今回は私の生活を支える介護者の育成研修中に、障がい者の私が感じる‟身体の扱い方“にフォーカスをあてて書いていこうと思います。以前にも扱ってきたテーマですが、古くも新しい永遠のテーマなので、改めて振り返りつつ書いていきます。
姿勢が安定しやすい電動車椅子に座っているとき、私は少しおぼつかないながらも手が使えます。しかし姿勢がしっかりと保てていないとできないこともあります。また疲労が蓄積しているとそれが痛みとなって身体に表れることも多く、その強弱もその時々で全く異なります。
日内変動もあるため、この身体状況の変化を新人介護者さんたちに伝えることは非常にむずかしいと感じます。ともすれば「自分で出来ることをさぼって楽をしている」という評価をする介護者さんも少なくはありません。特に高齢者介護の経験を経て私たちのように重度訪問介護利用の障がい者支援を始める人に、そのような傾向がよくみられます。
では本題に戻り、私の身体介護をする新人介護者の研修時に、私が彼女たちに伝えていることをいくつか例にあげながら、伝えることのむずかしさについて書いていきます。
私は自分で自分の身体を動かすことができません。また関節の可動域制限と拘縮があるため、身体がとても固いのです。これを念頭に置いておかなければ、身体にアプローチした日常生活の援助は成り立ちません。
骨が折れやすい、身体の動かし方にミリ単位の調整が必要といった人たちとはその手技の在り様や考え方が根本的に違うのです。
加齢とともに、デリケートな身体介護を受けなければ、身体にダメージが加わるようになるでしょう。その意味では、近い将来、そうっと丁寧な身体介護を全否定してはいられない時が来ることを覚悟しておかなければいけないとも思っています。そのためこれから書くことは、短期的なことになる可能性もあります。
新人研修の場で毎回感じることは「介護者にとって人の身体に触れたり、人の身体を他者の力で動かしたりすることは怖いことなのだ」ということを私自身がよく頭に入れておかなければいけないということです。他の利用者様の介護に入っている人の場合、その方がどのような身体の触れ方を好んだかが大きく関わってくるように思います。
私の好む身体介護はそうっと優しく…ではなく、反動や勢いをつけて格闘技の決め技に挑むときのように、一気に強い力で行うものです。そのため研修の場での説明は擬音語だらけになります。
たとえば介護用リフトに乗ってズボンをはいたり脱いだりする場面では「まず膝の内側から(介護者の)手を肘関節くらいまで深く入れ込んで、上半身がのけぞるほどにグイーンと足を持ち上げてほしい。太ももの下とベルトの間にすき間をつくって、太ももの後ろからベルトの中に溜まっている布をお尻の方向にぎゅうぎゅうと引っ張ればお尻にズボンが被せやすくなる」というように。
私の研修は二回で独り立ちというのがスタンダードです。一回目は先輩介護者が行う日常生活の支援の流れを一通り見てもらいます。排泄介護や衣服の着脱のように日常の中で複数回必要なケアについては新人介護者に部分的に体感してもらい、どこができそうでどこがむずかしいのかを明瞭化しておきます。
二回目は新人さんが中心となって行い、つまずきのある動作を先輩が手取り足取り教えていきます。その際、懇切丁寧に説明するといったことはせず、新人介護者の手の上に先輩の手を重ねて倒し加減や力加減を体感で覚えてもらうというスタイルにしています。
そうすることで見ているだけでは分からないポジションの取り方、力の入りやすい位置等、詳細な点が生き写しの如く新人介護者へ伝わります。もちろん人によって背丈も違えば筋力も違うので、先輩のやり方が新人さんには合わない、むずかしいという場合もあります。
そういった部分はそれぞれのやりやすい方法を編み出してもらっています。そうしながら私の好みの介護が受けられるようになり、日常生活を快適に送ることができるのです。
私の寝返りや介護用リフトでの移乗介助においては、その力加減と固い身体をどれだけ曲げ伸ばしして大丈夫かを掴むことがポイントなのです。そのため、いざ研修が始まると「そうっとなでるのではなく、えいっと曲げるか、今の10倍の力を込めてごしごし拭く」とか「瞬間的に腰が浮くほどよいしょと持ち上げる」などの会話が飛び交い、それがその通りできるようになると、私にとって信頼と安心をもてる介護者となるのです。
女性介護者はさまざまな事情で入れ替わりが激しいため、いつもどこかの枠で研修をしているような状況です。しかし人生の応援団が多いことは安心につながるので、これからもポジティブに研修に挑んでいこうと思います。
次回書こうとしているリハビリ分野の人たちの引継ぎは技術職ゆえ分かりません。手取り足取り見せて教えるということがないので、いつも不思議に感じています。その辺りを中心に深堀りして書いていこうと思います。
◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生
養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。
◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動