地域で生きる/21年目の奮闘記㉞~相模原障がい者殺傷事件から5年を経過して思うこと~ / 渡邉由美子

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

今日この原稿を書いている7月26日は、相模原の障がい者支援施設「津久井やまゆり園」で5年前に重い知的障がいを持つ人19人が同じ施設の元職員によって殺害された日です。この時期になると、この事件のことを毎年このブログに綴ってきました。事件を私たち当事者だけでも風化させてはならないという強い思いがあるからです。

しかし、一般社会の人々はどうでしょうか? 19人もの尊い命が奪われた未曾有の事件にもかかわらず、5年という歳月にかき消されるように話題にものぼらなくなってしまいました。パラリンピックの採火を通過させて美化したお祭り騒ぎに仕立てようとした神奈川県知事や相模原市長は率先してこの事件をメモリアル化して、過去の負の遺産ではなく、まるで亡くなった方たちは天使になったとでも言わんばかりに綺麗ごととして片付けようとしました。そのことを私たちは断固許せないことと感じ、人が何の罪もない状態で殺されたり、人生を無にされた無念を訴え続ける活動を地道に行っています。

いまだに名前も公表されず、亡くなった人たちの多くが存在を消されたような状況で世の中の話題から風化によって消し去られることを待っているかのごとく扱われているのです。遺族の方の強い希望で、そのような状況が事件当初から続いています。心中を察すると、そのこと自体を責めることも否定することもできないのですが、尊い命が奪われたその事実を社会全体の問題として提起し続けていくにはどうしたらよいのかということを考え続けていきたいと思います。

少数のテレビや福祉番組などでは多少、相模原殺傷事件から5年というような題名で報道されてはいましたが、死刑の判決が出て以来、死刑囚の植松聖は今何を考え、どう罪を償おうとしているのかもまったく報道されなくなりました。

今の社会は政治そのものがコロナ対策やオリンピック開催に象徴されるように迷走極まりない状況となっていて、今後これがさらに加速する状況となることは防げない社会情勢です。社会の人々、いわゆる健常者でも働き場を失い経済に困窮し、人を思いやる余裕はなく、社会をさ迷いあえいで生きている時代となっていても、なおごく少数の人が利益を得るためとしか考え難い状況でオリンピックを開催している最中に再び感染者数が1日当たり東京だけで2千人に達しようとしています。連日そんな報道がニュースで流れてきても、緊急事態宣言が出ていても、すっかり動じず、世の中はもう我慢しきれないと普通に動き始めています。

そんな歪んだ状態の中でもともと生きづらかった重度の障がいを持つ人たちの人権がどう守られていくべきなのか本当に悩む今日この頃です。私は同じ障がい者、そして当事者という立場なのでのん気なことはとても言っておられず、この社会が困窮すればするほど日の当たらない環境に追いやられていく恐怖を感じざるをえません。なんだか本当にこれから戦時下の社会に戻ったような暮らしが待っているような気がします。働かざる者食うべからずという社会に戻っていってしまわないために何をして生きていくことをしなくてはいけないのか、こんな状況の今だからこそ考えなおしていきたいと思います。コロナの影響でリアルに集まって障がい者問題を世論に訴える機会が激減してしまっています。

Zoomや会議という形では障がい者問題を常に議論していますし、今日7月26日に向けてもこの問題をずっと考え続けていくための会議やイベントを行いました。しかし、Zoomでは通りがかりの一般人にこの事件を思い出してもらう働きかけはとても難しいのが現実です。YouTubeでこの問題のことを配信している仲間もいるのですが、どれだけの人がその動画を目にする機会に恵まれるのかは残念ながら問題意識を多少なりとも普段から持っている人に限られてしまいます。

早くコロナ感染症が収まって一般世論に向かって障がい者問題をアピールすることが可能な社会となってほしいと願っています。オリンピック、パラリンピックが無事終わり、デフレの脱却や生活困窮者の問題に国が本格的に着手し、新型コロナウィルスの根本的な治療薬の開発も進み、障がい者も健常者も生きやすい誰もが尊重される世の中を再構築することに全力を注げるような時が来てほしいと切に願うばかりです。

オリンピックが終われば衆議院選挙が本格化することでしょう。それを契機に二度と5年前の殺傷事件のようなことが起こらない社会に転換させていきたいと考えています。そのためには世の中にあまり注目されない蚊の鳴くような小さな声かもしれませんが、地域で誰もが生きられることが当たり前のことであり、それが人権の尊重であることを仲間とともに訴え続けていきたいと思います。

今まで施設やグループホームでしか暮らせないと決めつけられてきた当事者たちを、街の中で共に暮らす仲間として生活を立ち上げていくことに協力をしていこうと微力ながら考えています。そのためにこれからも重度訪問介護の資格をとるための研修の講師を続けていこうと思います。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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