ジェンダーイクオリティ委員会 【私たちのSRHR(セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ 性と生殖に関する権利)と障害】

㈱土屋顧問 であり 東京家政大の田中恵美子教授が講演

2月28日に開かれた社内セミナーでは、当社の顧問であり東京家政大の田中恵美子教授を招き、障害がある人の性と生殖に関する権利についてご講演いただきました。

当日は約60名の正社員が参加しました。

「あすなろ事件」

昨年12月、北海道江差町の社会福祉法人「あすなろ福祉会」が運営するグループホームで、結婚や同棲を希望する知的障害者が不妊手術や処置を受けていた問題が発覚しました。

1998年ごろから、男女8組16人が手術などを受けていました。法人側は「強制ではなかった」と説明していますが、「育児の支援はできない」として、当人の保護者にも同意書を書いてもらっていたそうです。

1996年までは、知的や精神、聴覚障害者らへの強制不妊手術を定めた「旧優生保護法」がありましたが、それ以降も、強制ではなかったとしているものの、こういったことが起きていたのです。北海道や厚生労働省はこの件を問題視し、道は実態調査を実施しています。

なぜ問題なのかというと、セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(SRHR)に反するためです。

■セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(Lancet 2018)

  • 自分のからだは自分のものとして、プライバシーや自己決定権が尊重されること
  • 自分のセクシュアリティに関して、性的指向や性自認、その表現も含め自由に決められること
  • 性交渉を開始するかどうか、いつするか、決めることができること
  • 性交渉の相手を選べること
  • 安全で喜びのある性経験をもつこと
  • どこでいつだれと結婚するか決めることができること
  • 子どもを持つか持たないか、いつ持つか、なぜ持つか、また何人持つかを決められること
  • 上記全ての権利を得るために必要な情報、資源、サービス、支援を生涯にわたって得ることができ、差別や強制、搾取、暴力が無いこと

今回、あすなろのグループホームで起きたことは、「子どもを持つか持たないか、いつ持つか、なぜ持つか、また何人持つかを決められること」、さらに「必要な情報、資源、サービス、支援を生涯にわたって得ることができ、差別や強制、搾取、暴力が無いこと」に反していたことになります。

実際に育児を支援したケースも

.

「そうはいっても、障害がある人は実際に子育てできるの?」と疑問を持つ方もいるかもしれません。あすなろの事件が発覚した際も、ネットニュースのコメント欄にそういった意見が頻出しました。

先日報道された共同通信の独自調査では、知的障害がある20代以上の5人に1人(19%)が恋愛や結婚、出産を反対された経験があるとの結果が出ました。結婚や同棲、子どもを持った経験がある人は8%。

家族の6割が、子どもをもつことに反対したそうです。この調査は「全国手をつなぐ育成会連合会」を通じて実施されたものですが、当事者の身近にいる人も「障害がある人が育児するのは難しい」と考えている実態が明らかになりました。

ただ、実際に育児できているケースもあります。例えばある社会福祉法人では、シングルマザーの育児をサポートしました。息子さんは現在17歳です。

女性は以前、仕事を休むことがあったものの、子どもを産んでから責任感が強くなったそうです。自分を必要としてくれる存在がいることで成長できるのは、障害の有無に関係ありません。

長崎県の社会福祉法人「南高愛隣会」は、20年近く結婚や出産の支援をしてきました。自主事業で結婚推進室「ぶ~け」を設けています。赤ちゃんが欲しい人には、泣き止まない赤ちゃんを抱っこしてもらうそうです。大変さを知ってもらい、それでも赤ちゃんがほしいということであれば、支援するという体制です。

サポートがあれば、こういったことができるのだと知ってほしいと思います。

障害の有無は関係あるのか?

お子さんを育てられなかった例もあります。九州地方では知的障害がある女性がトイレで赤ちゃんを産み、遺棄につながってしまいました。北日本でもトイレで出産し、そのまま蓋を閉めてしまったケースがあります。関東地方では、グループホームのトイレで出産し、高窓から赤ちゃんを落としてしまった事件がありました。心が痛みます。

共通しているのは、パートナーまたはパートナー以外の人に、妊娠したことを伝えられなかった点です。また、日常的に福祉の支援を受けていたものの、周囲が妊娠に気づいていなかった点も同じです。

 一方、こういった乳児の遺棄事件に、障害の有無は関係あるのでしょうか?例えば最近でも、未婚女性がトイレで出産してそのまま遺棄したケースや、20歳の女性が自宅で出産後、公園に遺棄した事件がありました。やはりここでも共通しているのは、パートナーまたはパートナー以外の人に相談できなかった点です。

 

 障害の有無以前に、私たちは家族や仕事などの事情で、制約を受けていないでしょうか。

性的指向や性自認への理解が浸透していない現在、私たちの権利はちゃんと守られているといえるでしょうか。育児するうえで、情報や資源、サービスは足りているでしょうか。

ぜひ一度考えてみてください。

ディスカッション

セミナー終盤のディスカッションでは、参加者から率直な意見や素朴な疑問が出ました。

田中先生からは「日本は、子育ては親や家族で完結させるべきだという考えが根強い。サポートの制度を増やし、子育てのロールモデルを増やしていくことが大切だ」といったお話がありました。

TOP