SDGsな生き方 / 鈴木達雄

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

8.人工海底山脈とSDGs

2015年、国連サミットで加盟国193か国が2030年に達成する目標として持続可能な開発目標(SDGs)を採択した。わが国は、2016年に安倍総理(当時)を本部長として「SDGs実施指針」を決定した。シティコン海底山脈は、SDGsに沿って、沿岸の生態系を回復すると同時に、廃棄物を巧みに利用して早期復興を実現する持続可能な開発である。
シティコン海底山脈研究会の動画を再掲する。 https://youtu.be/FutGdXqUJT4

SDGs14.2は、「2020年までに、海洋及び沿岸の生態系に関する重大な悪影響を回避するため、強靱性(レジリエンス)の強化などによる持続的な管理と保護を行い、健全で生産的な海洋を実現するため、海洋及び沿岸の生態系の回復のための取組を行う。」としているが、人工海底山脈は世界で初めて実施された海洋及び沿岸の生態系回復のための取組そのものである。

わが国では、1979年に施行した沿岸漁場整備開発法に基づき、既に1995年から水産庁の補助を受けて、人工海底山脈を建設し、湧昇による生態系の変化を実証するための事業を6年間12億円で実施し、事業周辺海域の試験漁獲量が6倍、1500トンに増加する成果を得た。人工衛星によるクロロフィルaの濃度解析では植物プランクトン濃度が周辺海域の平均1.6倍、同海域の採水調査でも同様の効果を確認した。

また、岩礁生態系の形成、底質改良の成果を基に県を事業主体とし、国が50%補助する公共事業が2003年に創設された。さらに2010年、国は事業規模と実施海域を拡大し、直轄事業として2基建設し、さらに3海域で3基建設中である。それぞれ資源管理の下で漁獲量が増え、費用対効果の高い事業といえよう。

また、SGDs14.4は、「水産資源を、実現可能な最短期間で少なくとも各資源の生物学的特性によって定められる最大持続生産量のレベルまで回復させるため、2020年までに、漁獲を効果的に規制し、過剰漁業や違法・無報告・無規制(IUU)漁業及び破壊的な漁業慣行を終了し、科学的な管理計画を実施する。」とし、わが国は国や県として漁獲を規制し、禁漁区、禁漁期を設け、生態系を回復させるために湧昇流を発生させる人工海底山脈を建設し、基礎生産を増やす事業を国が率先して実施している。

SGDs14.5は、「2020年までに、国内法及び国際法に則り、最大限入手可能な科学情報に基づいて、少なくとも沿岸域及び海域の10パーセントを保全する。」としている。

わが国は、継続的に科学情報の収集、分析を行っている。さらに生態系の保全から一歩進めて、自然の生態系を活性化して水産物を増殖するため、自然エネルギーである潮汐流を利用して湧昇流を発生させる事業を積極的に進めている。

SDGs13.2は、「気候変動対策を国別の政策、戦略及び計画に盛り込む。」としており、わが国では、2003~2005年にRITE(地球環境産業技術研究機構)が、長崎県生月島沖の人工海底山脈実証海域で、「人工湧昇流海域におけるCO2吸収量の評価技術の開発」を行った。基礎生産の増加と、それによる海域のCO2固定量が、建設時に発生するCO2量を上回り、年間1,700tonCとし、CO2の固定に有効であるとしている。

廃棄物の発生削減と再利用
SDGs12.4は、「2020年までに、合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物質や全ての廃棄物の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する。」とし、SDGs12.5は、「2030年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。」としている。

さらにSDGs15.2は、「2020年までに、あらゆる種類の森林の持続可能な経営の実施を促進し、森林減少を阻止し、劣化した森林を回復し、世界全体で新規植林及び再植林を大幅に増加させる。」としている。

重ねて強調されるように廃棄物の削減と利用、及び森林の伐採による石材の利用を阻止することは、持続可能な開発に重要である。人工海底山脈では、実証事業の段階から産業廃棄物である石炭灰の利用の重要性を意識してきた。

1995年、人工海底山脈の実証事業では森林破壊を避けるため天然石材や骨材を全く使わない開発を行った。1980年、第二次石油危機で石油火力発電から石炭火力発電に転換され、廃棄物として発生する膨大な石炭灰を安全かつ高強度の硬化体にする研究を行った。研究成果を国の基準とするために協力し、開発から13年かけて公共事業で使用できる技術基準ができた。

生態系にとって非常に重要な浅海域に捨てていた石炭灰で、普通コンクリートに匹敵する強度と環境安全性を持つ1個6トンの石炭灰硬化体ブロックを開発した。このブロックを約5,000個大量生産し、水深82mの海底に海面から投下し、高さ12mの人工海底山脈を建設する材料に初めて採用された。

SDGs13.1は、「全ての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応の能力を強化する。」としており、廃棄物の発生の制御と利用は、産業に止まらない。

わが国は環太平洋造山帯で4つのプレートが衝突する地震の巣の上にあり、コンクリート構造物だけで首都直下地震では6,433万トン、南海トラフ地震では16,863万トンが被災し、震災廃棄物になると想定されている。しかも30年以内に両巨大地震が重なれば、短期間に発生する2.3億トンの処理は悲観的である。発災後に合理的な計画を策定する人材も時間もない。迅速かつ安全・安価に廃棄物を資源に変えて利用する技術と用途を、平時から準備し有事に備えて訓練する必要がある。

2017年の東京都災害廃棄物処理計画では、広域処理で全て破砕して再生砕石にするのが原則だが、早期復興と環境負荷を最小化するため、巧みな利用方法を考える必要がある。

2016年から、環境安全性を確認したコンクリート構造物を、目的に応じた重量と寸法のブロックに解体する技術と、その用途を検討してきた。コンクリート構造物を解体し廃棄物として扱えば、有害物が混入する恐れがある。これを避けるため解体後、直接トラック等に積載し、近隣の港に仮置きする。人工海底山脈に利用できる0.01~3トンの石材の代替材とすることでコンクリートを破砕する時間、運搬距離、エネルギー、コストを激減できる。

巨大地震で被災するコンクリート構造物の多くは1964年東京五輪前後に建設されている。被災しなくても、老朽化して膨大な廃棄物の候補となる。これらも環境安全性を確保した上で計画的に、環境負荷を最小化して陸域、海域で費用対効果の高い用途に、資源として利用する計画を策定し、実証実験をしておけば利用が可能になる。

東日本大震災では、漁業者の提案が聞き入れられ、細かく破砕する前のコンクリート殻が巧みに利用された実績がある。沖防波堤の内側に、ウニやアワビの増殖場を造る目的で、餌となる藻類を増殖するため、光が届くよう海底面の嵩上に利用された。前例を守る行政との葛藤があったと想像されるが、漁業者の熱意と早期復興、経費節減が重視され、実施に至ったと推測される。

もしこの計画が、発災前に漁業者と行政の検討で合意されていれば、少なくとも計画策定に必要な、半年は早く漁業者が望む増殖場が実現し、漁港からコンクリート殻を、迅速に撤去できたに違いない。

政府から巨大地震の危機が国民に公報されている。早期復興のための対策を事前に、冷静に議論し、関係者が合意し計画を策定し実行できるようにすることが重要である。巨大地震では発災直後の人命救助、避難者救援を優先するのは当然である。

しかし、例えば食糧自給率が1%の東京で、アクセス、ライフラインが切断され発災後の水、食糧、燃料、医療・救援物資の供給が滞れば、死者の急増は避けられない。特に被災時に死亡率の高い、高齢者、障害者を一人も取り残さないためにも、早期復興が重要である。早期復興は自助・共助では解決しないので、行政による公助への期待は大きい。

巨大地震からの早期復興の成否は、国際的な評価を大きく左右する。科学、技術的には充分可能と思われるが、前例がないことの影響が懸念される。同時に、海域の生態系を活性化し、天然の水産物を増殖できれば、世界の食糧増産にも貢献できる。

鈴木 達雄(すずき たつお)
1949年山口県下関生まれ。

1980年に人工海底山脈を構想し開発を進めた。この理論の確立過程で1995年に東京大学工学部で「生物生産に係る礁による湧昇の研究」で論文博士を授かる。

同年、国の補助金を受け、海で人工の湧昇流を発生させ食糧増産をする世界初の人工海底山脈の実証事業を主導。これが人工海底山脈の公共事業化、さらに国直轄事業化に繋がった。

現在は、予想される首都直下地震、南海トラフ地震等の巨大地震からの早期復興を支援するため、震災で発生する材料を人工海底山脈に利用する理論と技術開発に取り組んでいる。

SDGs、循環経済を重視し、都市で古くなったコンクリート構造物を工夫して解体し、天然石材の代わりに人工海底山脈に利用することで、予め海の生態系を活性化し食糧増産体制の強化を図り、同時に早期復興を支援する仕組みを、行政と協力して構築するための活動をしている。

趣味:水泳、ヨット、ダイビング、ウィンドサーフィン、スキー、ゴルフ、音楽、絵画

 

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