地域で生きる/22年目の地域生活奮闘記89~身体介護のやり方は人それぞれ④~ / 渡邉由美子

これまで三本に渡り、自分の力で全く動かすことのできない自分の身体を人の手を借りて動かすという事のむずかしさについて、様々な職種の人たちとの関わりを通して書いてきました。

最終回はベッドから起き上がらせてもらうこと自体に苦痛を伴う方、起き上がることすら不可能という方たちの現状と課題について書いていこうと思います。

今回は私自身の体験に基づく内容はほんの一部です。小さなころに肢体不自由の子供たち向けの養護学校で出会った友人のなかに、そのような障がいをもつ人が多数います。その人たちの体験談に基づき、真に寝たきりの状態の方の辛さや苦しさを理解し、そこに適切な手助けが介在することで、その大変さや苦しみが極楽にも変わり得るということを、この文章の読者すべてに共有したいと思います。

支援者や介護者から見れば、ともするとわがままと捉えられてしまいがちな当事者の要求や要望を叶えることがどれだけ重要かが伝わればと切に願います。

私は幸いにして介護者の力を借りれば外出もある程度できますが、人によっては障がいを負ったその日からベッド上で過ごす時間がその人の世界の全てとなってしまうケースも多くみられます。

徐々に進行していくタイプの障がいでは、じわりじわりとその障がいが重くなっていき、ベッド上での生活がその人の世界の全てになっていきます。そんな人たちにとって体位交換や体位を保つクッションの位置の調整をミリ単位で行うことは、長時間のベッド生活を少しでも快適なものにするために欠かせないことなのです。

しかし快適さを感じる絶妙な塩梅は感覚的なものなので、寝たきりで目視で確認することのむずかしい重度障がい者にとってはその塩梅を伝えることは至難の業なのです。みなさんは苦痛があってもそれをすぐに伝えることができないという状況を想像することができますか?

先日私はベッドでの寝心地を向上すべく、長年使ってきたパウダービーズのクッションを買い替えようと思いたちました。休日を使って何軒ものお店を巡り、店員さんに身体の除圧をしたり、拘縮した関節の各所に当てたりするのに心地のよいクッションを探していることを伝えました。

しかし流行や世間一般のニーズはころころと変わってしまうため、ビーズの大きさや厚みのちょうどいいクッションはついに探しあてることが叶いませんでした。専門店に行けば私の求めるものが手に入りますが、特許ブランドであるがために値段がとても高価でなかなか手が出ないのです。

またせっかく探しあてても太すぎたり細すぎたりといった理由で役に立たないこともあり、クッションひとつを手に入れるだけでもとても困難であることを痛感させられました。

クッションの中身の素材については、インターネットで入念に調べれば手に入りそうなので、介護者のうち縫物が得意な人に依頼し、自分の欲しい長さや太さに合わせてオーダーメイドで作ってもらうほうが早道なのかとも思いはじめています。

少し話を元に戻します。私は人の手を借りて生活しなければ生きていけない身なのですが、いくつ歳を重ねても、自分のしてほしいことが相手になかなかうまく伝わらないことにイライラし、感情を目いっぱい表に出してしまうことがあります。

そのように感情を露わにして怒ってしまうことで相手の気分を害してしまうことはまぎれもない事実なので、「いけないなぁ」とたびたび反省します。しかし本当に寝たきりで、感情を表に出すことが物理的に出来ない人たちも多くおり、その人たちのストレスのはけ口のなさを自分の身に置き換えて想像してみた時に、よくも心を平穏に保てるものだなと尊敬してもしきれません。

私の知人に「感情が高ぶって泣くとサチュレーションがあがってしまい、医師や看護師が飛んで来て大事になってしまうので、泣きたくても泣く自由もない」と文字盤で一文字一文字、明るいタッチで伝えてくれる人がいます。

その心中はいかばかりかと察するに余りある状況ですが、感情をいつも押し殺して明るく生きている彼女の姿には敬服しかありません。彼女の周りにはケアの大変さなどものともしない人生の応援団がブレインのように自然と集まり、いつも賑やかに生活が回っているように感じ、ぜひ見習いたいと思うばかりです。

寝たきりで生きるということは本当に大変なことだと思います。私は自分の肩の下に腕が乗っかり痺れたり痛んだりしたときに、その苦痛を介護者にうまく伝えて解消できなかったというだけで負の感情が収まらなくなってしまいます。

それに引き換え、寝たきりで目の動き、呼吸の回数や粗さといった微細なしぐさで苦痛を伝えている人も多くいます。周囲にいる人たちにはその人が「痰が詰まってしまって苦しい」という事を瞬時に伝えられない苦痛を抱いていることを、いち早く理解する術を習得してほしいと心から願います。

私はそんな苦しみを以心伝心で的確に伝える手段がテクノロジーの進歩によってできると信じていますし、それを開発できる技術者はたくさんいると思うのです。それぞれの障がいにあわせてその技術が発揮される日がいち早く訪れることを祈るばかりです。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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