「異端の福祉」を読んで / 長尾公子(監査役)


高浜代表はいつか本を出すんだろうな、そんな薄っすらとした気配をいうのをもう何年も前から感じていたような気がします。それは、高浜代表の経験と言葉とがもっと多くの人に届いたらいいな、ある人の社会に目を向ける、又は関心を持つきっかけになればいいな、という自分自身の想いの表れだったのかもしれません。

 

届いた本を手にした時、まず表紙が目に飛びんこんでくるわけですが、凛とした表情の高浜代表が居ました。

 

初めてお会いしたのは、十数年前、認知症対応型グループホームで働く同僚の「高浜さん」として、でした。著書にもあったように、ご自身がアルコール依存症から社会復帰を目指し働き出した時期で、AA(アルコール依存症の方が集う互助会)に通っているまさにその頃だったかと思います。その頃の「高浜さん」と同じ人のような気もするし、全く別の人のような気もするし、一冊の本の表紙になった姿を見て、いま全国で何千人もの働く人のいる会社の社長なんだなと改めて思うと、少し不思議な感覚を抱きます。あの頃の「高浜さん」が、十数年後にこうして、著作を世に出したことは、なかなか、感慨深いものがあります。

 

本の内容は、高浜代表の人生と障害者の方の歩みとがリンクする部分もあり、とても纏まりがありました。既に知っている内容が多くあったため、今まで知らなかった体で読むことにしましたが、一言で言うととても分かりやすく読みやすい本でした。障害者の歴史について、制度について、そして高浜代表の生き方がこの一冊に書かれておりましたので、株式会社土屋に関わる人であれば、是非読んでいただきたい教科書的な側面があるとも感じました。

 

「異端の」とタイトルにある通り、重度訪問介護をビジネスにしようとしたということ自体は、たしかに従来の福祉に対して世間一般の方が持つイメージからは、外れているような気がするのかもしれません。

 

しかし、この本を読み進めると、如何にこの「異端の福祉」が目指していること自体が、自然で真っ当であるかに気付かされます。介護現場に長く携わり、介護保障要求者組合にも参加し、ドロップアウトしながらも、再び介護の道に戻った高浜代表には、常にきっかけになる「人」の存在が書かれています。障害福祉分野に没頭するきっかけになったともいえる現参議院議員木村英子氏、一緒に障害者運動をしてきた新田勲氏、傍に居たご家族の方、そしてご自身の権利を自らの命を削るように主張してきた障害当事者の方々。

その「人」に応えるように、時に助けられるように高浜代表の人生は流れ、「重度訪問介護」事業はスタートしたことがわかります。とても誠実であり、福祉的だな、と改めて感じました。

 

本の中には、重度訪問介護難民がなぜうまれてしまうのか、地域間格差等の現実的な課題も書かれております。制度そのものを知らない、自治体の財政負担、サービスを提供できる事業者がいない、等々。これらの課題を解決するには、とにかく全国に重度訪問介護の事業所を展開するしかないこと、「イノベーションのためには広く浸透している一般の価値観に合わせて変化していくことの大切さ」が書かれています。

 

読者の中には、高浜代表のこれまでの「変わっている」と言える生き方を遠いものと感じ、障害分野もやはり馴染みを感じられず、特殊だなと感じられる方もいるかもしれません。そういう方には本の後半から読み進めて欲しいと思いました。

 

何故か。本の後半にある、クライアントへのインタビュー、社員へのインタビューは、クライアントでも社員でも、「ひとりの人間が歩んできた人生」を綴っています。息づかいや気配、その人の折々に感じた葛藤や喜怒哀楽が語られています。

 

このインタビュー記事は、高浜代表が重度訪問介護事業を始めていなければ、もっといえば、そこまで高浜代表を奮い立たせてくれた人が居なければ、一生書かれることもなかったページであると言えますし、まだまだ充分ではない重度訪問介護をまずは知っていただくことの窓口になる気がしました。

 

自分も少しばかり携われていることを誇りに感じさせてくれたこの一冊に感謝しながら、本をご出版されたこと、高浜代表、改めて、おめでとうございます。

◆プロフィール

長尾 公子(ながお きみこ)
1983年、新潟県生まれ

法政大学経営学部卒。

美術品のオークション会社勤務後、福祉業界へ。通所介護施設の所長や埼玉の訪問介護エリアマネージャーを経験し、2017年、出産を機にバックオフィス部門へ。現在は3歳と0歳の子育て中。

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