『朝からUFO』というタイトルについて / 安積遊歩

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

私の戸籍上の名前は純子という。妹は愛子で、兄は一郎。一郎という字を道路の路としたら、3人の名前を掛け合わせると純愛一路となる。親が初めから3人子供を生んでそういう名前を付けようと計画したわけでなく、全くの偶然だが。

だから、そこへのこだわりよりも、『純子』とか『純』と呼ばれる度に体の壮絶な痛みや医療や教育の中での差別的な扱いを思い出すようで、いつかは名前を変えようと思っていた。

父がシベリアの捕虜で、1950年代にレッドパージにもあい、教職を追われていたので、天皇制や戸籍についても結構フランクに話せる家族だった。だから、名前を変えても家族からの反発は無く、それは予想通りだった。幼い時から、骨折や手術の度に壮絶な痛みとギブスで全く動けない日々を生きていたので、30歳でアメリカから帰り東京に住むようになって思いついた名前は『遊歩』。

家族も時には、その新しい名前で呼んでもくれた。「私が幸せであるのだからそう呼んでよ」ということに異論は無かったのだろう。

私がどんなに自由に遊び歩きたかったかを、アメリカの障害を持つ仲間に会うことで確信し、純子から遊歩と名前を変えたのだった。

また、22歳から28歳まで約6年一緒に暮らした恋人は、UFO と神様を信じていて、重い障害を持ち、青い芝の会のリーダーで誰に対しても平等で謙虚で、その上楽しい人だった。

でも、その彼との暮らしに別れを告げられたのはまさに、アメリカに行ってUFO のように完全に自由になっていいと思えたからかもしれない。

彼は私より障害が重かったので、私がいなくなるということは、ご飯をきちんと食べることやお掃除や洗濯などが本当に大変になるにも関わらず、私に依存している人ではなかった。

だから、彼と離れてアメリカに行った時に自分の内面化された女性差別の深刻さにも気づけたわけだ。彼は私がいなくても全く大丈夫なのにも関わらず、勝手に彼の面倒を見なければと思い込んでいた自分に驚き、アメリカから帰ってきてすぐに彼との暮らしを終了した。

その遊歩という名前の背景には彼が大好きなUFOを無意識に意識していたということもあるかもしれない。障害を持ち、最前線に行って戦いながら、彼ほど謙虚で平等の極みを生きている人はいないので、そのうち、彼のこともここで紹介できたらと思う。

さて、名前のことであるが、このコラムのタイトルに朝からUFOになったのにも、もう1人私の娘の父である元パートナーの影響がある。彼はITが得意な人で、私にコンピューターの使い方をよく教えようとしてくれた。

その中に口述筆記のアプリがあって、介助者の手をあまり煩わせなくていいからと、それを使うようにと伝えてくれたのだ。

しかし、口述筆記アプリは私の発音を強烈にミスリードして、中々思うように書けない日々が長く続いた。最近でこそ短い文章なら使いこなせるようになったが、やはり言葉を直すために画面を凝視しなければならず、タイピングをしてくれる介助者がいなければ頭痛と眼痛に襲われ続ける。

ましてコロナの時代、ステイホームとオンラインで最近は気を付けていなければ週のうち半分は痛みの中に暮らしそうになる。

それでも、介助者がいない時は口述筆記アプリを使ってしまうこともあり、この「朝からUFO」もこのアプリの提案によるものだ。私が何回も「安積遊歩」と入れているつもりでも、「朝からUFO」と3回も出てきたので、それもいいかと候補に入れてみたわけだ。

私としては、「わがままな哲学」と「自由への飛翔を希求して」という2つを真面目に考えていたのだが、意外なことにこの口述筆記アプリの提案を候補にしたら、それが面白いということになった。

遊歩という名前のことに戻れば、これは戸籍名にはなっていない。だから、パスポートや保険証などはみんな「純子」となっている。そこから変える方法も勿論知っているのだが、親がつけてくれた名前を使うことで自分の歴史を思い出せる。

歴史を忘却し、封殺してしまって生きることの残酷さ、沈黙の歴史からは平和は作り出せないと知っているので、純子という名前も大事にしていきたいと今は思っている。

最後に、私の娘の名前は宇宙(うみ)だが宇宙を遊歩して出会った娘の命、今はニュージーランドにいてITでしか会えないが、まさに宇宙に暮らし飛び回っている実感もありそれぞれの名前を呼び合うたび幸せになる。では、今後の「朝からUFO」が飛び回る先々を楽しみに読んでほしい。

◆プロフィール
安積遊歩(あさかゆうほ)
1956年、福島県福島市に生まれ。

骨が弱いという特徴を持って生まれた。22歳の時に、親元から自立。アメリカのバークレー自立生活センターで研修後、ピアカウンセリングを日本に紹介する活動を開始。障害者の自立生活運動をはじめ、現在も様々な分野で当事者として発信を行なっている。

著書には、『癒しのセクシー・トリップーわたしは車イスの私が好き!』(太郎次郎社)、『車イスからの宣戦布告ー私がしあわせであるために私は政治的になる』(太郎次郎社)、『共生する身体ーセクシュアリティを肯定すること』(東京大学出版会)、『いのちに贈る超自立論ーすべてのからだは百点満点』(太郎次郎エディタタス)、『多様性のレッスン』(ミツイパブリッシング)、『自分がきらいなあなたへ』(ミツイパブリッシング)等がある。

2019年7月にはNHKハートネットTVに娘である安積宇宙とともに出演。好評で再放送もされた。

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