土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)
2011年9月11日、NHK(Eテレ)で「取り残される障害者」という番組が放送され、この中でNHKの独自の聞き取り調査の結果が示された。調査は岩手、宮城、福島の主要被災3県の沿岸部30市町村のうち、27市町村が回答したものであった。これによると、総人口における一般の死亡率は1.03%であるのに対し、障害者は2.06%(手帳保持者)と倍の高さであった。
一年後の2012年3月29日に宮城県は「東日本大震災に伴う被害状況について」という報告書を発表したが、それによれば総人口に占める死亡者率は0.8%だったが、障害者手帳保持者は3.5%であったという。同年9月24日の河北新報社の報道では、岩手、宮城、福島で障害者手帳保持者1655人が犠牲となり、障害者手帳保持者の全体に占める死亡率は1.55%で、全住民の死亡率0.8%の2倍近くに及んだ。
このように障害者の死亡率が高いという結果が出たが(*1)、障害者の死亡率に影響を与える要因として、全体の死亡率、身体障害者施設入所率、高齢化率と漁業・農業従事率合成変数、浸水面積率、津波到達時間があり、身体障害者施設入所率が高いと障害者死亡率は低いという結果が出ていた(立木2013)。
即ち、宮城県のように施設入所率が低いところでは障害者の死亡率が高く、岩手県のように施設入所率が高いところは障害者の死亡率が低いという結果が出たのであった。このことは、立地が安全であれば施設入所者の方が地域で暮らす障害者よりも安全だということである。
むろん、入所施設の立地においては課題があり、その改善が必要とされている(*2)ため、立地が安全な場合は想定されにくいのだが、それでも地域に暮らす障害者の危険性が高い点は否めない。このこと自体を何とかしなくてはならないのである。
1つの解決策として注目されているのが福祉避難所である。
福祉避難所は、災害対策基本法施行令によれば指定避難所の1つであり、「主として高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者(以下この号において『要配慮者』という。)を滞在させることが想定されるものにあっては、要配慮者の円滑な利用の確保、要配慮者が相談し、又は助言その他の支援を受けることができる体制の整備その他の要配慮者の良好な生活環境の確保に資する事項について内閣府令で定める基準に適合するものであること」(第20条の6の5号)と規定されている。
在宅で暮らしている障害者は一時避難には近隣の避難所を利用するが、不便を感じる場合もあるため、特別に二次的なものとして福祉避難所の利用が想定されているのである。
しかし、この福祉避難所も障害者たちにとっては避難先として想定されていないようだ。先と同じアンケートと思われる共同通信の調査結果によれば、災害時の国、自治体の支援が「不十分」「どちらかといえば不十分」と感じている障害者は80%に上り、福祉避難所を「利用しようと思わない」割合は52%に上ったという(Yahooニュース 2021)。
結局障害者は不安を感じながら、崩れかけた自宅で生活することを余儀なくされてしまうのだろうか。
次回はもう1つの解決策とされている災害時要援護者名簿について取り上げていきたい。
(*1)立木によれば障害者の死亡率は全体死亡率の1.1倍と必ずしも高くないという結果もある(立木2013)。
(*2)共同通信のアンケートによれば、津波・洪水の浸水想定区域や土砂災害警戒区域に特別養護老人ホームなどの介護施設が立地している自治体は約1000市区町村に上ることがわかっている。これは高齢者施設ではあるが、障害者施設も大差ないと思われる(佐賀新聞 2021.2.14)。
参考文献
佐賀新聞 2021 「1000自治体で災害区域に特養 大震災後も移転進まず」20210214
https://www.saga-s.co.jp/articles/-/632931 (20210407)
立木茂雄 2013 「高齢者、障害者と東日本大震災:災害時要援護者非難の実態と課題」『消防科学と情報』NO.111:7-15
Yahoo News 2021 「災害時の障害者支援不十分80% 配慮や情報不足、アンケート調査 共同通信」20210306
(掲載終了 20210407)
◆プロフィール
田中 恵美子(たなか えみこ)
1968年生まれ
学習院大学文学部ドイツ文学科卒業後、ドイツ・フランクフルトにて日本企業で働き2年半生活。帰国後、旅行会社に勤務ののち、日本女子大学及び大学院にて社会福祉学を専攻。その間、障害者団体にて介助等経験。
現在、東京家政大学人文学部教育福祉学科にて、社会福祉士養成に携わる。主に障害分野を担当。日本社会福祉学会、障害学会等に所属し、自治体社会福祉審議会委員や自立支援協議会委員等にて障害者計画等に携わる。
研究テーマは、障害者の「自立生活」、知的障害のある親の子育て支援など、社会における障害の理解(障害の社会モデル)を広めることとして、支援者らとともにシンポジウムやワークショップの開催、執筆等を行い、障害者の地域での生活の在り方を模索している。