できたり、前向きに考えられるようになる技術です。
「相手の立場に立つ」「相手を理解する」「相手に共感する」といったアプローチから始まる心理学です。
つまり、自分の感じ方・見え方以外の色々な見方をする、視野を広く柔軟に持つということです。
<例>
ケース①:
スーパーなどで泣き叫んでいる子供に対し、母親が「いつもわがままばっかり!泣いたら要求が通ると思っているんじゃないの?言うことを聞きなさい!」と怒っている
↓
リフレーミング:
泣いている原因、何か訴えたいことがあるのかについて考える。
お腹が空いているの?、欲しいものがあってごねているの?、スーパーに飽きて出たいの?、家に帰りたいの?など様々なことを考えることにより、自分の捉え方・声掛けの仕方も変わってくる。
ケース②:
上司にきつい言葉を投げかけられ、「ムカつく!いつもがみがみ言ってきてうるさい!」と腹を立てる。
↓
リフレーミング:
きつい言葉を投げかけられた原因を考える。
自分に期待しているからか?成長してほしいからか?もしくはただ自分のことが嫌いなだけなのか?など、様々な角度で物事を見ることで捉え方が変わってくる。
嫌なことやしんどいことから逃げ出すことも大切です。けれど余裕があれば、その原因を考える練習をするも良いと思います。
リフレーミングは難しい技術ですが、習得すれば視野が広がり、楽に生きられる場面も出てきます。
②伝え方~3つの工夫~
(1)視覚的⇒目で見てわかる関わり方
耳から入ってくる情報は、目から入ってくる情報よりも少ないことの方が多いので、音声・口頭だけで伝えることは難しい場面も多いです。
言葉がなくても目で見て分かる関わり、視覚支援がポイントです。
<有効な関わり方>
・トイレや食事、嬉しい・悲しいなどのイラストが描かれたカード、写真など
・文字が読めるなら、文字だけでもOK
(2)具体的⇒曖昧な表現をしない
「ちょっと待って」「いつも言ってるでしょ」「ちゃんと座って」など、曖昧な表現は伝わりにくいです。
”ちょっと“がどれくらいなのか、 “いつも”がいつのことなのか、”ちゃんと“とはどういうことなのかが曖昧で分かりにくいので、そうした表現をしないことがポイントです。
<有効な関わり方>
「5分、待ってね」、「背筋を伸ばして深く座ってください」など、“具体的な伝え方”をする
(3)肯定的⇒ダメと言わない
ダメと否定的に関わられるとしんどくなります。例えば、母親が子どもに「走っちゃダメ」と言うとき、その後には続く言葉があります。「歩きなさい」と。
つまり、ダメというのは不要で、その言葉を使わなくてもしてほしいことを伝えられるので、「○○をしてください」などの適切な言葉を選ぶことが重要です。
<有効な関わり方>
ダメと言わずに、してほしいことを伝える
ただ、ダメと言わないのは難しいので、事業所で「ダメと言わないゲーム」などをするのも有効です。
ダメと言った数を記録して、スタッフ間で勝負すると、自分自身が意外とダメと言っていることに気付けます。そして、できるだけ使わないように意識することができます。
その上で、どういう表現を使えばいいのかを考え、トレーニングすることで、肯定的にクライアントに関われるようになります。
上記の3つを実践するだけで非常に関わりやすくなります。
③問題行動を考える
他害・自傷行為や物を投げたりする行動は「問題行動」と表現されることも多くあります。
けれど、現在ではそれらは「問題行動」ではなく、「行動障害」や、認知症の方であれば「BPSD」という表現に変わっています。
そして、いわゆる「問題行動」と言われている行動は、 “何かを伝えるための表現方法”です。
つまり、行動障害は“表現方法”であり、その本質は、“本人の意志や行動ではなく、過去の経験や支援者などの関わり方で学んだ表現方法で、つまり環境や状況が生み出した間違った表現方法”ということです。
殴りたいから他害行為をするわけでなく、自分を傷つけたいから自傷行為をするわけではありません。本人の意志ではなく、過去の経験や支援者の誤った関わりによって、そうした行為が起こります。
嫌と言う表現が出来ないから他害をしてしまう、自傷をしてしまうことも多いです。
クライアントに問題がある訳ではなく、クライアントの周りの環境や状況が「問題」を作り出しているという考え方が非常に大事です。
そこで支援者は、クライアントに起きている「困りごと」や「生きづらさ」などの問題・課題を探し出す必要があります。
もし、そうした行動があった場合、支援者はまずは“どこに問題(課題)があるのか”を考えることが大切です。
④表現を知る
いわゆる「問題行動」、すなわち行動障害やBPSDが“何を表現しているか”については、以下の4つのいずれかに当てはめてみます。
行動障害等を見かけると、このいずれに該当するのかを分析する力が必要になります。
・要求⇒何かを取ってほしい、テレビが見たい、ゲームがしたい時などに見られる。
・注目⇒誰かの注目を集めたい時に見られる。お母さんにかまってほしい、アテンダントを呼びたいなど。
・拒否⇒嫌な時に見られる。やりたくないことをさせられる、そっとしておいてもらいたい時にかまわれるなど。
・感覚⇒上記の3つに当てはまらない時に該当する。五感等の感覚で起きるしんどい状況、パニック時など。
<例>
ケース:子どもが壁をどんどん叩くので、母親がその都度「叩いちゃダメ」と子どもの傍に行って諭していた。専門家による対処法:子どもが壁を叩き始めたら、母親はその都度メモ(日時・頻度等)を取る。
結果:初めのうちは、壁を叩いても母親が来ないので、子どもはより強く壁を叩いていたが、それでも来ないのでメモを取る母親の傍に寄ってきて、顔を覗き込んできた。
その際、母親は「なあに?」と声をかけ、それを繰り返すうちに子どもは壁を叩くのを止め、母親の顔を覗き込むようになった。
分析:注目の行動に該当。母親を呼ぶために壁を叩いていた。
<ポイント>
課題となる行動は、それぞれ「コミュニケーション機能」を有している。そこには必ず理由や背景があるため、色々な目線で分析する必要がある。
⑤観察する
行動障害等の表現を分析した後、支援者はそれに対してアプローチをすることになりますが、あえて「待つ」「何もしない」ことも大事な要素です。
そして、「期待しない」ことも大事です。期待すると、成果が出なかった場合、その人に対して不満を抱くことにもなりかねないので気を付ける必要があります。
そして、行動を観察し、それを記録し、データを集めることが重要になります。そうすると、今まで気づけなかったことが見えてきます。
⑥スモールステップで関わる
ASDの方は“予期せぬ出来事”や“急な予定の変更”などに大きな不安を感じたり、拒否感を起こす場合もあります。そのため、支援の際は「焦らずじっくり関わる」ことが重要です。
支援者は「もっとこうしたい」となりがちですが、ASDの方は変化が苦手です。いろんなことをしてしまうと急に話さなくなったり、パニックを引き起こす恐れもあります。
これは支援者側が「急ぎすぎる」ことが原因の場合もあるので、“焦らずにゆっくりとステップアップする”といった意識をもってスモールステップで関わり、ゆっくりと進んでいくことが重要です。
また、クライアントは複数の支援者が関わっているため、それぞれがばらばらの支援を行っていると、「あの人は○○と言っていたけど、この人は○○と言っている」というように、クライアントに負担を強いて、パニックを引き起こす要因にもなります。
そのため、チームケアを意識し、「統一した支援を実施する」ことが大切です。
⑦成功体験を積み重ねる
障害のある方は、ダメと言われることや失敗の経験が多いものです。だからこそ、「成功体験の積み重ね」が重要になります。
たとえ小さなことだとしても、できなかったことや苦手だったことができた時には明確に評価し、自信や自己肯定感を高める関わりが必要になります。
支援者はそうした成功体験のきっかけを提供する意識も大切です。
<ポイント>
「叱らない・怒らない」が基本。
たとえ正しいことを伝えるために叱ったり、怒ったりしたとしても、「叱られた」「怒られた」という記憶が勝り、自信や自己肯定感が失われる。
◎まとめ
①どんな行動にも「必ず」理由がある
クライアントの行動が理解できない時、私たちアテンダントは「なぜその行動をしているのか」について、その「根拠を見つける」必要があります。
クライアントが理由なく、そうした行動をすることはないので、それを理解しようとする姿勢が大切です。
支援者にとって、そこには「必ず理由がある」と思って関わることが非常に重要です。
②その人を見る
・ASDなどの障害に対する正しい知識を得る
・コミュニケーションの取り方を工夫する
・問題行動の「問題」が何から来ているのかを探る
・成功体験を積み重ねる
支援者としてASDの方に関わるためには、「知識」(障害に対する正しい理解)と「経験」(その人のことを知る)、「行動」(その人に適した関わり)を一人一人が“意識的”に“統一”すること、
つまり関わっている人みなが同じことをできるようにするのが大切です。