人類は生き延びられるのか〜畑に集う②〜 / 安積遊歩

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

私が出資した畑は1町4反歩くらいある。もともと農業者の資格をもって畑を購入した友人は、出資額によって貸し農園や区画をある程度厳格に決めて最初はやるつもりだったらしい。ところが、畑の好きな若者たちの中に強力に人を誘うことが得意な人がいて、その畑に関わりたいという人の数がどんどん増えていって素敵な集いになった。

集う人全員が、農薬や化学肥料を使わない農を目指している。私の出資した最大の理由はその点にある。つまり、私たち人類は、大地を汚し過ぎてきた。農薬や化学肥料はもちろんだが、最近は有機農業の家畜の糞を使った肥料も大地のためにはあまり良くないと聞くようになった。

有機肥料は、家畜に遺伝子組み換え大豆やとうもろこしを大量に食べさせ、その上抗生物質やホルモン剤なども混ぜられている。いくら農薬や化学肥料を使わなくても、そうした有機肥料は野菜の力を100%引き出せないと聞くようになった。だからこの畑は、有機肥料もいれないというので、ますます応援したいと思ったわけだ。

ところで、畑に集うのは最高に素晴らしいが、今夏日本ではオリンピックを開き、海外約9万人の人々がやって来るという。コロナがなくても私はオリンピックは優生思想の最大のイベントに見えて、少しも楽しいとか良いものだとは思っていない。

小学校2年のときに近所の家で東京オリンピックを観た。その時はここまで嫌だとはもちろん思っていなかった。しかし、東京オリンピックが終わってからそれほどたたない時に、同郷でマラソンで銀か銅メダルをとった円谷選手が、金メダルをとれなかったことに責任を感じ自殺したというニュースを聞いてショックを受けた。彼はいろんなことを死ぬ前からも死んでからも言われたが、それを見聞きしてどんどんオリンピックが嫌になっていった。

そしてパラリンピックの報道には、疑問を通り越して嫌悪すら感じたものだった。重い障がいをもって施設の中に閉じ込められている人には一生関係のないこと。一部の競争主義にのれる障がいをもつ人のパフォーマンス、さらに言えばオリンピックには出られないけれどこっちになら出てもいいよというような、差別的な見せ物ショーにしか思えない。

最近はマラソンや砲丸投げで、義足や義手をつけたパラリンピックの選手のほうがオリンピックのアスリートよりも記録が出るというのを聞いて、さらに馬鹿馬鹿しくなった。記録で競争してそれを褒め称え合う、そんなことより障がいをもつ人の介助を喜んでやることや、畑に溢れるいのちたちにエネルギーをもらいながら、おいしい野菜を育てたりすることの方が、どんなに意義のあることか。この、孤立し孤独が蔓延する社会のなかで、集うことが喜びであることはよくわかる。しかし、その集いのなかに、比較・競争を持ち込むことは、さらにいのちを疲弊させることに気付いてほしい。

そのように思い続けながらオリパラを見ていたところに、このコロナ禍である。去年はこの時期にはもうとうにオリンピックの延期は決まっていた。ワクチンの開発を急いで来年こそと言っていたし、日本でコロナがこのように深刻化するとは誰も思っていなかったのだろう。しかし、状況は過酷に悪化・深刻化しているのだ。

畑に集うのとオリンピックに集うのは、このコロナ禍で、あまりにも大きな違いがある。もうオリンピック開催まで50日を切ってしまった。このコラムがアップされる頃には、40日さえきっているかもしれない。畑に集うのは、まったく密ではないし、気心の知れた仲間たちばかりだが、オリンピックによって海外からも国内でも人々の移動はおびただしく、その後の感染拡大は必至だ。あまりにもさまざまなリスクがありすぎる。それでもやめないのは、畑から考えると本当に不思議になる。しかしすでに不思議がって見ているだけではリスクが大きすぎる地点にまで来てしまっている。

戦前、戦争を止められなかったのは、治安維持法によって脅迫され黙らされていたから。でも今は、オリンピック後に感染拡大の危機が明らかでも、治安維持法はないのだから、私たちはもっともっと声をあげられるはずだ。過去に学び、今を生き、未来をつくること、畑に集う仲間たちと共に、競争と政治の無策から自由になっていこう。

 

◆プロフィール
安積 遊歩(あさか ゆうほ)
1956年、福島県福島市 生まれ

骨が弱いという特徴を持って生まれた。22歳の時に、親元から自立。アメリカのバークレー自立生活センターで研修後、ピアカウンセリングを日本に紹介する活動を開始。障害者の自立生活運動をはじめ、現在も様々な分野で当事者として発信を行なっている。

著書には、『癒しのセクシー・トリップーわたしは車イスの私が好き!』(太郎次郎社)、『車イスからの宣戦布告ー私がしあわせであるために私は政治的になる』(太郎次郎社)、『共生する身体ーセクシュアリティを肯定すること』(東京大学出版会)、『いのちに贈る超自立論ーすべてのからだは百点満点』(太郎次郎エディタタス)、『多様性のレッスン』(ミツイパブリッシング)、『自分がきらいなあなたへ』(ミツイパブリッシング)等がある。

2019年7月にはNHKハートネットTVに娘である安積宇宙とともに出演。好評で再放送もされた。

 

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