アルコールに思うことPart2 / 安積遊歩

ニュージーランドにいる娘から、興味深い運動を展開している女性の話を聞いた。彼女は22歳の若さで4年前から刑務所に通い、刑務所を廃止するということに取り組んでいるのだという。彼女は詩人でもあるので、書くということを通して刑務所にいる人々に、彼らの人生について丁寧に聞き、その後一人ひとりにその人生を表現する方法を伝えているという。そこにいる人はそこを出たとしても、社会の差別、無茶苦茶さ故に容易にそこに戻らされてしまう人が多い。
彼女はそこに通い続けることで彼らが2度と戻らなくていい取り組みに力を入れている。そして、そこを出た人自身、彼らの友人知人の助けにもなれるようなプログラムでもある。

ニュージーランド政府、社会は、2006年から障害を持つ人々に対する隔離政策をやめ、脱施設化を実現しようとしてきた。それを彼女の取り組みは、罪を犯した人にまで拡げようとしているわけだ。つまり、障害を持つ人に対しては勿論、罪を犯した人に対して、隔離・排除は良くないということを認識している。隔離・排除は差別であるということを、日本社会は一体どこまで知っているだろう。

ニュージーランドでは脱施設化が進み、大きな施設は解体されている。ところが日本では障害を持つ当事者運動が頑張り続けてはいるが、それでも重い障害を持つ人や、特に知的障害を持つ人は大規模収容施設に閉じ込められている。

ニュージーランドは日本の人口の約30分の1、450万人とか500万人とかいわれている。日本では、約12万人の障害を持つ人が施設に閉じ込められている。もし大規模収容施設がニュージーランドにあったなら、単純計算をすると約4千人から5千人の人がいることになる。それをニュージーランドは2006年から解体し続けているわけだ。現在では、大規模なものは全くなくなっている。それは、隔離そのものが人権侵害であると認識されたためである。ところが日本は、強烈な人権侵害を続けている。にも関わらず、社会はそれになかなか気づこうとはしない。私の目にはこの背景にアルコールがあると見えてくる。

私の日本人の知り合いで、ニュージーランドで酒を飲み海に飛び込んで首の骨を折り、車椅子ユーザーになった人がいる。彼の医療費は総額2000万かかったという。しかし、個人としてはビタ一文払う必要がなかった。国籍が違っても旅人でも、各種ケガでの補償が手厚いニュージーランド。しかしその影に、病気や幼いときからの障害者への差別格差がある。それを解消するために昨年障害者省ができて、その差別と格差の解消に乗り出している。

政治や行政を行うときに見過ごされていることの大きな闇がアルコールだ。飲酒は人々の知性や思考能力を完全に混乱させてしまうにも関わらず、日本ではアルコールなしの交渉や人々の対話の場は少ないだろう。上記に書いたニュージーランドでは、アルコールを使った場で大事な意思決定がなされるという話は聞いたことがない。あくまでもお酒は嗜好品であって、仕事以外の時間に楽しみやリラックスのために使うものだという認識がある。しかし日本のこの男性中心主義社会は、お酒の危険性をほとんど問うことなく消費されまくっている。多くの意思決定の場には密やかにアルコールが持ち込まれている。政治や行政の場でアルコールを飲みながらさまざまな社会問題が話され、それらの解決に取り組まれる。(私にとっては非常に辛い話だが、岸田首相のお酒の話しは彼自身により明言・酩言され、非難を受けることもない。もし、ニュージーランドで同じような報道がなされたとしたら、ニュージーランドでは国民から非難・批判が集まるに違いない。)障害者運動の場にさえ、日本ではそれが持ち込まれてきた。

資本主義のグローバリゼーションの中で、日本はさまざまな面で混乱を呈している。政治をする人の多くに人権意識がほとんど無いことにプラスして、アルコールの害にあまりに無知だ。例えば原発問題も、ニュージーランドでは、チェルノブイリ以降真逆の政策が取られている。原子力を作らない、持ち込ませないという法律がとおっており、原子力発電所の数は、日本は54基、同じような小さな島国であるニュージーランドには1つもない。

日本の政界や財界に、そして各種活動家の集まりにもアルコールが持ち込まれている。そのあまりの混乱ぶりに、私は飲酒の無い社会を、と願わずにはいられない。アルコールは反知性の元凶であると、私自身の体験と差別社会の有り様から認定せざるを得ないから。

◆プロフィール

安積 遊歩(あさか ゆうほ)
1956年、福島県福島市 生まれ

骨が弱いという特徴を持って生まれた。22歳の時に、親元から自立。アメリカのバークレー自立生活センターで研修後、ピアカウンセリングを日本に紹介する活動を開始。障害者の自立生活運動をはじめ、現在も様々な分野で当事者として発信を行なっている。

著書には、『癒しのセクシー・トリップーわたしは車イスの私が好き!』(太郎次郎社)、『車イスからの宣戦布告ー私がしあわせであるために私は政治的になる』(太郎次郎社)、『共生する身体ーセクシュアリティを肯定すること』(東京大学出版会)、『いのちに贈る超自立論ーすべてのからだは百点満点』(太郎次郎エディタタス)、『多様性のレッスン』(ミツイパブリッシング)、『自分がきらいなあなたへ』(ミツイパブリッシング)等がある。

2019年7月にはNHKハートネットTVに娘である安積宇宙とともに出演。好評で再放送もされた。

関連記事

TOP