地域で生きる/22年目の地域生活奮闘記88~身体介護のやり方は人それぞれ③~ / 渡邉由美子

今回は‟私の寝たきりの状態を伝えることのむずかしさ“の中でも身体の機能維持を図るために行っているリハビリ時について、言いたいことの伝わりにくさについて書いていこうと思います。

私は2歳ごろに脳性麻痺で一生立つことも歩くことも出来ないとわかってから現在に至るまで、機能維持のためのリハビリを欠かさず行ってきました。今は二次障害をいかに最小限に食い止めるかという観点で週に2~3回のリハビリを継続しています。

さて私が施術者に対して感じている障がいへのアプローチについて、私の日々の体験から率直に書いていきます。養護学校を卒業し、障がい者版のカルチャーセンターでリハビリを受けた時の衝撃は今でも忘れることができません。

カルチャーセンターでは、参加したい活動が複数の中から選べます。この項目の一つにリハビリがあったので「創作活動や畑作業よりは自分の実益にも繋がる」と思い、そのプログラムを選びました。

障がいを持つ人の多くは、いわゆる後天的な障がいで、脳梗塞や脳卒中の後遺症の方が多いのです。そこには市から委託を受けているPTさんがリハビリ指導に来ていました。リハビリメニューは集団で音楽をかけながら口の周りの筋肉を動かすというようなものであり、口の周囲筋にほとんど障がいのない私は正直、「なんだこのリハビリは?」と感じてしまい、個別メニューでのリハビリを申し出ました。

私は寝返りができない身体状況で、立つことはむずかしいということを説明し、「身体にいつも無用な筋緊張が入ってしまうので、それを緩めるストレッチを施してほしい」という希望を伝えました。

するとPTの先生は「渡邉さん、これからご両親も年を取り介護ができなくなった時には、自分で自分の身の回りの事をできるようになっていないと生きていけずに困るようになりますよ。この先、他人介護ではずっと人にいてもらうことはできないですから」とおっしゃいました。先生は私の将来を見通した上で必要な能力が身に付くようアプローチをしているとのことでした。

ついに私の説明に対し、理解を得ることはできないまま終了してしまいました。このPTさんには重度訪問介護であれば、介護者を24時間365日、フル活用して自立生活する制度が、その当時制度の名称は違っても東京の地域ではでき始めていて、その制度を上手く獲得しフル活用した自立の在り方があること等、かけらも頭の中になかったのだと思います。

自立=「自分でなんでもできること」という古い固定概念に基づくご指導でした。やむを得ない部分もありますが、私は自分の可能性をこの若き時代に否定されたような思いで絶望感に浸った若き日の苦い記憶となりました。

この他にも数えきれないほどのPTさんに自分の求めるものや身体状況を説明してきましたが、満足のいくリハビリが受けられる状況を安定的に確保することは未だにできていないのです。

今では訪問リハビリと脳性麻痺専門の訓練士さん、訪問リハビリマッサージさんが来てそれぞれ施術をしていただいています。ここからが今回の主題です。脳性麻痺専門の先生は大変お歳を召していらっしゃいますが、長年脳性麻痺者を担当されていたため、大変的確に私の身体をストレッチしたり、マッサージしたり、目一杯関節可動域を動かすことができます。

しかし多くの先生にその方法を見に行ったり、ポイントを聞きに行ったりしてもらってもなかなか私の身体そのものを扱う事ができず、ポジションすら取ることができません。国家試験を通っているのだから当然基礎知識はあるのだと思います。それでも私の望むようにすることはとても難しいのです。

しかし最近、少しでも施術のできる人を増やすという目的で、リハビリを1人の先生ではなく新しい人に施術の仕方を伝えるという方法にしました。人が違えば同じことはできないという考えからか、動作を口で伝えたり動きのポジションや支える場所を直接伝えたりすることはあえてせず、新人の方はその方なりに自分のやり方で行っているようです。

私は新人の方にも身体に良いリハビリができるようになってほしいのですが、先輩施術者はポイントを要所要所でいくつか伝えたのみで、手取り足取りは引き継ぎをしません。確立されたリハビリ方法というものはなく、私の身体の状態も一定ではないため教えられる点がないのかもしれません。

しかし先輩施術者やPTさんは私との関わりの中でノウハウを積み重ねています。だからそのノウハウを生き写しの如く、あらゆる方法で研修の間に伝授していけば、よりよいリハビリに繋がると私は考えるのです。

もちろん危険がないかに焦点を当てて新人の方の動きの確認をしているとは思いますが、私にはその引き継ぎ方法がまったく見えないため、いつも不安に感じてしまいます。

技術職であり、さらに手技であるため、教えることはむずかしいのでしょう。感覚で学び取っていくものと言ってしまえばそれまでですが、私は健常者の身体とは異なり、重度障がいをもっています。引継ぎがスムーズにいけば私の身体をメンテナンスできる人がいついなくなっても、物理的にだけでなく身体機能的にも起き上がれなくなることを防ぎ、私も安心できるのに…と思わざるをえません。

技術職の世界はまったく分かりませんが、技術を伝承しながらより発展させていけるリハビリ界になってくれると大変嬉しく思います。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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