【セミナーレポート】医療的ケア児と向き合う当事者が語る『医療的ケア児の”ホント”を知ろう』

医療的ケア児地域生活推進委員会主催セミナー
開催レポート医療的ケア児と向き合う当事者が語る
『医療的ケア児の“ホント”を知ろう』

医療的ケア児地域生活推進委員会では、医療的ケア児の現状や実際のケアの様子を知っていただくことで、一人でも多くの支援者や仲間を増やすことを目的に、2024年3月、本セミナーを開催しました。
医療的ケア児の母であり、重症児デイサービスの管理者である海谷由希氏を講師に迎え、普段、目にすることのない医療的ケア児のリアルな生活を、多くの子どもたちの笑顔を通して、いきいきと語っていただきました。
また、医療的ケア児の支援に携わっている当社エリアマネージャー・大元克也より、事例共有を通じて具体的な支援内容や変わりゆくケアの形についてご紹介しています。

本セミナーでは、医療的ケア児のご家族ならびに現場ワーカーという二つの視点から、「医療的ケア児の現状と未来」について考察しました。

登壇者

海谷由希(特定非営利活動法人 ソルウェイズ 重症児デイサービス あいキッズ管理者)
大元克也(ホームケア土屋 中国ブロック エリアマネージャー)

開催概要

主催:株式会社土屋 医療的ケア児地域生活推進委員会
目的:医療的ケア児についての周知ならびに支援者の育成
開催日時: 2024年3月1日
開催場所:オンライン
対象:株式会社土屋の全職員および外部

プログラム

第一部 海谷由希:医療的ケア児ってなんだろう?
第二部 大元克也:医療的ケア児支援事例共有

講演内容の概要

■ 第一部 海谷由希:医療的ケア児ってなんだろう?

  1. 医療的ケア児とは
  2. 医療的ケア児の実態
  3. 在宅における医療的ケア児の支援体制
  4. 重症児デイサービス あいキッズの事業内容
  5. 自宅での生活
  6. ヘルパーによるケア
  7. 医療的ケア児のお母さんの思い
  8. 大切にしていること

第二部 大元克也:医療的ケア児支援事例共有

  1. ホームケア土屋福山の事例
  2. 医療的ケア児の支援における注意点
  3. 実際の事例共有~Aちゃんの場合~
  4. 実際の事例共有~Bさんの場合~
  5. チームとしての支援
  6. 最後に

■質疑応答
■医療的ケア児地域生活推進委員会 委員長・澤田由香よりご挨拶

第一部:医療的ケア児ってなんだろう?

■プロフィール

名前:海谷由希
在住:北海道石狩市
略歴
2005年より看護師として総合病院に勤務
2017年より重症児デイサービス あいキッズにて看護師として勤務
2022年より同デイサービスにて管理者として勤務

特記事項:現在、11歳になる娘が1歳半時にレット症候群と診断され、経管栄養、痰吸引が必要な医療的ケア児として生活している。5歳時にあいキッズが開所したことから利用契約を行い、海谷氏自身も同所で看護師として勤務を開始。

1医療的ケア児とは

医療的ケア児とは、身体障害や知的障害の有無に関わらず、生きるために医療的なケアと医療機器を必要とする18歳未満の子どものことを言います。主な医療的ケアとして、人工呼吸器の管理・経管栄養・喀痰吸引・導尿・浣腸などの排泄援助があります。

胃にチューブをつなぎ、栄養や水分などを注入するケア(胃ろう)を受けています。

吸引器を用いて、口の中に溜まっている唾液や鼻水などを取るケアを受けています。

2医療的ケア児の実態

厚労省によると、全国の在宅における医療的ケア児の数は、現時点で2万人を超えています。新生児医療の進歩により、超低出生体重児(1,000g未満で出生)や先天的な疾患等のある子どもたちが救われることに伴って医療的ケア児も増加傾向にあります。

3在宅における医療的ケア児の支援体制

医療的ケアは、病気を治す治療的行為とは異なり、私たちが食べたり寝たりすることと同様、必要不可欠なケアになります。現在、そのケアをご家族が自宅で行っているケースがほとんどですが、昼夜を問わずケアが必要なこともあり、ご家族の負担も大きくなっています。
在宅における医療的ケア児の支援体制は、下図の通りです。医療的ケア児とそのご家族を、色々な機関が支えています。

<役割>
市町村…主に福祉サービスの決定や障害者手帳の発行などを担う。
医療機関…かかりつけ医(訪問診療)・訪問看護・訪問リハビリにより医療面で支援を行う。
教育・保育…医療的ケア児は特別支援学校に通うケースが多いが、2021年の「医療的ケア児支援法」の成立後、徐々に一般の保育園や小・中学校に通うケースも増えてきている。
福祉サービス…訪問系:居宅介護や訪問入浴
   通所系:児童発達支援・放課後等デイサービス
   入所系:短期入所
相談支援事業所:主に相談員による個別支援計画に基づくサービス調整

このように多くのサービスや施設が関わり、医療的ケア児は在宅で生活しています。

4重症児デイサービス あいキッズの事業内容

あいキッズは通所系の福祉サービス事業所として、北海道石狩市にて児童発達支援(未就学)および放課後等デイサービス(小中高生)を運営しています。
対象となるお子さんは、医療的ケア児・重症心身障がい児で、1日の定員は5名、在籍人数は15名(20243月現在)となります。職員は看護師(8名)、機能訓練士(3名)、保育士・児童指導員(3名)で、送迎時間が片道30分以内の範囲(石狩市と札幌市の一部)を対象に事業を実施しています。

<あいキッズの1日>

①ご自宅へお迎え

石狩市は3月でも雪が多く降るので、送迎車の周りの雪かきと車に積もった雪を落とすところから私たちの仕事はスタートします。冬の間は雪との格闘です。

②あいキッズに到着

到着後は手洗いや体調の確認をして、「はじまりの会」がスタートします。保育士を中心に、日付の確認やお名前呼びをして、絵本を読んだり、季節の歌を歌ったりします。 

この間も、看護師は子どもたちの傍にいて、医療的ケアが必要な場合にはすぐに対応します。また、ご自宅で行われているケア内容を事前に聞き取りしており、それぞれの利用児さんのスケジュールに合わせて看護師が医療的ケアを行います。

はじまりの会

③あいキッズでの活動

●その日の活動

「はじまりの会」が終わると、その日の活動に入ります。活動の内容は「なんでもやってみよう!」をモットーに、療育チームが会議で検討します。子どもたちが興味を示す活動にはクッキングや室内ブランコ、ハンモックなどがあります。冬場は足湯もとても喜びますし、夏は水遊びが好評で、わかりやすい活動が喜ばれています。

今年のお正月イベントでは“餅つき”を行うなど、スタッフと一緒に楽しみながら、お手伝いをしてもらいました。

●入浴
希望者には入浴サービスも実施しています。小中学生になって体が大きくなってくると、入浴の希望も増えてきます。あいキッズのお風呂はミスト浴となっていて、ドーム型の入浴設備の中にストレッチャーで寝たまま入ります。

温かいミストが出るようになっているので、お湯に浸かっているような気持ちになりますし、とても暖かく、実際にはお湯に浸からないので体の負担や呼吸への影響もそれほどありません。人工呼吸器を装着しているお子さんも、呼吸器を付けたまま入浴することができます。
子どもたちは皆お風呂が大好きで、とてもいい顔をしてくれます。その顔が見たくて、スタッフがお風呂介助を取り合うこともよくあります。

 ●スキンシップの時間

あいキッズでは、タッチングや抱っこといったスキンシップの時間を大切にしています。子どもたちは抱っこが大好きで、抱き上げると笑顔になってくれます。くすぐったり、楽器を一緒に叩くと声を出して笑ったり、「おんぶして!」「抱っこして!」と言ってくれる子もいます。抱っこをすると体の小さな動きでもわかりやすいので、手の動きや表情の変化も察知しやすく、顔や手を触るタッチングや抱っこは大切なケアだと考えています。

●制作活動

あいキッズでは、季節に合わせて製作活動もしています。スタッフと一緒に絵を描いたり、粘土で遊ぶことが多いです。

④帰宅
みなで「かえりの会」をして、朝と同じようにご自宅に送迎を行い、帰宅となります。

 <季節の活動>

季節の活動として、夏は室内でスイカ割りをしたり、ビニールプールにスーパーボールを浮かべてすくったりしています。実際に夏祭りに出掛けるのが難しいので、あいキッズの中でお祭りを感じられるように色々な工夫をしています。


秋には子どもたちも仮装してハロウィンを楽しみます。みな仮装が大好きなので、スタッフも一緒に楽しみながら写真をたくさん撮ります。
冬はスタッフがサンタさんの格好をして、プレゼントを持って子どもたちのところにやってきます。

<おでかけ>

雪が多い季節はなかなかおでかけに行けませんが、雪のない季節には皆でたくさんおでかけしています。春は桜を見に行ったり、夏は海や砂浜に遊びに行ったり、秋には紅葉も見に行きます。
車椅子に乗っていたり、人工呼吸器をしているお子さんは、ご家族だけでおでかけするのが難しいので、気候や天気のいい時は積極的におでかけするようにしています。風や気温、匂いなど、いろんなものを感じて欲しくて、そういう場所に出かけられるように計画を立てながら活動しています。

5自宅での生活

リビングの隣に介護ベッドがあり、いつでもご家族から見えるところで安心して過ごしています。

子どもの世話をしやすいように、ベッドサイドにはご家族がそれぞれ工夫をして、人工呼吸器やケアグッズが整理して置かれています。一番上にあるのが在宅用の人工呼吸器で、それぞれの利用児さんに合わせてドクターが設定してくれます。

 

病院に置いてある人工呼吸器と比べて、在宅用の人工呼吸器は小型のため、持ち運びがしやすく、コンセントがあればどこでも使うことができるなど、取り扱いも簡単になっています。

6ヘルパーによるケア

居宅介護事業所リマ(運営:ソルウェイズ)の管理者さんへインタビュー

医療的ケア児の居宅介護のニーズにはどのようなものがありますか?

年々成長していく子どもたちからは、年齢が上がるとともに入浴介助の依頼が増えてきます。きょうだい児を育てているお母さんからは、“きょうだいの行事や習い事に参加したい”、“ちょっと買い物に出かけたい”などのニーズもあります。学校やデイサービスに行く準備も、お母さんにとって大変な時間帯です。外出準備や帰宅の受け入れは、人工呼吸器を装着していたり、着替えや移乗も介助が必要な場合が多いため、ニーズも高くなります。

医療的ケア児の居宅介護に入るときに、どのようなことを大切にしていますか?

利用児さんやご家族と信頼関係を構築することです。幼児や学童期の場合、本人の好きな遊びをしたり、学校やデイサービスでの出来事をお話しするなど、“関わる時間”を大切にしています。きょうだいがいる場合は、きょうだいとも仲良くなって、私たちが利用児さん本人だけでなく、家族にとっても信頼できる人だと感じてもらうことも意識しています。

同じ法人内で、デイサービスと居宅介護を共通して利用しているお子さんもいますので、ヘルパーさんがあいキッズの様子を見に来たり、私たちがご自宅の様子を見に行ったり、お互い情報交換をしながら支援に入ることも心掛けています。

7 医療的ケア児のお母さんの思い

背景:娘(5歳)
医療的ケア:24時間人工呼吸器装着・痰の吸引・経管栄養(胃ろう)・カフアシストなど

医療的ケアのあるお子さんを、どういう思いで育てていますか?

娘に障害があると分かったとき、“自分の人生が奪われてしまった”と感じました。未来が真っ暗闇になった。それと同時に、当たり前のことが幸せなんだと気づくことができました。色々な人に関わってもらい、心を寄せて一緒に子育てをしてもらっています。毎日の生活が大変じゃないと言えば嘘になるけど、娘のおかげで人との縁や優しさを感じ、知らなかったことをたくさん知ることができました。子育てをしながら私が娘に育ててもらっています。

このお母さんは、娘さんに障害があることが分かってから、医療的ケア児の支えになりたいと看護学校に通って看護師資格を取り、2023年4月からアイキッズで看護師として働いてくれています。

8 大切にしていること

私が大切にしていることは、ひとりひとり愛されるために生まれてきた大切な存在であること。障害の有無、程度に関係なく、それぞれの成長をご家族と共に見守り育てていくこと。そして、嬉しいことや大変なことを含めて、ご家族の思いを支援者が共有しながらチームで支援をしていくことです。

私も娘に障害があると分かったときにショックもありましたし、悩んだこともありました。そういう思いをしましたが、娘を通して素晴らしい出会いがたくさんあり、今もたくさんの支えがあって私たちは元気に生活できています。
私がこうして働けているのも、同じ法人内のデイサービスに娘を預け、そのケアをしてくれているスタッフの支えがあってこそです。

私自身の経験から、医療的ケア児のお母さん達の思いに共感する部分も多く、私が支えてもらっているように、私もお子さんたちやご家族の支えになれたらと日々、ケアにあたっています。

医療的ケア児支援法は2021年に成立し、医療的ケア児についても少しずつ認知されてきていますが、まだまだ不十分で課題も多いと感じています。医療的ケア児について、少しでも興味を持って考えていただけると嬉しく思います。

第二部:医療的ケア児支援
(ホームケア土屋福山)における事例共有

■プロフィール

名前:大元克也
役職:ホームケア土屋 中国ブロック エリアマネージャー
在住:広島県福山市 
略歴:2020年8月より株式会社土屋 ホームケア土屋福山にて勤務
特記事項:介護福祉士の資格取得のため短期大学へ進学。卒業後、1対1のケアが難しい施設介護の現状にギャップを感じ、アパレル、大工見習いに従事。2020年8月、“重度訪問介護”という言葉と出会い介護業界に。「一対一の支援がしたい」という思いから株式会社土屋に入職し、アテンダントからエリアマネージャーへキャリアアップを積み重ねながら、現在も医療的ケア児の支援に従事中。

1 ホームケア土屋福山の事例

部署:ホームケア土屋福山
医療的ケア児の人数:5名
知的障害児の人数:2名(うち1名は強度行動障害)
特記事項:医療的ケア児1名が18歳を迎え、重度訪問介護へ切り替え済
サービス内容:送迎や入浴介助の支援/経管栄養(胃ろう)/喀痰吸引(カニューレ内・口腔内・鼻腔内吸引)

■医療的ケアのニーズ

ホームケア土屋福山では、それぞれのお子さんのニーズに合わせながら医療的ケアを行っています。

<医療的ケアのニーズ>

・訪問教育時

医療的ケア児や重度心身障害児の中には、特別支援学校等に進学して教育を受けることが困難な場合もあります。そういった子どもたちが自宅や施設、入院先の病院で教育を受けられるように、特別支援学校の先生が子どもの生活の場へ訪問し、子どもたちが教育を受けられるサービスが「訪問教育」です。そうした際に、喀痰吸引などの医療的ケアのニーズが寄せられます。

・ご家族の入浴時
ご家族がお風呂に入られる際に、お子さんが一人になってしまう場合、安全面から支援を依頼されるケースがあります。

・きょうだいに関わる行事
きょうだい児のいるご家庭も多いので、きょうだいの運動会や発表会に、ご家族が出席する際に支援依頼を受けています。

・冠婚葬祭

2 医療的ケア児の支援における注意点

医療的ケア児の支援において、事業者およびアテンダントが注意すべき点は大きく二つあります。

①柔軟な対応

子どもの成長と共に身体面・環境面が変わり、それに伴いケアの方法が変化するため、柔軟な対応が求められます。
身体面では成長するにつれ、とりわけ身長・体重に大きな変化が見られるので、身体的なケアの方法が変わっていきます。

環境面では、年齢を重ねることによって使えるサービスが変化するとともに、自宅の新築・改修、引っ越しなどで住環境が変わることもあります。それによりケア方法が変わることもあります。

②繊細なケアの必要性

疾患等により、医療的ケア児の中には骨が弱く、折れやすい子たちがいるため、技術面ではより繊細なケアが必要になります。例えば、てんかん発作を抑える薬を使用することにより骨粗鬆症のリスクが上がる場合もあるので、つつみ込むような形で体位変換を行うなどの介助が必要となります。

3 実際の事例共有~Aちゃんの場合~

利用児:Aちゃん(6歳)
性別:男の子
病名:ゴーシェ病Ⅱ型

<ゴーシェ病とは?>

ゴーシェ病は、グルコセレブロシドという物質が身体の中で分解されず、肝臓、脾臓、骨髄に蓄積することで、肝脾腫や骨折(病的骨折や骨クリーゼ)のリスクが高まる病気です。

とりわけII型は乳児期に発症することが多く、肝脾腫の他にも、精神運動発達遅滞や痙攣など神経症状を有し、急速に進行します。最重症型では新生児期に発症します。

ポイント:疾病によりケアの方法も異なるため、まずは疾病の理解が大切です!

Aちゃんの場合

Aちゃんは生後6か月頃までは、お座りや両親の声かけに反応するなど、通常の成長過程を辿ってきましたが、突如ゴーシェ病Ⅱ型を発症しました。
現在、ご両親、妹と同居し、今年から小学生になるのをきっかけに訪問教育を予定しています。現在、その際の支援依頼を受けています。

Aちゃんの支援

<洗髪・清拭>
ベッド上に専用のマットを置いてヘルパーが洗髪を行い、同時に訪問看護さんが清拭をしています。



体温の低下や骨折、皮膚を拭く強さや人工呼吸器の回路に注意しながら支援を行います。
腕や足を少し持ち上げるような動きでも、そのタイミングで痙攣が起こったりすることもあるので、注意していないと骨を折ってしまう可能性があります。そのため、優しく、手を添えるような形で、触れ合ってケアを行います。

<入浴>
洗髪・清拭後に入浴介助を行いますが、ご自宅の環境やお子さんの状況により様々な入浴方法があります。Aちゃんは人工呼吸器を装着しているので、お風呂場まで移動するのが難しく、専用の浴槽を準備してベッドの横に置き、すぐに浸かれるような形で準備を進めています。

Aちゃんの支援開始当初はご家族、訪問看護さんと共に色々と試行錯誤しました。

最初はビニールプールをベッドに横に広げて入浴介助をしましたが、水が溢れて大変なことになったので、大きなコンテナ(ホームセンター)を浴槽代わりに使っていました。

その後、ご家族さんが専用の浴槽を購入し、現在も使用しています。

この浴槽は、お子さんの身体に合わせて幅も広げられるので、ある程度成長しても使用可能となっています。

支援では、人工呼吸器を装着したまま、だっこの状態でお風呂に移乗して入浴します。

訪問看護さんが頭側を持って人工呼吸機の管理をしながら、呼吸器の回路や足の角度、負荷に注意し、発作の有無を確認しながら進めます。

人工呼吸器を置いてあるワゴンはご家族の工夫で移動できるようになっており、経管栄養のグッズもかけられますが、人工呼吸器の設置場所や移動は適正に管理しなければなりません。

回路がピンと張った状態でベッドからお風呂に移乗してしまうと人工呼吸器が外れる危険もあり、ベッド横で入浴をされる際には注意が必要です。

訪問看護さんが入浴介助をしている間、ヘルパーがベッドメーキング等、入浴後すぐに身体を拭いて休めるように準備します。その後、ヘルパーも入浴支援に介入し、Aちゃんの身体を支えるなどの対応をしています。

Aちゃんの支援では、他にも送迎時の移乗や、ご家族が入浴される際に就寝準備を行うなどがあります。

4 実際の事例共有~Bさんの場合~

利用児:Bさん(19歳)
性別:男性
病名:脳性麻痺

Bさんの場合

Bさんはホームケア土屋福山事業所の初の医療的ケア児で、支援開始当時は15歳でした。成長と共に身長や体重も増加したことから、地域の高齢女性ヘルパーさんではBさんの身体を支えるのが困難になり、私どもが支援依頼を受けました。支援内容は経管栄養(胃ろう)の他に、2人介助での入浴支援です。
Bさんが18歳を迎えた時に、居宅介護と併用で重度訪問介護を申請し、現在は複数の事業者が支援に入る形で居宅介護・重度訪問介護双方を利用しています。
またBさんは支援開始当初から、18歳時点での気切を検討しており、19歳現在ではすでに気切手術を終えています。そのため、現在は経管栄養とともに喀痰吸引の対応も行っています。

Bさんの支援の変化(15歳時と19歳現在)

〇居宅介護のみ15歳時

・入浴支援
・帰宅時の移乗、おむつ交換

1日の流れ:日中は支援学校高等部へ通学し、放課後等デイサービスを利用。帰宅後に、ヘルパーがベッドに移乗して排泄介助を行い、支援が終了。
支援時間:それぞれ1~1.5時間

〇重度訪問介護の併用を行っている19歳現在

・入浴支援
・帰宅時の移乗、おむつ交換
・重度訪問介護による夜間帯(21:00~7:00)の支援

1日の流れ:日中は生活介護事業所にて日中活動支援を利用。帰宅後に、ヘルパーがベッドに移乗して排泄介助を行う。その後、重度訪問介護を利用し、21時~翌朝7時の医療的ケアおよび見守り支援。時折、ショートステイを利用。

5 チームとしての支援

医療的ケア児の支援では、ご家族との話し合いも大切な要素です。Bさんのご家族とは、「お子さんが小さい頃から事業所が支援に関わることは、医療的ケアを必要とする子どもを後々まで支えていくにはとても重要」との話し合いがなされました。
やはりお子さん・ご家族・ヘルパーがお互いの存在や支援のあり方に慣れていくには時間がかかります。また、ヘルパーの入れ替わり、退職等もあり、限られたヘルパーだけが支援を継続することが難しい中で、支援開始当初から事業所としてご家族とのコミュニケーションを大切にし、医療的ケア児がヘルパーという存在に慣れる環境を作る必要性を感じます。
そして、環境の変化やお子さんの身体の状況・成長に合わせて、私たち事業所側も様々なサービスを提供する必要があり、柔軟に支援の形を変化させなければいけません。
コミュニケーションを図り、お互いを理解することによって、成長過程にあるお子さんだけでなく、ヘルパー・事業所、そしてご家族も“チームとして”、ともに成長していくケアができると感じています。
そして、それこそが、医療的ケア児の支援に関わる上でのやりがいや楽しさ、魅力だと思います。

6 最後に

障害をお持ちの方へのケアでは、“相手の立場に立って考える”ことが非常に重要です。とりわけ医療的ケア児の場合では、お子さんだけでなく、“ご家族との関わり”も支援の鍵になりますし、励みにもなります。

親にとって子どもは“宝”であり、心配事も多くあります。ヘルパー・事業者としても、そういうご家族の気持ちをしっかりと理解してケアに当たることが大切です。

とはいえ、ケアの対象は“お子さん自身”であることに、ぶれてはいけないと感じます。ご家族さんとのコミュニケーションも大切しながら、支援の対象となる医療的ケア児が“この先どのように過ごしていけるのか”、“こういう未来を生きてほしい”などを考えながら支援に当たることが重要であり、それこそが医療的ケア児の支援に関わるやりがいや楽しさ、そして重要性を感じるところだと思います。

医療的ケア児に対する支援が、今後全国でも広がっていくように、ホームケア土屋福山としてもより一層精進していきます。

質疑応答

医療的ケア児と関わる上で心がけていることは?

(海谷):子どもたちと関わるときには、“自分が機嫌よくいること”を意識しています。医療的ケア児は言葉でのコミュニケーションはなかなかできませんが、事業所内の雰囲気や空気感をすぐに察知するので、雰囲気が悪いと居心地も悪いように思われます。
スタッフがリラックスした感じで、のびのびしていると、子どもたちの表情が良いと感じるので、子どもたちからも癒しの力をもらいつつ、自分自身がなるべくご機嫌にいられればと思っています。

(大元):お子さんは感性がすごく敏感なので、私たち支援者もまずは楽しんでケアに当たるようにしています。一緒におふざけをしたり、明るい声かけをしたりと、楽しい雰囲気を作ることに気を置きながらケアに携わっています。

緊急時の対応について、どのようにされていますか?

(海谷):急変時にはもちろん救急車を呼ぶことになると思いますが、あいキッズは3~4分で救急車が到着できる距離にあるので、その間を乗り切るためのマニュアルを作っています。
とはいえ、急変時にマニュアルを読み返すことは難しいので、シンプルに役割を分けています。まずは当直の常勤看護師がリーダーとなり、指示出しをするなどメインで動きます。そしてリーダーのヘルプをする看護師、救急者を呼ぶ方、ポイントとなるのが他の利用児さんの対応するスタッフです。このように、大きく役割を分けて訓練しています。
また、呼吸状態や発作など、ある程度予想がつく事柄に関しては、それぞれ事前にご家族に聞き取りをしています。その上で、個々のお子さんへの対応を約束事として書類にまとめており、具体的な対応の仕方についてもすぐに確認できるようにしています。

その他に、普段から消防署に見学に行くなど、地域の消防士さんや救急救命の職員さんに、あいキッズと、人工呼吸器などの医療的ケアを必要とする子どもたちの存在を認識してもらう取組みをしています。

緊急時や災害時にスムーズに手助けしてもらうためにも、地域の方々に「知ってもらう」ことが大事だと考えています。

(大元):事業所としては、ご家族さんや訪問看護さんがおられる状況の中で支援を行っているので、急変時には看護師さんが主治医に確認をとって対応の方法をご指示頂いたり、状況の判断をどのように行うかについてご家族さんと随時打ち合わせしながら対応を進めています。

現在の課題は地域への周知ですが、自宅における支援ということで、地域性によって異なるのが現状です。やはり、ご家族の考えや地域性によって、地域の理解に行きつくまでの道のりを辿れていないケースもあります。これは行政の課題でもありますが、災害時などは地域の助けが必要だと感じているので、今後も事業所として協力できることを探していきたいと考えています。

医療的ケア児地域生活推進委員会
委員長・澤田由香よりご挨拶

医療的ケア児地域生活推進委員会は2023年11月に立ち上がり、現在までに医療的ケア児に関するトークイベント(障害者・高齢者福祉イノベーションリビングラボ主催)における当社代表取締役・高浜敏之と衆議院議員・野田聖子氏との対談、第2回全国医療的ケアラインのイベント参加など、医療的ケア児の現状に関する情報収集を主に行ってきました。

この度、当委員会では医療的ケア児に関する周知活動の一環として、実際の状況を目にすることがない医療的ケア児とそのご家族の暮らしについて知っていただくべく、本イベントを企画しました。

医療的ケア児に対する社会課題は世の中で認知されてから日が浅く、制度が不十分であったり、地域で格差が生じていたりするなどの課題があります。

本イベントを通して、医療的ケア児の生き生きと活動する姿や表情の豊かさ、笑顔を通じて、医療ケア児の支援の必要性だけではなく、支援の楽しさややりがいについて知っていただけたと思います。

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