小さな自分を抱きしめて〜〜ニュージーランドでの娘と再会〜〜 / 安積遊歩

3年振りにニュージーランドにいる娘に会いに行った。娘はドナルドビーズリー研究所というところに正職員として勤めている。ここは、障害者の権利向上のための研究所で、様々な研究調査を行っている。中でも、国連で障害当事者によって策定された権利条約が、ニュージーランド政府によってどのように履行されているかを調査、研究し、様々な提言を行っている。それは、この研究所の大きなプロジェクトの一つでもある。

彼女の卒業式に訪ねて以来、パンデミックで3年振りの再会だった。3年ぶりに会った彼女は、仕事では信頼され、日々の生活でもたくさんの友人に囲まれ、充実した日々を送っていた。

私自身もニュージーランドには3年ほど住んでいたことがあったし、今までの1年に1回位の訪問でニュージーランドのことはよく分かっているつもりだった。しかし、今回は彼女の紹介してくれる友人に会えば会う度に、多様性という言葉の意味が豊かに広がるのを感じ続けた。

ニュージーランドは同性婚を法律として認めている。だから、多くの人が同性同士でカップルになり、そこに婚姻という制度も使っていたり。日本でも私はLGBTQの友人たちがいる。しかし、今回2週間の間に会ったうみの友人たちはLGBTQの人やノンバイナリーとカミングアウトしている人、そのうえみんな肌の色も言葉もそれぞれ違うから、毎日がワクワクの連続だった。

また、娘は免許証を持っていないので、どこかに行くには友人たちに自分のスケジュールを伝え、送迎をオーガナイズし続けてくれた。もちろんバスや民間タクシーも使いながらだが、色んなところへ連れて行ってくれた。

娘は4人暮らしのシェアハウス。そのうち3人が車椅子を使っている。その3人のうち2人が働いていて、もう1人は学生だ。車椅子を使っていない友人は、最近シェアメイトになったばかり。彼女は野生動物の獣医をしていて、動物が大好き。わたしが行った時には、大学の医学部から実験用のねずみを救出し、飼っていた。このシェアハウスは、動物の里親をすることがしょっちゅうで、今までも犬やアヒルなどを預かってきた。4人のうち、獣医の彼女と娘がアジア人で、2人はニュージーランドの白人。彼女たちの友人にはマオリの人もいて、わたしが滞在していた2週間のうち2回もマオリの人たちの作った演劇と映画を観た。どちらも素晴らしい作品で、マオリの人たちの歴史がよく描かれていた。

ところで娘の職場は、家からバスで20分くらいのところで、街中の大きな銀行のビルの2階にオフィスがある。娘と同じ部屋を共有して働いている人が2人、その他受付をしている人と代表がそれぞれ部屋を持っていて、大きなキッチンと会議室がある。1番強調したいのは、研究員12人のうち、11人が女性であるという点である。そのうえ、女性の年齢も20代、30代と若い人が多い。この機関のリーダーには、障害を持つ当事者である若い人を応援し、バトンを渡していくという決断があるようで、彼女の家にも招いてもらった。そこで、障害を持つ女性がリーダシップを取る事の大切さをみんなで確認し合い、素晴らしい時間を過ごした。

ニュージーランドは約30年前に、ダニーデンにあった精神病院が焼失し、多くの人々が犠牲になった。それをきっかけに、当事者とスタッフが声を上げ、大きな施設がどんどんと解体されていった。そして、地域の中に小さなグループホームが現在はいくつもいくつもある。ただ、障害者権利条約によって、小さなグループホームでも自由な意思決定で生活することは難しいといわれ、ニュージーランド政府は娘たちの研究所に、施設にいた人々がどのような体験をしてきたのかの調査を依頼してきた。娘は「その聞き取り調査をする中で、遊歩が日本でやってきたことに心からのリスペクトをさらに感じているよ」と伝えてくれた。

日本政府は全く残念なことに障害者権利条約で言われている脱施設化の方向性を明確にはしていない。私たちが地域で住むということの大切さは当事者の私たち自身が動くことでしか、ここまで進んでこなかった。脱施設化が明確でないために精神病院や大型施設での虐待、残酷な処遇は後を絶たない。その象徴が2016年のやまゆり園事件だ。

ニュージーランドには身体拘束も、まして隔離のための施設もない。わたしから見ればその2点において、日本よりもずっとマシな国だ。しかし、日本よりマシだから地域生活での介助の不十分さを我慢しろというのは全く馬鹿げている。娘の様々な話を聞きながら、障害を持つ人たちの地域での自立、共生がどのように進むのか期待した。

いま娘は他にもいくつかのプログラムを抱えていて、その中に障害を持つ親の子育てについての調査研究がある。娘はわたし自身の医療に翻弄され続けた幼児期とは真逆の、私から見れば穏やかな子供時代を送った。その彼女の経験に基づいた調査研究が障害を持つ人たちの希望となることを願って、2週間の滞在の帰途に着いた。

 

◆プロフィール
安積 遊歩(あさか ゆうほ)
1956年、福島県福島市 生まれ

骨が弱いという特徴を持って生まれた。22歳の時に、親元から自立。アメリカのバークレー自立生活センターで研修後、ピアカウンセリングを日本に紹介する活動を開始。障害者の自立生活運動をはじめ、現在も様々な分野で当事者として発信を行なっている。

著書には、『癒しのセクシー・トリップーわたしは車イスの私が好き!』(太郎次郎社)、『車イスからの宣戦布告ー私がしあわせであるために私は政治的になる』(太郎次郎社)、『共生する身体ーセクシュアリティを肯定すること』(東京大学出版会)、『いのちに贈る超自立論ーすべてのからだは百点満点』(太郎次郎エディタタス)、『多様性のレッスン』(ミツイパブリッシング)、『自分がきらいなあなたへ』(ミツイパブリッシング)等がある。

2019年7月にはNHKハートネットTVに娘である安積宇宙とともに出演。好評で再放送もされた。

 

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