土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)
世の中には、たくさん仕事がある。そうした仕事の中で、全ての命が生き生きと生きるために必要な仕事はどれくらいあるだろうか。あまりにも仕事を巡る問題や課題は多すぎて、どんなに語っても語っても語り尽くせない。しかし今回は特に、就活をして、それがうまくいかなくて、病気になったり、自殺してしまう若者に一言メッセージを書いてみたくなった。
私は北大のある札幌に住んでいるが、毎年北大の学生に、介助のアルバイトを頼んで、常に数人の人と繋がりがある。そこで、驚くべき話を聞いた。例年、北大では平均10人の自殺者が出るのだという。どうやらその理由のトップが、就活がうまくいかないことにあるそうだ。文系と理系では、理系の方が若干数が多いともいう。
文系の学生は色々悩むが、悩むこと自体がカタルシスになるのかもしれない。理系は二者択一式の思考を求められてきたので就活がだめになると、すぐに死という結論にいきがちという。いずれにしろ就活がだめになったことで死に追い詰められるとはつまり、命よりも大事なことは就活、仕事だということだ。
この「いのちよりも大事なことがある」という思い込みをさせられてしまったことにまず気づいてほしい。仕事をなぜするのかといえば、命を守りたいから、生きていたいからなのだ。そしてその命は自分だけではなく、どの人にもどの動物にも、もちろん植物にも全ての生き物にある。
私の年代の子どもたちの夢は、医者や看護師、パイロットというものが多かった。その理由は、人の命を助けたい、守りたいということであったと思う。ところがいつの頃からか仕事の選択に「命」という言葉がほとんど語られなくなった。命という言葉に代わって数字が大事であると子どもたちの意識を変えてきた。いい学校、いい成績、いい会社、いい収入。それらを得ることでいい仕事が得られると教育のベクトルが向いてきた。つまり、競争である。徹底的に競争を煽り煽られることが大事とされ、そこに乗れない子どもたちは1979年から、養護学校、今では特別支援学校というものに追いやられてきた。
命の本質は自由であり、それはある意味奇跡でもあり、そして限界なく繋がりあって助け合おうとする。それは生まれてすぐの赤ん坊の時代からしっかりとスタートするが、その本質が育つためには大人からの十分な注目と愛情が必要ではある。その注目と愛情のなかで、次に育つのは好奇心、命への興味関心だ。小さい子のそばにいればいるほど、人類がどのように食べ物を獲得してきたかについても歴史と命のダイナミズムが見える。小さい子はなんでも口に入れて食べれるか食べれないかを確かめる。お腹の中で受精した瞬間から人間として生まれるまで、進化の歴史を辿ると言われる。しかし生まれてからもそれは続くのだ。食べれるものを探してさまよった人類のように、何でもかんでも口に入れて食べれるものを確かめようとする0歳の子の有り様。それは人類の歴史と進化の有り様を確実に再現しているようだ。
もし就活が思うようにいかず辛い気持ちになったときには、ぜひ自分が赤ん坊であったときのことを思い出してほしい。何も思い出せないからそんなことをしても無駄と決めつけないで、とにかく赤ちゃんのように声をあげて泣いてみよう。人前では泣けないのならば一人で布団の中で泣くのもよし。山の中やあるいは川べりで声をあげて泣くのもいい。そしてあの赤ちゃんの時代をたくましくかいくぐって今の時まで生き延びてきたこと。それがどんなに奇跡であるかを何度も何度も思い返してみよう。全ての人が母親のお腹の中にいてそこから出てきたという事実はどの人にとっても共通の厳粛でユニークな現実だ。就活の失敗でこのたった一度しかない人生を終わらせるにはあまりにも勿体ないことなのだと気づこう。一人一人取り替えのきかない、そしてなにものにも変わることのできない、スーパー独自なかけがえのない人生を生きているのだから。
◆プロフィール
安積 遊歩(あさか ゆうほ)
1956年、福島県福島市 生まれ
骨が弱いという特徴を持って生まれた。22歳の時に、親元から自立。アメリカのバークレー自立生活センターで研修後、ピアカウンセリングを日本に紹介する活動を開始。障害者の自立生活運動をはじめ、現在も様々な分野で当事者として発信を行なっている。
著書には、『癒しのセクシー・トリップーわたしは車イスの私が好き!』(太郎次郎社)、『車イスからの宣戦布告ー私がしあわせであるために私は政治的になる』(太郎次郎社)、『共生する身体ーセクシュアリティを肯定すること』(東京大学出版会)、『いのちに贈る超自立論ーすべてのからだは百点満点』(太郎次郎エディタタス)、『多様性のレッスン』(ミツイパブリッシング)、『自分がきらいなあなたへ』(ミツイパブリッシング)等がある。
2019年7月にはNHKハートネットTVに娘である安積宇宙とともに出演。好評で再放送もされた。