地域で生きる/23年目の地域生活奮闘記133~夏の風物詩鑑賞にも配慮がほしいと思うこと~ / 渡邉由美子

この原稿を書き始めようとしている今日は隅田川の花火大会が4年ぶりに開催されるとあって、私の住む街は活気であふれています。それは商業の発展や日常の中から楽しみを得るという観点からはとてもよいことなのだろうと思います。

数年前、新型コロナウイルス感染症が猛威を奮うまでは、私にとっても大きな夏のイベントでした。ちょうどこの時期は、春から新たに学生ボランティアに加わってくれる一年生が数回ずつ私のもとを訪れ、介護にも慣れる頃です。

また大学の夏休み期間と重なることもあり、縁あって私のところに来てくれる学生さんたちを招いてにぎやかに過ごすのに最適なのです。

昼間介護に入ってくれた学生さんたちにはそのまま少し残ってもらい、花火を観にだけ来る学生さんたちと合流し、ビルとビルの合間からよく花火の見えるスポットを見つけては早くから陣取りをするなど、飲食物を買い込んで会場まで行かずとも十分に夏の風物詩を楽しめたものです。

もともと夏の暑さが大の苦手なことに加え、歳を重ねてイベントを楽しむパワーが減速したということももちろんありますが、新型コロナウイルス感染症の第9波が確実に押し寄せていることを考慮し、今年は街に繰り出すことはせず、自宅でテレビ中継を観ることにしました。

緊急事態宣言発令のもとでの長い自粛生活を経験してみて、外食や飲み会を含め、日常生活はある程度もとに戻していかなければ、この社会そのものが回らなくなることは皆が痛感したことと思います。

コロナという感染症の分類が5類に移行したことをきっかけに、「感染対策は十分に講じながらも、コロナ前と同じような社会を取り戻そう」という動きが加速していることは、当然いいことなのだと思います。

しかし100万人以上の人手が予想され、警備体制の不足が懸念されるほど大きなイベントの開催については、私はどうも手放しで楽しむ心境にはなれません。世の中には病気や障がいをもつことで免疫力が低下してしまう人たちがおり、なかでも地域で暮らす人たちはとくに今現在も「絶対にコロナにかかるわけにはいかない」と必死に感染予防対策をしながら日常生活を送っています。

そんな風に常に人一倍緊張感をもって暮らす人たちへの配慮も忘れてはなりません。免疫力の弱い利用者の生活を支える介護者や医療従事者たちは、プライベートな時間もコロナに感染しないよう気を遣って、彼らの地域生活を必死に守ろうとしています。

花火大会をやってはいけないとはいいませんが、近くで花火を楽しみたい人には主催者が有料の観覧席を設け、感染対策もしっかりされた会場で心から楽しめるようにする。そうすることで感染リスクの高い人たちの生活も守られる。そんな社会の実現を本当に真剣に考えるべきではないでしょうか。それがこの4年間を通して私たちが身をもって学んだ”withコロナ”なのだと思うのです。

感染症のリスクとは関係なく、障がいのある人は100万人以上が集まるような場にはなかなか近寄れません。ただでさえ花火の打ち上げ開始時間までまだ5時間近くある午後2時現在、もう最寄り駅には人がごった返し、身動きがとれない状況だとネットニュースが流れています。そんな場所に車椅子で乗り込むことは命取りになりかねません。

それを考えるたび、私たち障がい者は”花火を楽しむ”ということから排除され、差別されているように感じてなりません。特別扱いを望んでいるわけではありませんが、きちんと整備された観覧席が用意されれば、障がいの有無にかかわらず万人が、安全に楽しく花火大会を満喫できると思うのです。

観客動員数も花火の打ち上げ規模も、日本最大級の隅田川の花火大会主催者がさまざまな観点や立場を考慮したイベントの運営をするようになれば、もっと規模の小さなほかの花火大会主催者もそれを真似するようになり、みんなが安心して夏の風物詩を楽しむことができる真の娯楽となるのではないかと強く思います。

待ちに待って4年ぶりに開催するのであれば、withコロナの観点が十分に盛り込まれた新しいかたちの花火大会としてリニューアルする良い機会となったのに、とても残念でなりません。

数時間後には花火大会本編が終了します。そのときに何十万人が会場に訪れ、なかには怪我人や帰宅困難者が出たといった大きな問題になっていないことを願います。もし万が一起こってしまった場合には、そこから花火大会観覧のあり方について議論が始まっていくのだと思います。

そんなときには墨田区民でこそないものの、隅田川花火大会開催会場のすぐ近くに住む重度障がい当事者として意見を出す機会があったらいいなと考えています。パブリックコメントのようなかたちでもいいのです。さまざまな立場や状態の人たちの声を吸い上げながら、全ての人にとってよりよいものを作っていくために、できることを模索・検討していく。そんな共生社会を構築していけたらと思います。

そんなことを考えながらチューハイの一本も空けて、テレビ中継の花火を生の花火の音とともに楽しみたいと思う猛暑の夏の一夜なのです。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を精力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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