地域で生きる/22年目の地域生活奮闘記96~私にとってのバリアフリーが配慮されたホテルを利用してみたことについて~ / 渡邉由美子

先日ユニバーサルデザインタクシーを利用したのに続いて、今回は「ホテルのユニバーサルルームでくつろぐ」という体験をしてみたことについて書いていこうと思います。

この2回の体験を通し、癒しややすらぎの時間も本当に大切だと実感しました。いつもあくせくと携帯電話にかじりついて、人と連絡を取っていないと不安になったり、時間にとらわれたりしている日常とは離れてこの部屋を使ってみたことで、精神的平安の大切さを再認識したものです。

さて本題に入ります。私が自立生活を始める以前、インターネット環境やパソコンがこんなに普及していなかった当時から継続してきた活動の一つに、バリアフリーマップの制作があります。

所属団体はいくつか変容しても、‟あくまでも私にとって“ということにはなってしまいますが、どこに使いやすい場所があるのかという情報はとても貴重なものです。

紙媒体で刊行していた当時は情報の差し替えがとてもむずかしく、2~3年も経つとすぐに古い情報になってしまっていました。たとえば冊子で「使いやすい」と紹介した建物やお店がその情報を手がかりに行ってみたらなくなっており、まったく役に立たなかったといったように。安価とはいえ、お金を払ってバリアフリーマップを買っていただいたユーザーにとても申し訳ないことをした記憶があります。

その点、現在はつねに最新の情報に更新するためにその場所を丹念に調査しておく必要こそあるものの、情報の更新自体はパソコンで簡単にできる時代になりました。全国各地から必要な人が必要な時にその情報サイトにアクセスして、ある程度、目的地の情報を得たうえで行動することができるというのは、重度の障がいをもつ人にとって大きな技術革新だと思います。

そんなバリアフリー情報をもとに、今回は癒しの時間を求めてホテルで休憩をしてみるということを思いつきました。そこは重度障がい者にとって、いや重度な障がい者といってもその程度や状態は十人十色なので、‟私にとって“とても使いやすくデザインされたホテルでした。

最近、高齢者を主なターゲットとしたユニバーサルルームやバリアフリールームは増えています。ホテルの経営者がイメージアップを目的にそれらの部屋を設けたり、お金に余裕のある高齢者がそういった空間を求めたりという理由のようです。

以前にも同じようなことを書いたかもしれませんが、ユニバーサルデザインだのバリアフリーだのといった名称のつく部屋は入り口に段差がない、手すりがついていて転ばないように配慮されているといったように、手動のコンパクトな車椅子の利用者を想定して作られています。まったく立ち上がれない身体状況の人たちのことは想定にすら入っていないというのが現実です。

しかし今回利用した部屋は、十人十色とはいえど、先天性・後天性問わず、立つ・歩く・寝返りを打つなどの日常生活動作全般に渡って介護が要る重度障がい者が利用することを想定したつくりになっていました。

ホテルの担当者と少しお話をさせていただいたところ、原案段階では介護用リフトを設置するという案も出ていたものの、需要と供給の関係を考えたときに、残念ながらそこまでの経費はかけられないという結論に至ってしまったそうです。

それでも2人介護を想定してゆったりとしたつくりにしたり、体幹機能に障がいがあって支えが必要という人もくつろげるような設計にしたりと、細部にまでこだわったとおっしゃっていました。

そのホテルは観光も盛んな地域に建っているため、観光を通じた親交を目的とした協会の方々や、ご自身も脳性麻痺をもち、障がい者運動全般を精力的にがんばってこられた障がい当事者の方も加わり、いく度とない会議や議論を重ねた末に、重度障がい者に癒しをもたらしてくれるその部屋が完成したのだそうです。

私が利用した時点では詳しいことは何も知りませんでしたが、ふだん「重度障がい者が使う時、こんな風になっていたら使いやすいのにな」といったこまごまとしたことすべてに、本当によく工夫が散りばめられていると感じました。

一例をあげると、私は介護用リフトがない状況では2人介護で抱え上げてもらわなければならないのですが、車椅子がぴったりとベッドに寄せ込める絶妙な位置に2人の介護者がゆったりと入り込めるよう配慮されているのです。

またトイレはとても広く、左右どちらからでも移乗ができるように考えられており、手すりも可動式で長さもきちんとあり、背もたれもしっかりともたれかかれるようになっていました。

浴室は私の身体状況では湯船に浸かることは困難だったものの、シャワーを浴びる分には十分でした。シャワーチェアも肘掛けや背もたれ・シートベルトがしっかりついているうえ、ちょうどよい高さがあり、使い勝手のよいものでした。

「なぜシャワーキャリーでないのか」とホテルの方に尋ねたところ、シャワーキャリーはブレーキをかけても動いてしまうケースがあり、転倒のリスクが格段に上がってしまうため、あえて据置式のものにし、ある程度、引きずることも想定したとの回答でした。

こんなに配慮が行き届いたホテルに出会ったことがなく、とても感動しました。完璧ではなくても、世の中は娯楽も含め、少しずつ重度障がい者を受け入れる方向に進みつつあると実感できたプライベートタイムでした。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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