第2回 中小企業と障がい者雇用 / 影山摩子弥

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

厚労省の発表では、この3月1日に、民間企業に課される法定雇用率が現在の2.2%から2.3%となる。就労は、障がい者にとってやりがいを得たり、人間関係を築いたり、所得を得たりするというメリットがある一方、法で定めねば雇用が進まない現状もある。

私が子どものころ、近所の工場や職人の作業場では、障がいがある方が少なからず働いていた。道を歩けば、わずかに知っている単語を大きな声で発しながら一日中散歩しているおじさんや、小学校の通学路に自転車で出没し、小学生とのニアミスを楽しむおじさんがいた。

小学校に上がると、特殊学級なるものがあったが、クラスにも、軽度の障がいがあると思しき生徒がいた。子どもたちは、障がいの有無をことさら意識したり、詮索したりすることもなく、みな仲よく遊んでいた。それらが街の風景であった。

物質的に貧しかった頃や敗戦のダメージが色濃く残っていた頃の日本では、学力が高くても、所得や慣習などを背景に進学が難しかったり、若年労働力が求められたりしたことから、今ほど進学率が高くなく、学力に人々の強い関心が向いていなかったように思われる。その中で、特に知的障がいについては、ある程度の受容がなされていた面もあったのではないだろうか。もちろん、インクルーシブな社会であったわけではない。障がい者やその家族に奇異の目を向け、避けたり、障がいがある家族を家の中に閉じ込めたり、障がい者を施設に隔離したりする社会でもあった。

一方、米国を参考とするCatch up型を取り、高度成長を達成していった日本社会では、成功モデルを稼働させるためにインプットされた情報を高度に理解し、適切にアウトプットしつつ、がむしゃらに働く人間が求められた。情報処理能力と会社への求心力が高い人間(会社人間)である。前者を選別する巨大な装置が日本の受験システムであり、後者のためのしくみが、妻が主婦となる性別役割分業を組み込むなどによって会社を共同体化する日本的経営であった。それらを包摂しつつ日本的システムが機能してゆく。

そのシステム下では、進学が重視され、受験競争がし烈化するため、学力に注目が集まる。問答無用に「できない人たち」と位置付けられた障がい者には、システムからの排除圧力が高まる。しかし、国家福祉での支援には、財政的にも限界がある。そのため、法によって雇用を強制せざるを得なくなる。私の子どもの頃に見た、障がい者が普通に働く光景は、難しいのであろうか?

図1を見ていただきたい。企業規模別に見た実雇用率の推移である。全体の傾向として、規模が大きいほど実雇用率が高い。100人未満は、2010年以降最もパフォーマンスが低い。「働く能力が低い人たちを雇うのは、中小企業では難しい」という解釈が成り立ちそうである。

だが、グラフの一番左を見ていただきたい。2001年までは、100人未満が最もパフォーマンスが高かったのである。しかし、規模の大きな企業が取り組みを強化し、2003年もしくは2004年から上昇傾向を示す。日本では2003年がCSR元年と言われることもあり、CSRへの取り組みが背景にあることがうかがえる。その際、規模の大きな企業は、資金とネームバリューで「楽な障がい者」を集め、中小企業は難しい障がい者を雇用せざるを得ず、パフォーマンスが落ちたことが推測される。それは、雇用可能なのは、ごく一部の障がい者であって、多くの障がい者は働けず、戦力にはならない、したがって雇用しにくいことを示している、という解釈もありうる。本当にそうであろうか。

厚労省「障害者雇用状況の集計結果」各年版より作成。

 

図2は、企業規模別に見た、法定雇用率を達成している企業の割合である。大企業ほど、2000年から2012年にかけてのグラフの勾配が急になっている。急に「やる気」を出し、雇用し始めたことがうかがえる。他方、100人未満は、45%前後で安定的に推移している。

2020年の実雇用率は1.74%、雇用率達成企業割合は45.9%であった。仮に未達成企業が1人も雇用していないと仮定すると、雇用している企業は、3.8%雇用していることになる。このクラスは、1人か2人雇用すればよいので、比較的実体に近いと思われる。3.8%雇用しているのであれば、法定雇用率が変わっても影響はない。そうであるとすれば、法改正で、雇用率未達成企業が続出する状況にはならない。それゆえに、45%前後で安定していると解することができる。

障がい者が戦力にならないとすれば、3.8%ということはありえない。財務規模が小さく、様々な要因の影響を受けやすい中小企業が、戦力にならない者を雇用することは難しい。もちろん、高度な技能や資格が必要という理由で雇用しにくい場合もあろう。それらが45%という数字に表れているといえる。

では、どうしたら戦力化が可能なのであろうか。また、健常者社員の生産性を改善する効果を得られるのであろうか。


厚労省「障害者雇用状況の集計結果」各年版より作成

 

◆プロフィール
影山 摩子弥(かげやま まこや)

研究・教育の傍ら、海外や日本国内の行政機関、企業、NPOなどからの相談に対応している。また、CSRの認定制度である「横浜型地域貢献企業認定制度(横浜市)」や「宇都宮まちづくり貢献企業認証制度(宇都宮市)」、「全日本印刷工業組合連合会CSR認定制度」の設計を担い、地域および中小企業の活性化のための支援を行っている。

◎履歴
1959年に静岡県浜北市(現 浜松市)に生まれる。

1983年 早稲田大学商学部卒。

1989年横浜市立大学商学部専任講師、2001年同教授、2019年同大学国際教養学部教授。

2006年 横浜市立大学CSRセンターLLP(現 CSR&サステナビリティセンター合同会社)センター長(現在に至る)

2012年 全日本印刷工業組合特別顧問 兼 CSR推進専門委員会特別委員(現在に至る)

2014年 一般社団法人日本ES開発協会顧問(現在に至る)

2019年 一般財団法人CSOネットワーク(現在に至る)

◎専門:経済原論、経済システム論

◎現在の研究テーマ:地域CSR論、障がい者雇用

◎著書:
・『なぜ障がい者を雇う中小企業は業績を上げ続けるのか?』(中央法規出版)
・世界経済と人間生活の経済学』(敬文堂)

 

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