知的障害者地域生活推進委員会レポート【強度行動障害との向き合い方】

「強度行動障害」がある方とのコミュニケーション方法・考え方や注意点について

自傷行為や器物破損、好きなものへの強いこだわり…いわゆる「強度行動障害」がある方とのコミュニケーションは、決して簡単なものではありません。

3月22日に開かれた知的障害者地域生活推進委員会では、国立重度知的障害者総合施設のぞみの園(群馬県高崎市)の国立のぞみの園 施設事業局 生活支援部 特別支援課 第1かわせみ寮 副寮長 松本 佳雅さんにご登壇いただき、考え方や注意点をレクチャーいただきました。

強度行動障害は「状態」を指す言葉

のぞみの園の「かわせみ寮」では、主に行動障害のある自閉スペクトラム症の方や、精神科病院に社会的入院をしていた知的障害者の方を受け入れています。入居は2年間。

私が担当する第1かわせみ寮では、6人が暮らしています。 

入居者の多くは、強度行動障害があります。入居者の方々は例えば、手の届く範囲にあるものをほとんど壊してしまうケース。窓枠に足をかけ、天井の配線、電気、エアコン、換気扇のカバーなどを取ってしまいます。

他にも他害行為や自傷行為をしてしまうなど、さまざまな状態の方がいます。

実は、強度行動障害は「生まれ持った障害」ではなく、特別な支援を必要とする「状態」を指す言葉です。環境などによって、状態が良くなったり、悪くなったりします。

今回は、主に強度行動障害がある自閉スペクトラム症の方を中心に、のぞみの園でどのように支援しているかをお話します。

「熱心な無理解者」にならないために

昔は「母親の愛情不足が原因だ」という誤った情報が主でしたが、自閉スペクトラム症は原因不明の、生まれつきの障害です。さまざまな症状の集合体で、人によって違います。

主な特性は①対人関係が苦手、②コミュニケーションが苦手、③想像力の障害-の3つです。

これらを知らないまま支援すると、「熱心な無理解者」となり、かえって混乱させる原因となってしまいます。まずは、本人がどんなことで困っているかを知っていきましょう。

対人関係が苦手

①自分の世界に閉じこもり、人と関わらない「孤立型」、②相手の様子や反応に構わず、関心があることを積極的に話し続ける「積極キー型」、③働きかけには応じるが、自分から他者に働き掛けない「受動型」-などがあります。

相手の表情を読み取ること、暗黙の了解や社会的なルールを理解することが苦手です。

コミュニケーションが苦手

相手の言葉を理解することや、自ら言葉で伝えることが難しいとされています。

一度にたくさんの情報を処理するのも不得手。抽象的であいまいな表現にも注意が必要です(例:支援者が「まっすぐ家に帰ってね」と言うと、「曲がらないと帰れません」といった答えが返ってくる)。

想像力の障害

目の前に無いものをイメージするのが苦手です。自分で予定を立てたり、いつもと違うことが起きたときに対応したりすることが難しいとされます。

ほかにも、「大きな音が苦手」「蛍光灯のちらつきが気になって集中できない」「洋服のタグが肌に当たって痛みを感じる」など、感覚過敏や鈍麻のケースがみられます。

支援者は文化の「通訳者」

自閉スペクトラム症の方には、こういった独自の感じ方や考え方があります。

コミュニケーションを取れないわけではなく、方法が違うなんだけです。支援者は「自閉スペクトラム症の文化」と、自閉スペクトラム症ではない方たちの文化をつなぐ通訳者だといえます。

強度行動障害は、「伝えたいことが伝わらない」「情報や刺激に偏りがあり、分からない」といった状態の積み重ねが原因です。海外で言葉が伝わらない状況をイメージすると、わかりやすいかもしれません。

自傷や他害の行為は、周囲を困らせるためのものではなく、本人が困っているサイン。「一番困っているのは本人なのだ」と理解することで、ようやく支援のスタート地点に立つことができます。

基本は「目で見てわかる支援」

では、どのようにコミュニケーションを取り、支援していけば良いのでしょう。まず前提として、「コミュニケーションには必ず相互関係がある」と認識することが大切です。

自閉スペクトラム症の方と接する際は、「コミュニケーションを深めていこう」と考えるよりも、基本となる「表現」と「理解」を成立させていくことが大切です。

また、先ほどお話したように、自閉スペクトラム症には「想像力の障害」「複数の情報を処理するのが苦手」といった特性があります。そこで大事なのは、目で見てわかる支援、すなわち「構造化」です。

構造化は、私たちの日常生活にも組み込まれています。例えば、駅にあるゴミ箱。

可燃ごみを捨てる場所と、ペットボトルを捨てる場所は、色や形で区別されていますよね。このように、生活するうえでの工夫をするイメージで、自閉スペクトラム症の方への支援を組み立てていきます。

構造化の例

構造化の例

1)パーテーションを活用し、着替えのエリアと日中活動のエリアを分ける
⇒外からの刺激に影響を受けやすく、境界を理解するのが難しいため

2)お風呂の手順(服を脱ぎ、シャワーを浴び、湯船に入って、タイマーが鳴ったら出る)を書きだす
⇒「何を、どのぐらい進めるのか」「どういう状態になったら終わりか」を伝える

3)イラストが描かれたカードを選んでもらい、コミュニケーションを取る
⇒どのお菓子を食べたいかなど、要求を伝える練習になる

 

行動障害は、日々の支援の積み重ねによって、少しずつ変化がみられるものです。失敗から分かることもあります。焦らず、まずは自分たちのできることから始めてみてください。

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