地域で生きる/23年目の地域生活奮闘記131~6月の暑さ対策に思うこと~ / 渡邉由美子

このところ夏の訪れがずいぶんと早くなっているように感じます。私自身が更年期障害の真っ只中におり、そのためにより暑く感じるのかもしれませんが、それにしてもまだ6月だというのにエアコンなしでは到底暮らせない日々です。

重度の障がいをもち、身体を思うように動かせない私達にとって、温度調節は健常者のそれとは比べ物にならない程むずかしいのです。とりわけ脳性麻痺をもつ人は末梢部が冷やされることで筋肉の緊張が強くなり、普段から抱える痛みや二次障がいの症状が重くなります。

中には「エアコンは一切つけたくない」という人もいます。エアコンや扇風機をつければ涼しさは得られるけれど、その代わり寝たきりの状態になってしまうというのです。それが夏だけにとどまらず、夏の間にそのきっかけを作ってしまったことで慢性的な症状となる場合もあります。

私自身もそのタイプなのですが、同じように脳性麻痺をもち、障がいの重度も一種一級という当事者の中には、「車椅子に長い時間座っていると、空気が通らない背中に熱がこもってしまう。それを発散することがむずかしく、暑くてたまらない。願わくば冷蔵庫ぐらいの温度の空間で生活をしたい」という人もいます。

体感温度は人それぞれ違います。暑がりと寒がりが同居することは家族であってもむずかしく、世の中にはそれが原因で夫婦仲がこじれて離婚する例もあると聞いたことがあります。

ちなみに頸椎損傷の重度障がい者は暑い・寒いといった感覚がないために、高熱が出ていても自覚症状がなく、周囲が気づいたときには全身の冷却が必要な状態に陥っていたり、熱中症患者と同じように病院に救急搬送されたりといったケースもあるようです。

重度の障がいをもつ人たちにとって、長い夏を乗り越えるということは並大抵のことではありません。障がいを抱えながら生活をしていく、生き抜いていくということは本当に困難なことだと改めて思います。

また暑い時期は熱中症予防のために十分な水分を摂ることが重要です。とはいえ摂取した水分が全て汗で流れ出てくれるわけではなく、必ず排泄問題が生じます。すぐにトイレに行ける環境でなければ、つい水分補給をためらってしまうという重度障がい者は私も含め少なくないと思います。

特に障がい者運動を活発に行っているとき、健常者と混ざって社会参加活動をする際にはそうなりがちです。健常者のペースに合わせて上手くやろう、彼らに負けないくらい精力的にやってやろうと思えば思うほど、排泄にかかる時間、人によっては水分補給にかかる時間さえも惜しくなってしまうと言います。

ただ若いときに無理に無理を重ねた結果、身体を壊してしまい、「あんな無理をするものではなかった」と後悔する障がい当事者もたくさんいます。そんな先輩方の姿を見るたび、「今のうちに我がふりを改善していかなければ」と思わされます。

もう一つ、重度障がい者ならではの大きな問題があります。それは自立生活を送るために常時同じ部屋にいてもらう介護者との調整のむずかしさです。

障がい当事者が二次障がいを懸念してエアコンをかけたくなくても、介護を提供する側は肉体労働であるがゆえに、より暑さを感じているというケースは往々にしてあります。介護者が当事者に合わせて暑さに耐えながら働いているうちに具合が悪くなり、その人の介護を続けることがむずかしくなってしまうという事例も少なくありません。

また逆に、介護者のなかにはエアコンが身体に合わず、激しい頭痛を起こしてしまう人もいます。なるべくエアコンの風が当たらないところでケアをするようにしていてもやはり体調不良に陥り、介護ができなくなってしまうということもあるのです。

室温は原則、利用者に合わせるのが理想であることはいうまでもありませんが、介護者が体調を崩して現場を離れてしまうことも当事者にとっては死活問題です。両者にとって快適な温度調節をすることは非常にむずかしく、夏の猛暑をどう乗り切ったら良いものか、毎年頭を悩ませています。

暑さを感じやすい私は、冷感グッズをいくつも試してみています。背中に敷きこんで使うシートタイプのものは、冷たさがほんの数時間しか持続せず、冷たくなくなったシートの上にいつまでも座っていると、かえって毛布を一枚敷いているような状態となり、余計に熱がこもってしまってダメでした。

去年は最近流行りの携帯用首掛け式扇風機を購入しました。”持ち運べるクーラー“というキャッチフレーズに惹かれたのですが、首にかけているととても重たい、冷却時間が短く、風量を「強」にしているとすぐに充電が切れてしまうなど大失敗をしました。

今年はその失敗にめげず、ベビーカー用の充電式の扇風機を購入して使い始めていますが、これは今のところとても使い勝手が良いと感じています。クリップで挟むタイプのものなので、風を当てたい部分にできるだけ近づけて設置できるのと、ハンディータイプのものに比べ風力が強いのとで、この夏活躍してくれそうです。

なにはともあれこの暑さは10月まで続くでしょう。当事者も介護者も熱中症にならず、どちらかが極端に我慢することもなく、夏を乗り越えられるよう、なんとか対策を講じながら過ごしていきたいと思う今日この頃です。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を精力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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