人工呼吸器をつけますか? ーALS患者さんとの出会いー① / 田中恵美子

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)の患者さんと初めて会ったのは1999年、今から20年以上前のことです。医療ソーシャルワーカーの植竹日奈さんの問いかけにこたえる形でインタビュー調査が企画されました。私は大学院生として、そのインタビューチームの一人として参加することができました。

最近はALSという病について知る人が増えてきていると思います。
昨年は京都でALS患者の嘱託殺人事件が起こり、世間を賑わせました。一昨年の参議院選挙では、れいわ新選組から二人の重度障害者が当選し、そのうちの一人がALS患者の舩後靖彦氏で非常に話題となりました。
もう少し前ですが、2014年には『僕がいた時間』というドラマが放送され、今は亡き三浦春馬さんが主役を好演されました。

しかし調査を始めた1999年、私は病気について全く知りませんでした。

念のため、病気について説明しておくと、ALSとは原因不明の難病で、脳の指令が運動神経にうまく伝わらなくなり、体中の筋肉が動かなくなっていきます。
最初は手足や口、舌などが思うように動かなくなり、やがて呼吸筋までもが侵され、早い人では3年から5年で呼吸器の装着を余儀なくされることになります。

ALS患者の呼吸器装着率は3割程度であり、7割程度の人が呼吸器をつけずに亡くなっていきます。

私が初めて患者さんに会ったのは植竹さんが勤める病院でのことでした。患者さんは女性で、長期入院中でした。人工呼吸器を装着しており、会話は植竹さんの問いに女性が瞬きで答える形で行われました。

もちろん長い話はできません。私たちは今までのインタビューの概念を大きく変えなくてはなりませんでした。それまでは、できるだけ多くのことをご自身の言葉で語っていただくことがよいインタビューだと思っていましたが、今回は私たちができるだけ想像してあらかじめ話し、それに応じてもらうような形で進めなくてはなりませんでした。

とはいえ、初めて会う患者さんのこと、何もわからない中でインタビューを進めることはできず、それまでの記録を拝見する許可をご本人にいただき、記録を見たり、支援者や家族からお話を聞いてそれを確認するような形のインタビューをさせていただきました。

それまでの認識の中で、私は患者本人と家族とは思いが違うということをベースにしていましたから、本人からの言葉を思うように聞けないことはもどかしい思いがしていました。そして本人からの表現や言葉は、たとえ短い応答であったとしても聞き逃すまいと必死になっていたように思います。

私たちが病院でお会いしたAさんは、家に帰りたいけれども、夫しか介助者がいないため、自宅に帰ることができず、病院に長期療養しているということがわかりました。

しかし病院も医療点数の関係で、長期といっても3か月しか入院を許すことができないので、彼女は何か所かの病院を順番に3か月ずつ回っているのでした。

身体状況がどんどん重度化していく中で、住む場所が定まらないなんて。。。想像できますか?体の自由が侵されているだけでももう十分な辛苦なのに。。。

 

◆プロフィール
田中 恵美子(たなか えみこ)
1968年生まれ

学習院大学文学部ドイツ文学科卒業後、ドイツ・フランクフルトにて日本企業で働き2年半生活。帰国後、旅行会社に勤務ののち、日本女子大学及び大学院にて社会福祉学を専攻。その間、障害者団体にて介助等経験。

現在、東京家政大学人文学部教育福祉学科にて、社会福祉士養成に携わる。主に障害分野を担当。日本社会福祉学会、障害学会等に所属し、自治体社会福祉審議会委員や自立支援協議会委員等にて障害者計画等に携わる。

研究テーマは、障害者の「自立生活」、知的障害のある親の子育て支援など、社会における障害の理解(障害の社会モデル)を広めることとして、支援者らとともにシンポジウムやワークショップの開催、執筆等を行い、障害者の地域での生活の在り方を模索している。

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