ソーシャルとビジネスのバランスについて / 佐々木直巳(本社・人事労務 シニアディレクター)

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

理念の共感と社員への心配りがあればビジネスとも両立できる。

ユヌス(ノーベル平和賞受賞者を受賞した経済学者)の言葉に、私利(Selfishness)と無私(Selflessness)というものがあります。極論ではありますが一般企業であれば利潤追求の「私利」が大前提となるでしょう。一方でソーシャルビジネスは「無私」の心で、金銭というより、まずは社会的な利益の追求を求めるということになります。ソーシャルとビジネス、私利と無私の両極にある二つの概念を併せ持つ言葉、ソーシャルビジネスについては、その成り立ち、経営理念をどちらにバランスをとるかによって、あるいはどのような付加価値を加えていくかで、企業それぞれに、人格も在り方も変わってくると思います。

「無私」の心を選択し、優しさを誇らしさに。といった思いやりの心で仕事をするのが理想です。しかし熾烈な市場競争で勝敗が決まるこの社会で、無私をとり、優しさをとるなどと言っていては、経営などできないのではないかと?いう批判めいた言葉もどこからか聞こえてきそうですが、果たして本当にそうでしょうか。

果たすべき使命、実現したい未来、その理念への責任を選びとるならば、決してこの選択は、矛盾するものではないと考えています。でもやはりそこは、バランスのとり方が必要だと思います。社会に誇れる活動に携わりたいと思うならば、(株式会社で食べていく以上、完全に無私になれとまでは言わずとも)そうした心を高める努力、行動、共感してくれる仲間を増やしていくことが不可欠であると考えていく方が、多様性ある社会を目指し、その社会的責任を選びとった会社としては相応しいのではないでしょうか。共感しあえた仲間の絆は太く、深くなるもの、持続するものと思います。

なので、バランスでいえば、第一印象は ソーシャル ≧ のイメージです。条件を加えるなら、理念への共感と同時に社員への心配り、プラスαがあればバランスは保てると思います。

しかし、ソーシャルばかりに傾くだけでは、会社としてのカタチは成り立ちません。会社が社員の幸福(社員の向こうにいる多くの家族も背負っていること)を考えずに、ただ利益だけを追求してもダメでしょう。それでは社員が心から理念に共感し、経営に協力してくれるはずが無いからです。一方、会社が、理念の浸透をしっかり教育し続けられて、そしてそれと同じくらい社員のことを何より大切に思い、全社員が安心のもと、おなじ価値観、やりがいと誇りを持って生き生きと働けるような環境づくりに徹すれば、結果として、金銭理由の離脱者(自己都合退職)は減り、共感した理念の実践が進み、業績を向上させてくれるはずであると考えます。もちろん、上場を視野に入れた成長戦略がある以上、決して株主利益を軽んじるものでもなく、むしろ株主の利益を尊重する経営理念も同時に併せ飲んだ理想を、今後はさらに深く追求するべきと、感じます。

そうした理想的ビジネス展開も大事となるとバランスは、ソーシャル≧ビジネスから少し中心点は戻り、やはりソーシャル50%、ビジネス50%が結論になります。

けれども、このバランスを最適にするには、共感しあえた仲間とのつながりに、プラスαとしてバリューの統制が欠かせないと思っており、その影響についても、考えておこうと思います。

話は少し(いや、だいぶ)逸れますが、今期になって、人事評価制度を作りました。(一般的な会社で行われる評価制度とは大きく異なり、導入初期段階の位置づけで、まずは評価制度に慣れることを目的とした大変簡易的なものです。本来の人材育成、教育的役割も含めた完成形になるにはあと2年ぐらいかかりそうですが)この制度で主眼に置いたものは、ミッションとビジョンといった経営理念の理解を確認する視点と、バリューを基準にした行動評価を落とし込んだ点にあります。

この「バリュー」をベースに評価制度を作りこんだ背景には、社内の意識改革を継続できるようにと考えたからです。特にいまのリーダー層には、「人間として何が正しいのか」を自らに問い、正しいことを正しいままに貫いていくことをこの制度で再認識してもらう機会になればと思います。当社のバリューに難しいことは記されていません。きっと誰もが、子どもの頃から教わってきた、公平、公正、正義、誠実、謙虚、努力、勇気、博愛などの言葉で言い表されるような、普遍的な倫理観にもとづいて、12のバリューが作りこまれています。ミッションを行う際はこれを基準に全てのことを判断し、行動していこうとするのがバリューです。
仕事に限らず、普段の生活の場面でも活かすことができ、心を高めることを通じて、多様で幸せな人生を送るための考え方が示されていると感じています。私は、そうしたバリューを評価制度に意識的に盛り込み、なぜ、こういう考え方が、企業経営において、また一人の人間として生きるにあたり必要になるのかについて、思い返す機会を作ってみたのです。

さきほどから話している、共感しあえた仲間は大事ですが、その仲間が、人として正しくない行いを気付かぬうちに行っていたら、簡単に内部崩壊が始まります。そうなったら目も当てられません。つまり、ソーシャルに重きを置いたミッション・ビジョンに、ビジネスを付け合わせた時には、その後に目的と手段をはき違えて、正しい方向を見失ったり、見落としたりしてはならない、そのためにはバリューを常に相互で意識してもらいたい。共感する仲間を、バリューの意識で、皆で大事にしてもらいたい。

この意識は採用の段階から必要かもと感じた部分でもありました。入社前に抱いてくれた理念への共感を裏切りたくはないですし、まして人的理由(上司や同僚)、心無い行動で期待を裏切りたくもないのです。どうせ裏切るなら、予想外に良い方向に裏切りたいものです。

そしてなぜ、こういう考え方が、ソーシャルビジネスにおいて、また一人の人間として生きるにあたり必要になるのかを管理職、リーダーに徹底して理解してもらいたい、これを評価制度作成のなかでお手伝いできるようにしてみたのです。

当社とは無関係な、第三者が読めば、深読みされず軽視されてしまう文面かもしれません。でも我々は理念への責任を選び取ったのですから、持続的に経営を続け、得られた資源をまだ見ぬ小さな声の探求に回し続けなければなりません。内部崩壊などしてはいられないのです。
実際に我々は過去において、このバリューを決して身につけていた目線ではなかったし、まして実行もしていなかったはずです。そんな不作為が停滞をもたらすことを、我々は十分に痛感し知っています。

なので、50%ずつのバランスを保ち、理念の共感とバリューの意識がプラスα 必要だと思っています。

結局、人事的な目線になってしまいましたが、ソーシャルとビジネスのバランスについてでした。

 

佐々木 直巳(ささき なおみ)
本社・人事労務

 

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