ソーシャルとビジネスのバランスについて / 長尾公子(取締役 社長室室長)

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

株式会社土屋は重度訪問介護サービス事業を軸とする謂わばソーシャルビジネスの会社です。「ソーシャル」と「ビジネス」が持つ意味を考えた時、福祉的な観点から「ソーシャル」は善で、「ビジネス」は悪と見なさねばならない、そんな思考に陥りがちです。果たして本当にそうなのでしょうか。

ソーシャルとビジネスの2つの概念を連結させて謳っている時点で、株式会社土屋はどちらにも責任を負っている会社ということになります。改めてこの意味を考えてみましょう。

「探し求める小さな声を
ありったけの誇らしさと共に」

株式会社土屋の掲げるこのミッションについて、公式HP説明欄には、以下のように記されています。

「私たちは探し求める、そして応え続ける、いまだ出会わぬ小さな声に。ケアサービスをかなう限り広く遍く行き渡らせ、支援を求める全ての人たちの、その期待がかなうよう、強い意志と、他者の痛みに共感せざるを得ない優しさをもって、仲間と共に歩んでゆく。私たちが担う社会的責任の重さを自覚し、最大限の誇らしさと共に。」

まだサービスを受けられていない、さらにサービスという概念すらない方々を探し求め、「社会支援」をしていくことが、そして、広く遍く事業を展開していく意気込みが書かれており、言葉が生む誤解を避けるために、あからさまに表記されていないものの、「ビジネス」をしていくことがはっきりと提示されていると思います。

どこに「ビジネス」が??と思う方も多くいらっしゃるかとは思いますが、重度訪問介護は、この事業の特徴から、決して綺麗事だけでは背負いきれない、それだけでは、続けることが出来ない事業なのではないでしょうか。
例えば、医療的ケア等、重度の障害や難病をお持ちの方々へのケアは、本来ならば全ての人が、適切にケアできる社会を期待しますが、現状としては残念ながら、誰でも、すぐ出来ることでない働きであることは、特に現場経験をお持ちの方なら、肌身に染みてお分かりでしょう。

重度訪問介護の認知度が上がるにつれ、ニーズも高まる一方ですが、福祉介護全体、常に人手不足の状態です。
その現実に向き合おうとする時、小さい事業のままでは、日々の支援を担う人員の穴を埋めるのに精一杯の状態であり、さらに他の困っている方に応えることは、物理的に至難の技です。誰かの小さな声に応えるためには余剰、余裕といったことが、どうしても必要なのです。

「あと一人アテンダントがいれば、あの人を支えられるかもしれないのに」「ご家族もお仕事を辞めないで済むのに」ということが、現在株式会社土屋の手の届きそうなところでも起こっています。こういった事態を、ゼロにするべく取り組まなければなりません。株式会社土屋の業務拡大とは、社会的な責務を持った業務拡大であると私は考えています。

株式会社土屋に所属する皆さんお一人お一人は、この社会問題を解決する道の上で、最前線で一歩、また一歩と着実に道を作っています。日々の支援のご尽力、またバックオフィスの皆さんの一つ一つの働き、ありがとうございます。その一つ一つの心のこもった仕事は、必ず社会に反映されます。

ここには、やはり経済行為を繰り返したスケールメリットが効果を発揮します。
支援を担っている方々のこれからを支えるための、賃金向上や資格取得のための研修機関の開設、余裕がないと始めることができるとは言い切れないシンクタンク部門の設置等により、株式会社土屋だけではなく社会全体の業界の改善を目指しています。経済行為を繰り返し、想いを一時の想いに終わらせるのではなく、現実の社会に接続し、社会を動かす活力になっていくのです。そうして、「もっとこうだったらいいのに」「あと少し○○があれば…」といった気持ちを現実化させていくのです。

つまり、「ソーシャル」だけ、「ビジネス」だけやっていくことは、実はできないのです。「ソーシャル」「ビジネス」は互いを補っているもの、つまり補完関係にあるものだと考えます。

大切なことは、数字「だけ」追うという行為に取りつかれないことだと思います。
「人の命が大切」という最も当たり前の視点に立ち、ビジネスを展開することと、金銭のみを目的としたビジネスを展開しようとして、何か問われて慌てて取り繕うのでは雲泥の差があります。
私たちの追う「数字」は、替えのきかない誰かの「自分らしく生きたいという希望を持った命」をどれだけ深く、多く、また遍く、支えられたかによって高まっていくものです。

株式会社土屋は、会社設立にあたって一番に、この「人の命が大切」という、この最も当たり前で、最も大切なことを、互いに確認し合いました。直接お会いしていないアテンダントの皆さんも、きっと同じような気持ちで働いていらっしゃるのではないかと感じています。

有難いことに、株式会社土屋は創業一周年を迎えました。
「ソーシャルビジネス」を掲げていることに誇りを持ち続けることができているか?自分自身に深く問いかけるそんな節目の頃です。

 

◆プロフィール
長尾 公子(ながお きみこ)
1983年、新潟県生まれ

法政大学経営学部卒。

美術品のオークション会社勤務後、福祉業界へ。通所介護施設の所長や埼玉の訪問介護エリアマネージャーを経験し、2017年、出産を機にバックオフィス部門へ。現在は3歳と0歳の子育て中。

 

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