【異端の福祉 書評】障害福祉に思うこと / 妹尾 岬(ホームケア土屋 福山)

障害福祉に思うこと / 妹尾 岬(ホームケア土屋 福山)

高浜敏之氏の『異端の福祉』は、障害者福祉における重要なテーマについて深く考察している本であり、著者の経験と理論を通じて多くの示唆を得ることができると感じました。
また、著者の経験や理論に基づく考察は、障害者福祉における様々な課題や解決策について考えさせられるものでした。著者の考えは理論的な枠組みだけではなく、現実の障害者たちの生活や彼らが直面する課題にも根ざしているものだと感じました。

本書では、障害者福祉において個人の自己実現と社会的な支援の両方が重要であるという著者の考えが示されています。著者は、健常者ならごく当たり前に持っている選択が障害者であるということで奪われてしまっていることが問題だと考え、健常者と同じように個人の自己実現が障害者にとって不可欠であり、社会的な支援や共同体の形成も同じくらい重要であると述べています。

この視点は、障害者の人権や尊厳を尊重しつつ、社会全体で彼らが生活しやすい環境を築くための方向性を示唆していると感じました。

さらに、障害者と支援者との関係性についても掘り下げられています。障害者は過去長い歴史の中で社会の隅に追いやられ、健常者目線の優しさと配慮により選択肢や権利を奪われてきました。

このようなことが起きないように、支援者は障害者の自己決定を尊重し、彼らが選択肢を持ち、自己決定を行うことができるように支援することが必要だと感じました。そうすることによって障害者は、ようやく自分の人生に自分で責任をもつという意味での「自立」をすることができ、障害者にとっての「自立」した人生を送ることが初めて可能になるのだと思いました。

さらに、著者は社会全体での協力の重要性も指摘しています。障害者福祉においては老人介護と比較し、まだまだ参入している企業が少なく、そもそも制度を知っている人自体が少ないとのことで、これも障害者が長い歴史の中で社会の隅に追いやられていたことが影響しているのかと思いました。

障害者の「自立」には社会の理解や協力が欠かせない要素であり、社会全体の支援が必要なことがわかりました。この観点から、本書は社会的な課題への取り組みや福祉制度の改善についても考えさせられるものでした。

本書を通じて、今まで知らなかった障害者福祉の歴史、問題点や課題を知ることができました。障害者の自己実現と社会的な支援のバランスを取ることは、貧しくなりつつある現代日本において容易なことではありませんが、目を背けることのできない部分でもあると思います。

社会全体が障害者のニーズを理解し、バリアフリーな環境や包括的な支援を提供することで、彼らが社会参加や自己実現を果たすことができるからです。そのためには、教育機関や雇用場所、地域コミュニティなど、さまざまなレベルでの意識改革と取り組みが必要だと感じました。

一方で、障害者自身が間接的にではなく、直接的に社会貢献できる場がないと金銭的に余裕のない社会では障害者への限りある資源の提供は理解してもらえず、行動にも移せないのではと感じました。

社会資源を享受するだけではなく、障害者自身が労働し、受けとった資源を社会へ還元できる仕組みや場所ができると、限りある資源を障害者に回すことに多くの人に納得してもらえるのではないかと思います。

特に現在ではAI技術の発達により体が動かなくても脳が動けば活躍できる場の提供が可能になってきているので、そのような取り組みも進めば社会貢献もでき、より自尊心の高い自立した人生につながるのではと思いました。

著者の啓発的なメッセージに触れることで、社会のあり方や福祉制度の在り方について再考する機会を与えられました。障害者福祉の向上は社会全体の課題であり、本書はそのための貴重な知見を提供してくれるものだと思います。

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