地域で生きる/21年目の地域生活奮闘記㉖~当事者が築き上げてきた在宅介護本来の意義が危ぶまれている!~ / 渡邉由美子

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

先日、重度訪問介護を使っての自由な暮らしというブログを書いたのですが…。相反するような記事をすぐに書くことになり大変恐縮ですが、今回は重度訪問介護の利用による暮らしの自由が危ぶまれている現状について、お話しようと思います。

というのも、私が今回このような内容を書こうという経緯に至ったのには、書かねばならないと私を今強く突き動かすことがあったからです。誤解のないように伝えておきますが、私は今回ここで事業所の批判を書きたいのでは全くありません。「制度が与える影響」と「自由な暮らし」の均衡を保つことは難しいなと感じたので、そのことについて私なりの見解を述べさせていただきます。

最近、厚労省や東京都、そしてその下に位置した、利用者と一番身近な存在としてサービス提供量などを決定している地方自治体が画策している制度がありますが、そういった制度により、今までの在宅による重度訪問介護を使った自由な暮らしの存続が危ぶまれてしまっているのではないかと感じる時があります。

例えば特定事業所加算という加算を事業所が取りたいと思うと、利用者としてはプライバシーや個人情報を毎日湯水のごとく垂れ流さなくては、重度訪問介護という地域生活を維持するのに必要不可欠なサービスを受けることが出来ない世の中になってきているのです。

もう何年も前から、国が介護保険と障がい者の介護給付制度を一体化したいと強く思っていることは重々承知しています。しかし、そのことを強行に推し進められるたびに、全国から重度の障がい者達が命をかけて闘い、自分たちの生活圏が脅かされない地域生活を支える制度を勝ち取り、守り抜いてきました。

冬の小雪の舞い散る厚労省前、2,000人の障がい者が集い、切実な窮状を訴え、絶対に引かない姿勢で戦ってきた結果、現状のような自由度が比較的高い毎日を、介護者の個別性の理解の賜物として得ることで生きているのです。

この制度の原点は、脳性麻痺者等全身性障害者介護人派遣事業です。(詳細はこのキーワードで検索すると大枠はわかっていただけると思います。)

そして、現在使っている事業所6カ所のうちの5カ所が、まず特定事業所加算の要件を満たす目的として、事業所の責任者が利用者の生活内容を把握できるような記録を書くことを求めてきています。残り1社は当事者と共に障がい者運動を展開する中で出来た事業所で、そのような記録は必要ないという立場を取っていただいています。

なぜ重度障がいを持っていて、人の手が必要な人間にはプライバシーはないのでしょうか。また、特定事業所加算を取る目的だけではなく、よりよい支援に繋げるという口実で、日々の介護記録を共有しようとする事業所もあり、利用者のプライバシーが脅かされてしまうということに違和感を覚えます。

これまでは様々な介護者の得意分野を活かして、この介護者はパソコンが得意だから今日はパソコン作業を中心とする生活をしようとか、この介護者に外出支援をしてもらったら楽しいから今日は1日外出しよう(コロナ禍前の話ですが…)とか様々な創意工夫をこらすことが出来ました。

このように、今日まで大変なことがあっても地域はやっぱりかけがえのない自分らしい生き方を可能にする唯一の場所と思い、暮らしてきました。

しかし、介護事業所が求めている記録が事細かに付けられるようになっていけばいく程、以前行っていたような、介護者ごとの得意分野に沿った生活がより豊かになる介助内容ではなく、平均的にどの介護者にも頼める介助内容しかできなくなってしまうのです。

そんな画一的な生活は求めていません。と言うのが正直本音ではありますが、話しても国の法律で定められてきているので、それを守らなければ事業所運営が財政的に厳しくなってしまうのです。そして、記録を常用化させてもらうことに承諾をしてほしいと懇願されています。

読者の皆さん、少し考えてみてください。もし、自分が介護を受ける側だったら、自分の生活の支援をして下さる人(介護者)限定とはいえ、自分の生活の詳細な内容を公開されることに違和感や疑問を感じないでしょうか?

事業所が記録を書きたい理由として、私の介護をするにあたって、大雑把にでも普段の私の性格や趣味嗜好、健康状態などについて把握している必要があるからという事はわかりますが、実際はその日その日で私の健康状態ややりたいことは変わります。

私の本音としては、その都度私の状態をよく見て、どのような介護が必要か考えて介護してもらったり、口頭で前の介護者から細かい変化などを引き継いで、その日その日に合わせた介護をしてもらったりすることが理想です。

しかし、事業所側としては、その日の予定の介護者が怪我や病欠などした場合、急なバックアップ対応も可能な状態にしておきたいという事を踏まえて、あらかじめ詳細な個人情報を把握しておく必要があるとの見解を示しているのが現状です。何度も言いますが、私はここで事業所の批判を書きたいのでは全くありません。

重度の障がいと一口に言っても、様々な障がい像があることも踏まえたとしても、本当に普段からの情報共有がないと生活支援や自立生活支援は出来ないのでしょうか?

私は声を大にして「そんなことはあり得ない」と言いたいのです。

なぜかと言えば、人の生活は毎日同じように見えても、昨日は昨日、今日は今日で詳細な部分は全て違うのですから、一体何の情報共有が必要なのか、全く理解に苦しむ毎日です。

ここで問題にしているのは、一つの事業所のサービスの提供の仕方が悪いと言っているのでは決してありません。そうではなくて、重度訪問ってどんな制度であったかの根本を思い起こして、その日の当事者と正面から向き合い、その日の生活を共に作っていくスタイルの支援の在り方に目覚めて欲しいということです。

そこに資格は要りません。真に私の思いを叶える手足が欲しいだけなのです。

様々な障がいを有する者がいることを考えて百歩譲っても、情報の共有は、危険が伴う身体介護の部分や、どうしても飲まなければいけない服薬の情報程度の共有に留めてもらいたいと切に思い願う今日この頃です。

厚労省はじめ、お役人の皆さん、あなたたちが形式的に優良事業所と指定するために特定事業所加算の要件を厳しくすればする程、障がい当事者の日々の生活が、施設にかつて入所させられた頃に逆戻りするかの如く、管理体制の中で暮らさなければならなくなっている事実を認識し、そのような事を求める行動をただちに停止してもらいたいと思います。

人として当たり前に生きられるための重度訪問介護の制度再生に尽力していきたいと思います。当事者の皆さんも自分らしい生活を守るため共に頑張りましょう。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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