地域で生きる/22年目の地域生活奮闘記110~重度障がい者の療育や教育を考える~ / 渡邉由美子

先日ある障がい者団体のイベントに参加した際に、現役で特別支援学校に通う肢体不自由の女の子と知り合いました。今回はそのことについて書いていこうと思います。

高校3年生のその子はこの春に特別支援学校を卒業し、その後は地元の生活介護事業所に通うのだと話してくれました。日中はそこに通い、帰ったら家族と一緒に過ごし、週末は家族とお出かけをしたり、みんなが長期休暇をとれる時は旅行にでかけたり…。そんな風に人生を過ごしていくのだと、目をキラキラと輝かせて話してくれました。

その子はきっと学校や両親といった周囲の大人たちが敷いたレールになんの疑問ももつことなく乗り、まるでそれが重度障がい者のごく一般的な生き方だとでもいうように自然に受け入れているのだと思います。

とびきりの笑顔を浮かべて楽しそうに話すその子を見ながら、養護学校を卒業してまもないころの自分と重ね合わせて、何とも言えない気持ちになったものです。

人それぞれの考えや生き方を否定するつもりはもちろんありません。また初対面の人間が誰かの生き方についてとやかく言うこともなければ、言うべきでないこともわかっています。ただ「生活介護に通うなんてもったいないな」と思ってしまったのが正直なところです。

なぜなら彼女はとても知的で、身体機能も私と比べてずっと自由が利いて、また人を惹きつけてやまない屈託のない笑顔もとても魅力的だったからです。

誤解をおそれずに言うと、障がいをもつ子の多くは小さな頃から、その子のもつ可能性や能力を見い出し伸ばすという本来あるべき療育・教育とは真逆に、いってみれば健常者と同じような欲求を抱かないよう指導されているように思えてなりません。

そうして育った子は往々にして手がかからず大人しく、周囲が望む一般的な障がい者像にはめ込まれているように感じます。

私はたまたま養護学校を卒業して初めて行った障がい者向けのカルチャーセンターで、自立生活という選択肢を教えてくれた人と出会い、今こうして自分の意志で自立した生活を送り、社会活動に励んでいます。

センターの安全管理者兼指導員だったその人は、学生時代に重度の脳性麻痺をもつ障がい者たちの自立生活を支える活動に携わっており、当時の私にも障がい者が周囲に敷かれたレールの上を歩むのではなく、自分らしく自立して生きる道があるということを教えてくれました。私の歩んできた人生のベースとなったことは明確な事実です。

私が出会ったその子に限らず、障がいをもっている人は健常者とは異なった生活をするのは当たり前と刷り込まれて生きている障がい当事者があまりにも多いように感じます。

特別支援学校の教育課程も、障がいをもつ者として、周囲の用意するレールに従順に乗り、大人しく生きていくよう教えることに終始しているように思えてなりません。もっと出来ることを増やすとか、一般社会に混ざって、ふつうに暮らすといったことを前提にした指導や教育を受けさせてもらえる機会を作っていくべきだと思います。

確かに高校卒業まで12年間学校に通っても、なかなか健常者と同じように学ぶことはできないというのが現実です。教師の側も、学生一人ひとりの能力に応じてできる限りの高等教育を施し、一般社会で生きていくスキルを身につけさせようという想いをもって指導にあたる人はほとんどいないように思います。

特別支援学校を卒業した後、何の疑問も持たずに生活介護事業所に通いながら家族と同居し、親が年をとったり病気になったりして家族の介護が受けられなくなると障がい者支援施設に入所する。

そうしていつの間にか自身の生活拠点そのものが本人の意思ではなく、周囲の人たちの意向に沿うままに始まり、本人が深く考える暇もなく、それが当たり前になってしまう。そのことに何とも言えない不条理さを感じます。

「地域で暮らすより、施設に入所したほうが衣食住も安全も保障され、なんの苦労もなく安穏と生きていける。障がいが重くなればなるほど施設に入所させたほうがよい」私は社会に根付いているそんな風潮を断ち切りたいと思わずにはいられません。

生活介護事業所に通うことや障がい者支援施設に入所することだけが障がい者に用意された人生ではない。様々な選択肢とチャレンジの道があるということを理解している当事者がとても少ないのが現状です。

彼らが知らない世界を知らしめるための活動を地道に積み重ねてきてはいますが、まだまだ少数派意見としての立場を脱することができていません。

私が自立生活を始めたころは重度訪問介護という制度はありませんでした。少しずつ制度が整備され、介護を受けられる時間数も多くなり、今となっては24時間介護が受けられるようになりました。

制度が確立するまでには長い時間がかかりましたが、今は重い障がいを持つ人でも、自らが望めば地域で自立した生活を送ることができる時代です。だから大いにそれを活用して、社会参加活動や就労を通じて一般社会に溶け込み、本当の意味で障がいの有無に関わらず、さまざまな人たちが共に手を取り合って生きる社会を創っていきたいと思います。

地域で暮らしていれば、夜の居酒屋にお酒を飲みに行くことはもちろん、好きなアーティストのライブに行くこと、まだ見ぬさまざまな世界へ遠出することだってできるのです。でも障がい児(者)に関わる人たちは、そのようなことができる将来を想像しないので、どうしても彼らは世界の狭いなかで生きることになってしまいます。

若い当事者たちには、そういった本物の楽しみを味わいながら、生きがいある暮らしを創造していってもらいたいと思います。件の女の子との出会いは、地域で自立生活を送る現役当事者として、一人でも多くの若い世代にその醍醐味を伝えられたらと改めて考えるきっかけとなりました。

 

◆プロフィール

渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

関連記事

TOP