【異端の福祉 書評】介護難民0を目標に小さな声に応えていく / 尾上真奈花(ホームケア土屋 大分)

介護難民0を目標に小さな声に応えていく / 尾上真奈花(ホームケア土屋 大分)

高浜代表の著書『異端の福祉~「重度訪問介護」をビジネスにした男』は、代表の歩いてきた道のりから現在地までが書かれており、人生のターニングポイントをしっかり抑え、人を大事にしてきた代表だからこそ今があるんだなと思うと同時に、31歳という若さで全国公的介護保障要求者組合の事務局に抜擢され、中心メンバーとして活動されていた、その頃から代表の牽引力は健在だったのだと思いました。

本書では障害者と密に関わってきた代表だから書けた障害者の本音や現実が書かれており、障害当事者の方はもちろん、関わっている全ての方へ読んでいただきたいです。

また、事業継続や利益を出すことが難しい介護業界の中で、どうやって経営課題を解決していっているのか、事例を用いて紹介されているので、介護業界でのビジネスを考えている方や現在事業が上手くいかずに悩んでいる方に読んでほしいと思う1冊です。

本書の真ん中ページに書かれていた、重度訪問介護難民が生まれてしまう5大要因のところは、現場に関わっている身としてすごく考えさせられました。

「自宅で暮らせると思っていない当事者が多い」「制度そのものの認知度が低い」
この問題は顧客創造部と協力し、現地での周知活動やマーケティングチームの告知活動(HP・YouTube・SNS等)の結果、かなり認知度が上がってきていると感じており、実際にクライアントや初めてお会いした方から「YouTubeやHP見ました。すごく手が込んでいますね」等の声も挙がっております。

残り3つの要因である「自治体の財政負担」「自治体ごとの熱意」「事業者・人材の少なさ」に関しては、田舎にいくほど深刻であり、サービスを利用したい人やかなり困っているという人たちが泣き寝入りするしかない現状があります。

私も行政にクライアントと伺い、現状の時間数だと自宅で生活を送るのは厳しいことや他の地域の例を用いて時間数増枠の説得を試みましたが、人口が少ない地域は財源確保が難しいため時間数を増やしてもらうのは困難を強いられましたし、「家族が介護できますよね」と行政の職員に言われたこともありました。

時代の流れで核家族化が進み、介護の重荷が分担できなくなってしまった現代において、「家族が介護をするのが当たり前」と強要する人が居ること自体が時代錯誤ですし、自治体によってサービスの普及状況が変わるため、行動力のある方は都会に出ていきます。そうすると田舎はどんどん人口が減り、問題がより深刻になっていきます。

本書にも書かれているように、介護離職をすれば貧困化に陥る可能性も高く、ヤングケアラーの子たちは進学に影響が出て学歴社会では生きづらくなるのは当然です。時に「学歴がなくても食っていける」という大人も居ますが、それは芸能人と一緒で一握りの成功者だけです。

私の祖母は2021年の9月にすい臓がんで亡くなりましたが、症状が悪化しても自宅で過ごし、最後は家族に見守られながら自宅で息を引き取りました。

個人的には在宅で親族に見守られながら最後を過ごしたことは祖母にとっても良かったのではないかと、また残された者にとっても身の回りの世話を行った達成感があり、悲しみはありましたが、楽しい思い出話とともに今でも祖母は話題に出ます。

私にとって、在宅で過ごすことは本人にとっても家族にとっても幸せなことだと思っていますが、私の場合はターミナルという終わりが見える介護だったので、このように思えたのだと思います。

関わっているクライアントは障害の介護で終わりが見えません。そうなると障害当事者側は家族に負担をかけて申し訳ない気持ちや、障害の受容段階であれば辛さから家族への八つ当たりもあるかと思います。

家族も24時間の介護で不眠になり、自分のやりたいことを諦めないといけなくなり、「在宅での介護は誰も幸せにならない」と仰る方も多々いらっしゃいます。

土屋に入る前は看護師として病院に勤務していましたが、障害者の方と接する機会はほとんどありませんでした。しかし、土屋と出会ったことにより、障害者の多さを実感しております。

「今まで困っていたけれど、どうしようもなかった」というクライアント宅へ土屋が介入することで、家族の介護負担の軽減やその人らしさを少しでも助けられることができ、「入ってもらえて助かっている」など感謝の言葉をかけられた時には、アテンダントの方々と一緒に喜びを感じています。

重度訪問介護は単価が低いという理由で提供したがらない事業所がほとんどですが、重度訪問介護の報酬制度なども本書に書かれているので、「実はこうなんだ!やってみよう!」と思って頂き、他の事業所も重度訪問介護ビジネスに参入し、希望している全ての人が地域で過ごせるようになることを願っております。

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