「SDGsな生き方」 / 鈴木達雄

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

2.シティコン海底山脈

政府は巨大地震が30年以内に70-80%の確率で発生するという。しかし、現状のままでは廃棄物処理に10年かかっても想定外ではない。貴方や家族、障害者が身体、精神、経済的苦痛に何年耐え得るかを想像すれば、早期復興の重要性が見える。
100年前の関東大震災とは全く異なり、首都直下地震では6,433万トンのコンクリート構造物が復興の障害になる。現代都市型地震では、都市に集中して建設され老朽化したコンクリート構造物が被災する。これを都市のコンクリート鉱山(City-Concrete)と捉え、大割解体し資材として直接利用するものをシティコンと呼び、これを迅速に撤去しないと早期復興はない。

山から採掘する石材の代替として、シティコンを以下4つのSDGsに適合するよう、迅速に人工海底山脈の整備に利用する提案である。

SDGs12:持続可能な消費と生産のパターンを確保する

2030年までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する。

SDGs13:気候変動に具体的な対策を

全ての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応の能力を強化する。

SDGs14:海の魚を守ろう

水産資源を、実現可能な最短期間で少なくとも各資源の生物学的特性によって定められる最大持続生産量のレベルまで回復させるため、2020年までに、漁獲を効果的に規制し、過剰漁業や違法・無報告・無規制(IUU)漁業及び破壊的な漁業慣行を終了し、科学的な管理計画を実施する。

SDGs15:陸の豊かさも守ろう

2030年までに持続可能な開発に不可欠な便益をもたらす山地生態系の能力を強化するため、生物多様性を含む山地生態系の保全を確実に行う。

コンクリート構造物の処理では、破砕し、再生砕石として利用する法律がある。しかし、この方法だけでは運搬や破砕、分級、貯蔵、再利用までに膨大な時間と費用がかかる。

2017年の東京都災害廃棄物処理計画では、首都直下地震等で発生する膨大なコンクリートも広域処理し破砕して再生砕石にするのが原則で、これを受入れる自治体の負担が大きい。

SDGs13では自然災害に対する強靱性及び適応の能力を強化するとしている。この膨大なコンクリートを全て数100km運べば相応の燃料を使う。膨大なCO2を排出し、騒音、振動、粉塵をまき散らし長期間の交通渋滞を招き、復旧復興を遅らせるのは明白である。この危機を回避するため国や自治体、学会等にシティコンの海域での新たな利用による迅速な復興を提案してきたが反応はよくない。

シティコンの利用基準を作るためには、環境省、水産庁、行政等の合意が必要になる。極力破砕せず1トン程度、2m以下のブロックに切出し、山から採掘する石材と同様、用途に応じて安全性、重量、形状等の基準が必要になる。この解体作業で現在使われている重機を工夫して利用すれば、計画的な解体は充分可能である。

都心から東京湾岸の仮置場にシティコンを直接運搬する計画を策定し、都心の交通渋滞を最小限に抑える。海でシティコンを利用することは国内法、国際条約等で厳しく規制される。シティコンを海の増殖基盤整備に利用した前例はないが、国家存亡の危機に臨み、国益を守る事は重要である。

食糧自給率37%の日本、同1%の東京は、世界第6位の200海里排他的経済水域を有する。当然、日本沿岸の海洋環境保全、国際条約遵守、シティコンの環境安全性確保が必須である。SDGs14:海の魚を守るため、法の下、国策で直轄事業として実施されている人工海底山脈の整備には科学的根拠がある。しかし、シティコンを海で利用するための理論武装が必要である。

シティコンは前記のように、老朽化あるいは震災で機能を失ったコンクリート構造物から工夫し採掘する。構造物によっては有害物を扱う場合もあるが、多くは人が生活や仕事で利用していた安全かつ堅固なインフラである。構造物所有者と交渉し、安全性を事前に確認して利用の可否を判断する制度をつくり、有事に備えることもできる。

40年前に人工海底山脈プロジェクトを構想した時、水深50m以上の海底に山脈を築造し、湧昇流を発生させる巨大な構造物の材料として、陸上の山の植生を伐採し、表層の土を取り除くことで自然環境、生態系に多大な負荷をかける石材の利用は許されないと判断した。結果的にSDGs15:陸の豊かさも守ることを先取りしていた。

人工海底山脈を築造するには数万トンから数100万トンの資材が必要になる。開発当時、第二次オイルショックで、石油火力発電所の建設ができなくなり、国策で石炭火力発電への転換が図られた。それを機に石炭火力発電所の産業廃棄物である石炭灰で高強度かつ安価なブロックを造る研究を始めた。縦・横・高さ1.6m角、1個6トンのブロックを大量生産する技術を開発し、実証事業で5,000個製作し利用した。

詳細は後に譲るが、これで下図のような山脈を築造する技術を開発し、長崎県生月島沖5km、水深82mの海域に築造し、年間漁獲量が事業実施前の6倍、1500トンに増えたことで公共事業が創設され、さらに国の直轄事業として継続されている。


シティコン海底山脈プロジェクトにおける省庁、SDGsの関係を下図に示すが、早期復興では内閣府、国交省、環境省が関係する。産業・一般廃棄物の処理では環境省、シティコンの海域利用では水産庁、海の循環経済では経産省が関係する。新たな循環経済を目指し、巨大地震からの早期復興を実現するには、各省庁の連携が不可欠である。これまで200人以上の識者に丁寧に説明することで、全ての人にご理解頂き、提案の有効性を認めて頂いた。しかし、省庁連携が困難であること、前例がないことから、平時に少量でも、新しい資源循環のルールをつくる必要がある。

本提案のような震災廃棄物処理の具体的な方法を複数検討し、被災から復興まで最速で処理できるよう時系列の解析が必要である。その上で最適な計画を策定し、これに沿って行動できるよう訓練することが望まれる。

老朽化した膨大なコンクリート構造物を、陸上の自然を破壊することなく人工海底山脈等に昇華し、水産物を増やす。その漁場を適正に管理しながら漁獲し、人工海底山脈ブランド等として流通し国民に分配するSDGs12:持続可能な消費と生産を目指す。これを実現するためには漁業関係者、市民、行政等の合意を得て、平時にこの仕組みを構築する必要がある。

本提案は、平時に新しい資源循環システムを確立し、発災時には、さらに加速してシティコンを都市から迅速に撤去し、復興拠点となるスペースを創り、早期復興を支援すると同時に、食糧自給率向上のため水産基盤を整備するものである。

次回から、人工海底山脈、海、環境等をSDGsに関連してより詳しい話をしたい。

◆プロフィール
鈴木 達雄(すずき たつお)
1949年山口県下関生まれ。

1980年に人工海底山脈を構想し開発を進めた。この理論の確立過程で1995年に東京大学工学部で「生物生産に係る礁による湧昇の研究」で論文博士を授かる。

同年、国の補助金を受け、海で人工の湧昇流を発生させ食糧増産をする世界初の人工海底山脈の実証事業を主導。これが人工海底山脈の公共事業化、さらに国直轄事業化に繋がった。

現在は、予想される首都直下地震、南海トラフ地震等の巨大地震からの早期復興を支援するため、震災で発生する材料を人工海底山脈に利用する理論と技術開発に取り組んでいる。

SDGs、循環経済を重視し、都市で古くなったコンクリート構造物を工夫して解体し、天然石材の代わりに人工海底山脈に利用することで、予め海の生態系を活性化し食糧増産体制の強化を図り、同時に早期復興を支援する仕組みを、行政と協力して構築するための活動をしている。

趣味:水泳、ヨット、ダイビング、ウィンドサーフィン、スキー、ゴルフ、音楽、絵画

関連記事

TOP