地域で生きる/22年目の地域生活奮闘記97~新しい電動車椅子がやっと完成して思うこと~ / 渡邉由美子

私は自立生活を始めてすぐに「手動車椅子は自分でこぐことができず満足に動けないため、自立の第一歩にもならない」と思い、それ以来、電動車椅子を使った生活をしています。電動車椅子に乗るようになったことで行動範囲が大きく広がり、自分の行きたい時に行きたい所に行けるようになりました。

また外出先や二人介護ではない時間帯にトイレに行きたくなった際にヘルパー一人でも排泄介助ができるよう、差し込み便器を入れる空間を作るために車椅子の上でお尻を吊り上げる装置(この部分は自費ではあるものの)を付けることもしました。

そんなことをしながら3台の電動車椅子を乗り潰し、今回4台目を手にすることができました。車椅子の上でお尻を吊り上げ、差し込み便器を差し入れることで、私の住む地域では、使用開始から6年経過後に、故障や身体に合わないなどの理由で新しい車椅子を公費で製作することができます。

もちろん使用頻度が少なかったり、建物の中の移動にだけ使ったりする人にとっては、そんなに頻繁に交換する必要はないのかもしれません。それは車椅子に限ったことではなく、物はみんなそうだと思いますが…。

老朽化に伴い、新しい電動車椅子を作ることになって数年が経ちますが、障がいの重度化が進むことで、毎回その制作は困難を極め、試行錯誤を繰り返しながら行うことになります。私は寝ている間以外のほとんどの時間を電動車椅子の上で過ごしています。いかに活動的に過ごせるかは電動車椅子の快適さにかかっており、生活の要といっても過言ではありません。

その車椅子を制作し始めて痛感したことは、微妙な調整力のある技術者の存在が不可欠だということです。既製品の車椅子ではその人がもつ身体の変形や痛みに耐えられないため、そのまま使うことはできません。また法律の定める公費の範囲内でいかに希望どおりに仕上げていくかといったせめぎ合いもしながらの作業となります。

車椅子の支給についての決定を下す本部機関とも何度も話し合いを重ね、重度障がい者が少しでも長い時間寝たきりにならずに、また活動的な日々を送ることができるよう説得してきた過去は至難の業といえるものであったと振り返ります。

今回新しい車椅子を制作するにあたり金銭的にも技術的にも大きな課題となったのは、先述した排泄介助のための装置を旧車椅子から移設することでした。私の身体は車椅子に直角に座ることがむずかしく、その状態でいると我慢のしようがないほどの痛みが出てしまいます。

そのためリクライニングやティルト(お尻の部分を斜めに振り子のようにして、お尻や背中にかかる負担を身体全体で受けられるよう除圧する機能)を目一杯倒して座れる車椅子を作りたいと考えていました。それは口で言うのは簡単なれど、安全性や車椅子本体の耐久性を考慮すればするほど実現がむずかしく、完成に至るまでに長い月日を要することとなってしまいました。

また新車にはコンパクトさも望んだのですが、今挙げたような要望を7割方盛り込んだことで、社長椅子がそのまま動いているようなでーんと重厚感のあるものとなってしまいました。そのためエレベーターも入れるところと入れないところが出てしまい、狭いエレベーターを使う際は、片方6kg以上ある足台を外し、介護者にそれを持ってもらうことになります。

何事もそうですが、全てを自分の理想通りにすることは非常にむずかしく、今回は「身体の痛みを最小限に抑えられる」ということを一番の目的にしました。

このように自分の身体に合った車椅子を制作することは非常にむずかしく、最近では「既製品の車椅子に身体を合わせろ」と言わんばかりの業者さんも多数見受けられるようになってしまいました。細かな調整はしないというスタンスの介護保険のようだな、などと思ってしまうほどです。

私には以前から懇意にしている業者がいますが、その方々も年齢を重ね、だんだんと細かな注文に対応することがむずかしくなってきています。今回はその方の多大なご厚意をいただきフルオーダーメイドの車椅子を作り上げることができましたが、これまで使用していたものを15年あまり乗っていたことを考えると、次回車椅子を作る時のことが心配になります。

今回の業者さんが15年後も携わってくれるという保障はありません。新しい車椅子に一日でも長く乗り続けるためにどうしたらいいのか、いまから悩んでしまいます。

今回の車椅子の最大の特長はベッド上にいるのとほぼ同じ角度まで身体を倒せるようにしたことと足をしっかり上げられるようにしたことです。

以前から夜パソコンを使った活動をしている間に寝入ってしまうことが多々ありました。夜勤の介護者には「そのまま寝てしまうと身体に悪いし熟睡できないから、起こして介護用ベッドに移乗させてほしい」と伝えていましたが、今回の車椅子はとても優秀な安楽チェアに仕上がっており、あまり良くないとはいえ、熟睡もできてしまいます。

介護者は疲労を取るための仮眠中、どれだけの時間、車椅子の上で寝かせておいてよいのか、はたまた早々にベッドに移すべきか、支援の在りように苦労しているようです。

なにはともあれ、せっかく新しい車椅子が出来上がったので、今後も可能な限り社会参加活動に邁進していきたいと思う今日この頃です。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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