歌は世につれ⑤ / 浅野史郎

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

前回書き残した歌について、少し長くなるが書いてみる。

「人生の扉」
九州での講演を終えて東京に帰る飛行機の中の座席にいて、イヤホンから流れる歌を聴いているうちに涙が出てしまった。それが竹内まりやの「人生の扉」という歌だというのは後から知った。歌詞に心を動かされてしまったのである。
演奏時間5分48秒と長い曲であるので、歌詞を全部書くわけにはいかない。2番の歌詞に「人生の扉」が出てくる。

満開の桜や 色づく山の紅葉を
この先いったい何度 見ることになるだろう
ひとつひとつ 人生の扉を開けては 感じるその重さ
ひとりひとり 愛する人たちのために 生きてゆきたいよ

竹内まりやの詞では英語がひんぱんに使われるが、この歌の最後の歌詞も英語である。それがとてもいい、深い。

I say it’s sad to get weak   弱々しくなるのは悲しいと私は言う
You say it’s hard to get older 老いることはつらいとあなたは言う
And they say that life has no meaning そして、人生には何の意味もないと人は言う
But I still believe it’s worth livingだけど私はそれでも信じる。人生は生きるに値すると
But I still believe it’s worth livingだけど私はそれでも信じる。人生は生きるに値すると

無粋であり、やらずもがなだが、私なりの日本語訳もつけた。
この時の私は、ATL(成人T細胞白血病)から生還したばかりであった。「人生の扉」の詞に感動して涙がこぼれたのは、こういった事情もあった。その後、「運命を生きる」という本を出版したが、その副題は「闘病が開けた人生の扉」であった。この本の出版パーティでは冒頭にこの「人生の扉」を流した。

人生についての歌で心に残るほどのものは、たくさんあるはずだと思い、ネットで調べてみた。あった、あった、「泣ける歌 人生編ランキングベスト30!」というもの。1位「生きてることが辛いなら」/森山直太朗(2008年)、2位「時代」/中島みゆき(1975年)、3位「栄光の架け橋」/ゆず(2004年)であった。「人生の扉」は25位。これはダメだ。私が思うものはランキングに入っていない。そこで、他人が選ぶのではない、私が選ぶ人生の歌をあと2曲。

「わが人生に悔いなし」作詞:なかにし礼 作曲:加藤登紀子
歌うのは石原裕次郎である。レコード発売は昭和62年(1987年)4月。裕次郎が亡くなるのは同年7月17日。この歌をレコーディングした頃は、既に死期を悟っていたのではないだろうか。
1番の歌詞は「長かろうと短かかろうと わが人生に悔いはない」で終わる。3番は「桜の花の下で見る 夢にも似てる人生さ 純で行こうぜ 愛で行こうぜ 生きてるかぎりは青春だ 夢だろうと現実(うつつ)だろうと わが人生に悔いはない わが人生に悔いはない」
52年の人生はあまりにも短い。それでも、「わが人生に悔いはない」と最後に歌う。なんと壮絶な人生の終わり方だろう。

「My Way」
作詞は1950年代に“ダイアナ”でデビューしたポール・アンカ。尊敬するフランク・シナトラに捧げた曲である。

そして今 終わりが近づき
私は終幕を前にする
友よ 私ははっきりと言う
私の場合はこうだった
確信をもって言おう
満たされた人生だった
すべての道を旅した
そしてもっと もっとそれ以上に
私の道を歩んだ

日本語訳だと陳腐な歌詞に聴こえるが、フランク・シナトラが歌うのを聴くと70歳を超えた老人(私のこと)は、ジーンときてしまう。自分が歩んできた人生を思うからだろう。この歌はエルヴィス・プレスリーも歌っている。死の6週間前のステージでも歌った。まるで自分の死期を知っているかのように歌い上げる。42年の短い人生。その短い人生をエルヴィスは見事に生き切った。

私は人生の最期に聴く歌を決めてある。エルヴィス・プレスリーのゴスペルである。クリスチャンではないが、葬儀そして偲ぶ会でもエルヴィスのゴスペルを会場で流してもらいたい。

 

◆プロフィール
浅野 史郎(あさの しろう)
1948年仙台市出身 横浜市にて配偶者と二人暮らし

「明日の障害福祉のために」
大学卒業後厚生省入省、39歳で障害福祉課長に就任。1年9ヶ月の課長時代に多くの志ある実践者と出会い、「障害福祉はライフワーク」と思い定める。役人をやめて故郷宮城県の知事となり3期12年務める。知事退任後、慶応大学SFC、神奈川大学で教授業を15年。

2021年、土屋シンクタンクの特別研究員および土屋ケアカレッジの特別講師に就任。近著のタイトルは「明日の障害福祉のために〜優生思想を乗り越えて」。

 

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