ジェンダーイクオリティ委員会 レポート 5

土屋のジェンダー平等をどう考えるか―高浜代表インタビュー

11月21日、当社の高浜代表は「輝く⼥性の活躍を加速する男性リーダーの会」のリーダーミーティングに出席しました。企業トップや自治体首長らでつくるこの会は、2014年に発足。現在は300組が参加しており、土屋は昨年加わりました。

この日は武田薬品工業株式会社、株式会社ローソン、株式会社POLAの各社長による基調講演を聞いた後、5人ずつのグループセッションが行われました。最後には参加者がそれぞれ「行動宣言」を書き、高浜代表も以下の通り宣言しました。 会に参加した感想や宣言に込めた思い、そして土屋でのジェンダー平等をどう実現していくのか。ジェンダーイクオリティ委員会の吉岡理恵委員長による代表インタビューをお送りします。

▽キャリアと休みの相関性を作らない

吉岡

リーダーミーティングでは「女性の働きやすさを検討したら、男性の働きやすさにもつながった」との言葉が複数回出てきました。これを受け、土屋で取り組みたいことはありますか。

高浜

男女ともに育休取得100%を目指します。現在女性はほとんど育休を取っていますが、男性は積極的に取りにくいと言われています。その背景のひとつに、育休手当が(給与の)60%しか出ない点があると考えています。男性が家計の生計主体者であるケースは依然として多い。そこで土屋では男女ともに、育休中のマイナス40%分を福利厚生で保障できないか検討しています。

吉岡

現在の当社の男性職員の育休取得についてはどうお考えですか。

高浜

ほとんど取れていません。これまでに2名だけ取得したと聞いています。 私の近くにも育休対象の男性職員がいますが、取れていません。取らない理由を聞いたところ「忙しいから」とのことでしたが、これは明らかにアンコンシャスバイアスですね。現に女性は育休を取っているわけです。現場が忙しくて休みが取れないというのは、無意識の思い込みです。

吉岡

いわゆる「現場」がない男性管理職でも、育休を取っていない人がいますね。取得を促すためのアイデアはありますか。

高浜

推測になりますが、男性は比較的キャリア形成を人生の中心に置きやすいのかもしれません。休むことによる不利益、つまりキャリアの寸断を選択しづらい環境にあるのかなと思います。一方、女性はキャリアとプライベートのバランスを重視する人が多い印象がありますし、そもそも出産などによってキャリアが自動的に寸断されます。

 大事なのは、キャリアと休みの相関性を作らないことではないでしょうか。そうすることで男性は休みやすく、女性はキャリアに対して前向きになりやすくなり、コミュニティ全体が変化すると思います。

▽必要なのは「デザイン思考」

吉岡

リーダーミーティングで、POLAの及川社長が「D&I(Diversity and Inclusion)は組織風土のデザインだ」とおっしゃっていました。この言葉をどう解釈しましたか。

高浜

今までの組織は「組み立て」や「構築」の要素が強かったと思います。これに対して「デザイン」は、アートや建築、ファッションの分野で使われてきた言葉です。異なる形や色彩を組み合わせて化学反応を生んでいくのがデザインですね。これからは能力の総和ではなく、質の違うものを組み合わせて生まれる効果を考えながら、組織をつくっていく。これがD&Iの方向性だと思います。

 武田薬品のウェバー社長はリーダーミーティングで「ジェンダーダイバーシティだけでなく、ジェネレーション・ダイバーシティも大事だ」とさかんに話していました。土屋の場合はアビリティ(障害)や学歴のダイバーシティがあります。デザイン思考で言えば、障害がある人やない人、学歴がある人やない人、経験豊富な壮年期の人や入社間もない人を、それぞれ同じレイヤーに複数配置すれば、また違う可能性が開かれるのではないかと思います。

吉岡

カルビーの伊藤社長は「採用時の男女比率を、階層が上がっても守るべきだ」という趣旨のお話をしていました。当社ではどう考えますか。

高浜

全く同じ問題意識を持っています。たとえば当社の入社時の男女比が男性35%、女性65%だとしたら、執行役員も含めてこのバランスにするのが最適解だと思っています。今はまだ上位レイヤーの男女比が男性60、女性40ぐらいなので、ここをまずは50:50にしたいと考えています。

 リーダーミーティングでは、私がカルビーの伊藤社長に「女性へのエンパワメントを進めようとすると、逆差別ではないかと反発が起きる。男性側の意識啓発も必要ではないか」と質問しました。これに対する伊藤社長の答えは「構成比に応じれば良い」ときわめてシンプルなもので、大変感銘を受けました。このシンプルな考え方が、皆を説得する有効な論拠になるというのが新鮮でした。これもデザイン思考の一環なのかもしれません。

私的領域を考えることは、ビジネスと矛盾しない

吉岡

リーダーミーティングでは、参加者がそれぞれ「行動宣言」を書きました。高浜代表は会社の話にとどまらず、「妻と私の家事分担を50%にする」と盛り込んでいますね。宣言に込めた思いを教えてください。

高浜

参加企業の中では、当社が一番小さくて若い組織だったと思いますし、私自身、メンバー内で若いほうでした。そこで行動宣言には、家庭での行動についても盛り込みました。社会の変化を作っていく上では、私的領域も含めて考える必要があるからです。これはビジネスと矛盾することではありません。  例えばこのインタビューを受けている今も、子どもの保育園の送迎中です。この後も5件ミーティングがありますが、DXを導入したことで両立が出来ています。業務効率や生産性は格段に上がっているわけです。さらに効率化して、労働時間を8時間から5時間に減らせたら、家庭内のジェンダー平等が実現しやすくなります。社会にとってもプラスです。もちろん難しい部分もあるのですが、まずは自分でやってみようと思いました

吉岡

男女の働きやすさにつながる、良い目標ですね。

高浜

私が子どもの面倒を1日中見たり、たまに3日間見たりすることがあるのですが、もうキツイなんてもんじゃなくて、「早く仕事に戻りたい」と思っていました。でも今までは女性がずっとこの状況に置かれていたんですよね。挙句の果てに、男性は「仕事のため」と言って週末ゴルフにまで行く。不平等すぎますよ。そういう意味でも男性育休は、会社だけでなく社会全体にとって大事だと実感しています。

吉岡

働きながら育児する女性が増えていますが、大変な思いをしている方がたくさんいます。無理をしないと両立できないのだろうか、もっと個々人の負担を減らせないのだろうか、と思います。経営者としてはどう考えますか。

高浜

一馬力には限界があるので、負担のパーセンテージを男性側に増やしていくのがひとつです。また、仕事の効率化も必要になってきます。資本主義社会の競争にさらされている以上、優位性を維持することは必須です。その上で、無理して働かなくても済む環境づくりが大切になってきます。その手段のひとつがDX化ですが、できるところから始めるとしたら、無駄な労働や慣習の引き算です。すぐに思いつくのは、先ほども話題に出た飲み会ですね。

結局何のために仕事の効率化をはかるか、という話だと思います。今までは収益増加が目的とされてきたけど、「そこまで無理しなくても稼げて、育児もできる」、そんなワークライフバランスを達成する手段と考えても良いと思います。競争優位性との矛盾もないので、社会と個人の幸せを両立するためにも、大胆に取り組んでいくべきだと考えています。

「居心地の悪さ」が変化につながる

吉岡

同じく子どもを育てる立場の男性に、どのようにメッセージを伝えれば良いと思いますか。

高浜

世代交代が進めば、男性の育児参加も自然と進むのだろうと思います。私は50歳ですが、30代前半の男性社員は当然のように家事や育児をしています。お手本にしたいと思うくらいです。一方、彼らより上で、私より下の世代の一部男性には、全く育児参加する気がない人たちがいます。管理職や役員にもいますね。そういう人たちにとって、僕のこの行動宣言やメッセージは嫌なものだろうと思います。

吉岡

代表としては、彼らが家事や育児に参加するほうへ近づけたいのか、家庭それぞれという考え方なのか、どちらでしょうか。

高浜

後者です。こちらが変えようと思っても無駄な部分があるので……ただ彼らにとって、会社の在り方とライフスタイルがどんどんマッチしなくなっていくので、ストレスだと思いますね。例えば、仕事後の飲み会を組織としてどう受け止めるか。家事・育児積極派は、子どもの入浴を理由に断りますよね。少し前までは「飲みに行くのも仕事のうち」「上司の誘いを断るなんて」といった風潮がありましたが、もうそういう時代ではありません。当社では私的・公的領域ともにジェンダー平等を進めたいので、公的領域のほうが上、とはしたくない。組織として、価値観をシフトしていく必要があります。それに今の若い人は、飲み会を強制する会社に入りたくないだろうと思います。組織の生存戦略にもかかわる話なんです。

吉岡

代表がメッセージを発し続けることで、今は育児・家事参加ゼロの人が自然と5に、いずれは10にと増えていくと良いですね。

高浜

介入はしませんが、風土は変えたいと思います。現在参加がゼロの人は、会社での居心地が少しずつ悪くなっていくと思うんです。自分が変わるか、組織から去るかの2択になってくる。ただ、去るのはストレスが大きいですよね。変えようとしてなくても、おのずと変わっていくケースもあるかもしれません。

吉岡

5年後がたのしみですね。改めて、リーダーミーティングに参加した感想をお願いします。

高浜

D&Iは、市民活動の世界では1960年代から語られてきている言説です。そこに今、企業が乗っかってきているわけです。私は市民・組合VS企業といったフレームワークで生きてきたので、両者が「統合」されつつあるのは感慨深かったです。いわゆる大企業の偉い方たちがD&Iに適応し、自分の言葉で表現していく。世界や日本をリードしている人たちはやはり違うなと思ったし、こういった場に参加できて本当によかったです。

編集・構成:ライター原菜月

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