地域で生きる/22年目の地域生活奮闘記81~今の政治に望むこと~ / 渡邉由美子

7月22日、参議院議員選挙の投票日です。
私たち重度障がいを持つ人たちの暮らしが少しでも良くなる政治という事を、選挙の時期になれば万人が選挙公約に掲げます。そして電動車椅子で私が街を歩いていると、必ず「どんなに重い障がいの人も地域で自分らしく当たり前に生きられる政治の実現を致します。」などというきれいごとを言いながら、選挙カーが私の横を通り過ぎていきます。

きっと高齢者が歩いていたら、高齢者の事を言うのだと思います。それが悪いというわけではなく、普段は「自分に関係ない人」として分けて関心を持たない人々へ、嫌でも耳に入る大音量で知らしめてもらえるという意味では、その論調が当事者にとって必ずしも良い言い方では無い場合もありますが、一定のインパクトはあるのではないかと思います。

そして私は選挙の時期をそんなポジティブな感覚で捉えるように最近はしています。それは与党でも野党でも同様の事です。毎回選挙公約に掲げられていれば、世の中、暮らしに困窮したり生きづらさを抱えたりする人はいなくなるはずです。ですが現実は何十年と変わっていません。

そんな中、今回の参議院議員選挙の候補者として、特定枠で重度の障がいを持つ当事者が立候補を表明しました。「誰も取りこぼさない社会を作ろう!」という強い意志で政治の世界に飛び込もうとしています。

今までは政治家と言えば庶民とはかけ離れた感覚で政策を作り実行されてしまうので、本当に様々な意味で生きる事に行き詰ったり苦しんだりしている人を真に救う政策はなかなか実現されませんでした。私たち障がい当事者もそれは仕方のない事と半ば諦めている節が正直ありました。

でも今回の候補者がもし当選できれば「政治=どうせ期待しても何も変わらないもの」と諦めず、草の根の障がい者運動とタイアップすることによって明るい兆しが見えてくる期待を持てる気がしてきました。

すでに国会議員としての実績をあげている二人の議員さんの功績があるので、そこに+αの力が働くようになれば国を良い方向に動かしていく事も可能になるのではないかと思います。

選挙というものは水物なので終わってみなければ当落は分かりませんし、すぐに大きく社会が変わる事は難しいですが、上流階級の人だけが利益を得るような社会ではなく、誰もが期待を持って生きていける世の中を実現できるような動きや活動を永続的に実行したいと思っているのです。

年金の支給額が下がったり、今までは価格安定で家計のお助け役だったもやしや豆腐などの基礎的な食品まで物価高騰の煽りを受けているような状況下にも関わらず、困窮世帯に対する支援策は、住民税非課税世帯であったとしても昨年度受給者は今年度対象外という、本来行き届くべき世帯への給付が全く届かず愕然とせざるを得ない状況です。

そして現実の世の中は、能力主義やスピードについて行ける人だけで構成され、特性が他の人と違うという事で誰もが期待を持って生きていける世の中を実現できている訳ではないのが現実です。

様々な困難があったとしても、重度障がい者ができる事なら持てる能力を最大限に発揮して重度訪問介護を使いながら就労する社会を一日も早く実現していきたいと思っていることに、この夏追い風が吹いてくれればこの上なく嬉しいことだと思います。
そのような事が現実となり、勝ち取れるように私に出来る努力を水面下でしていきたいと思います。

議員特権としてでは無く、介護者を付けての労働を希望する権利を保障して欲しいと思います。そしてこの権利を希望する重度障がい者の万人が認められる、重度訪問介護の制度改正がなされる事に期待しています。

労働と言っても重度障がい者の場合、健常者と同等とする事は不可能な条件がついてきます。例えば体力的制約、通院やリハビリを優先しなくては体調そのものを崩してしまう場合が多く、生活していくのに足らない所得はきちんとした社会保障制度で補填され、持てる能力で無理のない範囲で働きたいと考えます。

この参議院議員選挙が、社会保障制度に全てを依存するのではなく、自立して生きていけるような健全な社会参加の在り様を確立するきっかけになって欲しいと、切に願います。

政党の公認候補者として出馬を表明しただけで、ネット上は優生思想のコメントになっています。この事実だけを見ても私たち重度障がい者の生存権はまだまだ脅かされていると思わざるを得ません。

それでも少しずつ様々な活動を積み重ねて来た結果、地域に生活できる状況が作り出されてきたのです。心無いコメントにめげることなく、重度障がい者の底力とど根性を発揮しながら社会変革を起こしていきたいと改めて思いながら参議院議員選挙の投票日を待つ今日この頃です。

私は特定の政治を推進していたり、贔屓の政党があるという訳ではありません。重度障がい者でも優れた能力を持つ方々が大勢いるのです。彼らの能力が正しく評価される社会にしていく活動を共にできる夏を過ごしたいと思っています。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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