脱施設化に向けて〜やまゆり園事件を忘れない〜 / 安積遊歩

ここまで人の命を差別して、なんとも思わない人たちに囲まれて生きている。そうは思いたくなくとも、元首相の国葬の閣議決定のニュースが流れた後に、「やまゆり園事件を忘れない」のイベントに参加した事で、そう思ってしまった…

人を殺すことはよくない。よくないと言われているけれど、障がいを持つ仲間が殺された時に、世間には犯人を支持するSNSも多数流れたという。それが殺された人の社会の中での立場が違うと、税金をつかって国葬にまでしたいという政府がある。あまりのとんでもなさに身体の具合が悪くなりそうだ。

そんな中、集会でやまゆり園事件で重傷を負った尾野一矢さんが、一人暮らしを実現しているという素敵な姿を見た。一矢さんのお父さんの話も非常によかった。重い知的障害をもつ人が地域の中で暮らすためには、医療的ケアの必要な人が地域で暮らすことと同じか、もしかしたら、それ以上のハードルがある。

この世界が徹底的な能力主義と優生思想に満ち満ちているからだ。だから、もっとも大切なことは、意思決定の支援だろうと思う。医療的ケアだけが必要で、意思決定にそれほど問題がなければ、自殺という手段を使うこともできる。いや、できるというより、そこに追い詰められるというべきだろうが。

私の頭の中には、意識的にも無意識的にも常に回っている事件がある。京都のALSの女性が自分の意思で医師を2人雇って、毒自殺したというものだ。しかしここではそのことの比較、言及はしない。

集会には一矢さんのお父さんがリモートで参加していた。そこで私は、前々から聞きたかった質問、「一矢さんの自立生活に続く人たちは、その後、やまゆり園からどれくらい出てきているのか?」と聞いた。その答えに、あまりの驚きを感じ、そして深く落胆した。

お父さんとしては、一矢さんが2年前から一人暮らしができているわけだから、彼に続いてくれる人がいてほしいと心から思っている。それを現実のものにするために、機会があるごとにやまゆり園の親たちに説明し、話してきた。

ところがその反応がひどく、つらいものだった。「一矢さんは、当人と親がやりたければ、やればいい。」「しかし自分の子や自分の家族である障がいを持つ子たちは、施設の中で暮らすことになんの問題も無いのだ。そこが彼らにとって幸せなのだ。」と言ってくるのだそうだ。

そこには50年以上前、「母よ殺すな」と叫んだ、青い芝の会の人たちが生きていたときと変わらない現実が連綿とある。

一矢さんの後に続いて、自立を目指す人はやまゆり園の被害者の中にはでてきていない。それどころか、事件の被害を受けた人の名前も名乗らない家族によって、身体だけではなく、存在そのものを抹殺されようとしている。

2016年7月26日、この事件が起きたとき、私が1番悲しかったのは、犠牲者の親たちが子どもたちの名前を明らかにしようとしない、その排除、差別感だった。

一矢さんのお父さんによれば、今から30年以上前にあったのは巨大な施設だけ。つまり世間は重い障がいを持つ人を看るのは家族しかいないのだと、徹底的に無関心。そんな中、その状況に耐えきれず無理心中が相次いだ。そして施設が拡充され、多くの障がい者が施設に排除、隔離された。福祉施設に入れることだけが、高度経済成長社会を生き延びる家族からの要請ともなった。だから、隔離した暮らしをさせていくうちに、近所も親戚もその人の存在を忘れていった。そしてついには、いない人とさせられていったわけだ。

やまゆり園の犠牲者たちの多くも、入所して、約20年〜50年の月日を経ていた。家族にとって、彼らの存在は、なきに等しかったのだ。

優生思想は、わたしたちの存在を消すこと、隠すことを絶対的に是としてくる。その最初の犠牲者であり、加害者が親だ。子どもが障がいをもつ持たないに関わらず、この優生思想にどっぷりと浸かった社会に生きているすべての親たち。

だから出生前検査を勧められれば、ためらいながらもそれを受け、陽性と出た場合、中絶率は95%以上、100%に近いとも言う。

一矢さんのように1人暮らしができるためには、まず介助制度が必要だった。私たち身体障がいを持つ者は、それを作ってきて、今、重度訪問介護という制度として結実した。そしてそれは2014年から、知的や精神障がいを持つ仲間にも拡充されてきた。2014年には拡充されたことは全く知られていなかった。だから、全国に知的障害を持つ人は、数人も自立できていなかった。そして今でも重度訪問介護はまだまだ、世間一般の常識にはなっていない。

今回、この集会に参加して思ったことは、平和を作るためのお金の使い方についてだ。お金が平和の実践・福祉に十分に回らないことによって、差別は更にさらに深くなってゆく。軍事費や国葬にお金をかけている場合ではないのだと、政治をする人の覚醒を心から促したい。

そして障がいを持つ子の親たちは、社会の最先端にでて、我が子の存在が平和のメッセンジャーであることを誇って欲しい。そしてそれがどうしてもできないのなら、兎にも角にも黙ることは差別に加担することだと強烈に自覚すること。できるだけどんな所にも子どもを連れて出かけ、そちこちに存在をアピールし、お互いに助け合うことを呼びかけよう。それが先ず、共に生きる社会への第一歩なのだ。

 

◆プロフィール
安積 遊歩(あさか ゆうほ)
1956年、福島県福島市 生まれ

骨が弱いという特徴を持って生まれた。22歳の時に、親元から自立。アメリカのバークレー自立生活センターで研修後、ピアカウンセリングを日本に紹介する活動を開始。障害者の自立生活運動をはじめ、現在も様々な分野で当事者として発信を行なっている。

著書には、『癒しのセクシー・トリップーわたしは車イスの私が好き!』(太郎次郎社)、『車イスからの宣戦布告ー私がしあわせであるために私は政治的になる』(太郎次郎社)、『共生する身体ーセクシュアリティを肯定すること』(東京大学出版会)、『いのちに贈る超自立論ーすべてのからだは百点満点』(太郎次郎エディタタス)、『多様性のレッスン』(ミツイパブリッシング)、『自分がきらいなあなたへ』(ミツイパブリッシング)等がある。

2019年7月にはNHKハートネットTVに娘である安積宇宙とともに出演。好評で再放送もされた。

 

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