政治はなぜ大切なのか/安積遊歩

私の介助者は、20代から30代くらいの人がほとんどだ。学生もいれば、介助の仕事だけで生計を立てている人もいる。私は、自分の興味や関心があることは、みんなによく話すようにしている。それを彼女らはよく聞いてくれる。

私はヴィーガンだから、肉食の問題性や、そこから波及する気候変動、自然破壊の問題、そしてゴミやプラスティックのこと、私の最も得意とする自立生活運動や介助のことについてなど、分かち合いたいことは果てしなくある。それらについての情報や知識、そしてそれに対する工夫や取り組みなど、絶望の中にも希望を持って、分かち合いたいと努力している。

そんな私でも、なかなかに口が重くなることがある。政治だ。あと1ヶ月のうちに参議院選挙がある。選挙は政治の中にあり、どんな社会に住みたいかを考える、最高の機会だ。自分の望む社会を作るための参加のチケット、それは義務であり、権利であり、責任だと私は思っている。

政治の仕事とは何かを、究極にシンプルに言えば、納められた税金の公正な分配と、人々の暮らしの安全安心を守るための、法律を作っていく仕事だ。要するに、人々がみんな暮らしやすいように、お金の使い先を決め、人々が合意できる法律を作り、また、みんなが幸せにならない法律をやめていくのも政治だ。

日本に住む1億2000万の人が、よくよく話し合ってそれを決められたら1番良いが、それは不可能だ。だから選挙がある。人々は、自分に代わって、自分と共通の意見や思いを持って、良い社会を実現したいという政治家を選ぶ。いや、選んで欲しい。それが選挙であって欲しい。

私は、政治を注視し続けた父親がいたから、幼い頃から選挙に興味があったし、20歳になった時には、喜びを持って投票した記憶がある。私が中学校の頃には、国会議事堂見学があった。周りの大人や学校で、政治のことに触れられなかった人でも、国会議事堂に行ったことは、覚えている人は多いのではないだろうか。もちろん、国会議事堂に行ったとしても、それが自分の人生にどのように繋がっているのかを考えられた子は少ないだろうけれども。

しかし政治は、人々の暮らしのありとあらゆるところに繋がっているのだ。例えば今国会で、夫婦別姓でも夫婦とみなすべきという、何度も何度も自公に可決を拒否されている法案がある。だがもし、今度の選挙で野党が政権を取れば、この法案が通る確率が非常に高くなるだろう。

また、良くない法律を最終的に廃止するのも政治だ。1948年から96年まで、障害当事者に対する不妊手術を強いる、優生保護法があった。それを廃止するためには、私は仲間と共に、政治の力が必要だということに気づき、20年くらいにわたって様々に運動を展開した。そしてその努力が実って、96年に改訂されたのだった。改訂されても、これまた長期にわたって、被害者への賠償が決められるためには、改訂から25年以上の時を要した。

障害を持つ人の人生を、強烈に差別する優性思想は、法律によっても保障されていたわけだ。現在も国会の中では、軍事費の増強や、原発推進など、人々の生活や命をおびやかす法律ばかりが可決されている。

それを覆すためには、選挙が大切なのだ。選挙に行って、自分たちの安心安全を、本当の意味で実現してくれる人を、国会に送り込みたいと思う。

選挙をしようと、私は投票所に行くたびに、歯噛みする思いがある。自分たちの生活が、優性思想によって脅かされている日々。それは、政治に無関心であればあるほど、さらにさらに増長していくだろう。

人を殺してはならないという、シンプルで、果てしなく重要なポリシーでさえ、残酷にも踏み躙られている世界がある。パレスチナに対する、イスラエルによる虐殺を止められないことに、無関心になってはならない。

2016年7月に神奈川県で起こった、やまゆり園事件もまた、非常に政治的だった。何より、19人の命を奪い、27人の人に重軽傷を負わせた犯人は、この事件を起こす前に、政治家に向けて手紙を書いている。障害を持つ人を虐殺することが、いかに正しい行為かを言い募り、優性思想をぶちまけている。

政治がすべての優性思想を止めることはできなくても、愚かな法律を廃止することは政治の大切な役割なのだ。そして税の分配を、少しでも公平なものにしていくこともできる。やまゆり園事件の後、税金を使ったのは、私たちが最も望んでいない、防犯カメラと高い防護壁を、全国のいくつかの施設に設置したのだった。政治がどんなに優性思想に満ち満ちているかが、そこでも明らかになった。

選挙に無関心な人々に、強く強く訴えたい。選挙に行って、どの候補者を選べば、ほんの少しでも優性思想から自由になれるのかを、見極めて欲しい。

◆プロフィール

安積 遊歩(あさか ゆうほ)
1956年、福島県福島市 生まれ

骨が弱いという特徴を持って生まれた。22歳の時に、親元から自立。
アメリカのバークレー自立生活センターで研修後、ピアカウンセリングを日本に紹介する活動を開始。
障害者の自立生活運動をはじめ、現在も様々な分野で当事者として発信を行なっている。

著書には、『癒しのセクシー・トリップーわたしは車イスの私が好き!』(太郎次郎社)、『車イスからの宣戦布告ー私がしあわせであるために私は政治的になる』(太郎次郎社)、『共生する身体ーセクシュアリティを肯定すること』(東京大学出版会)、『いのちに贈る超自立論ーすべてのからだは百点満点』(太郎次郎エディタタス)、『多様性のレッスン』(ミツイパブリッシング)、『自分がきらいなあなたへ』(ミツイパブリッシング)等がある。

2019年7月にはNHKハートネットTVに娘である安積宇宙とともに出演。好評で再放送もされた。

 

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