地域で生きる/22年目の地域生活奮闘記75~最近の事件から思うこと~ / 渡邉由美子

最近、また人間のメンタルの問題がクローズアップされる事件が多発していることに、私は何とも言えないやるせなさを感じています。

仕事も順調で、ある年代まで生き抜いてきた男優さんが自宅の一角で家族も気づかぬうちにこの世を去ってしまっているとの報道がありました。それに続けて、人を楽しませたり、笑わせたり、楽しくさせることを生業としていた人が、突然この世を去るという出来事があり、とても辛い現実です。

亡くなってしまっているという現実は繰り返されており、なんとか食い止める手立てを早期に考えなくてはならないと思います。精神的な悩みを抱える人々が孤立しないで、苦しみを相談できる体制づくりが今の社会には、足りていないと感じるのです。

しかし、私のように肢体不自由で物理的なことが自分では行えないというのとは違い、人の心の中はもっともっと複雑で見えにくいものなので、支援のしどころを探り出すことは非常に困難なことなのです。

もちろん専門性も必要ですし、言葉掛けひとつで余計苦しくさせてしまったり、生きる希望を失う結果となってしまうのですから、まさしく「言うは易し 行うは難し」という感じで、具体的な行動を気になりながらも、長年何も出来ずにいる私なのです。

よく、障がい者問題の根っこはどんな障がいでも一緒の課題であると言われることが多いのですが、私はやはり障がい種別によってその大変度はみんな違うと思っています。大変の質が違うことで、手助けを必要とする事柄も違ってくるのは、当然のことなのです。

逆に軽率に分かったような口をきいてしまう事の方が誤解を生んでしまったり、間違った支援を押し付けてしまったりする危険を大いに孕んでいると思わざるを得ません。

話題は変わりますが、新しい介護者が私の生活を支えるために加わるときに思うことは、コミュニケーションの面に苦労が多い人と、そうでない人がくっきりわかれるのです。私はよくこの人は何を考え、何を思い今ここにいてくれているのか知りたいと思うことが多々あります。

頭がガラス張りで考えていることが透けてわかったり、私の発言や言動によって人を精神的に追い詰めていないかわかったらいいのにと思うことが、介護を受けている現場で研修中などに良くあります。

私にとって物理的に不可能な事は大体いつも一定なので、同じことをたくさんの人に同じように伝えると、飲み込みの早い人は何でも簡単にクリアできますが、一度難しく考えてしまった人にはどう言い方を変えて伝えても、知恵の輪が解けない時のように伝わらなくなってしまい、段々お互いのフラストレーションが溜まっていってしまいます。

覚えなければならないと思う新人介護者は、焦りや不安、焦燥感に駆られ、精神的にも技術の追い付かなさ的にも限界を感じて研修を結果的にリタイアしてしまう人も出てきてしまうのです。
そんな時、私はせっかくここまで介護者としてやってきて、働きたい思いもあるのに、ここで諦めていなくなるのはとてももったいないと思ってしまいます。

その人の抱える不安や焦燥を少しでも和らげたいと、必死に介護とは関係のないコミュニケーションで雰囲気を変えようと試みたり、休憩を促してリフレッシュしてもらうように努めたり様々試してみますが、成功の決定打は未だに掴めず、やればやるほど泥沼にはまり追い詰めてしまうことがあります。

人の受け取り方は十人十色なことはもちろん分かっていますが、本当に難しくて答えがでません。

介護研修の時に、介護者が私のそばで呆然と立ち尽くし、コミュニケーションがとれなくなってしまうことがあります。そんな時、その人が次の手順を思い出して自分でやろうとしているのか?わからなくなってしまったので、もう一度教えてほしいと思っているのか?の判断を見誤ると、発言したことでマイナスを加速してしまい余計うまくいかなくなってしまうことが日常茶飯事にあるのです。

研修も無限に時間と回数を重ねることはできません。そのため2回目の後半ぐらいになってくると基本的にどうしても省けない、以降は覚えて欲しいと私の方が焦ってしまい、どうしても語調がきつくなってしまいます。

一生懸命努力している新人介護者には申し訳ないと思いつつも、この人と長時間暮らすことはできるのだろうか、お互いの安全性は保てるのだろうかと悩み始めてしまいます。なるべく穏やかに生活をしたいと願う私にとっては、介護者との人間関係を円滑にすることは、介護者が定着する第一条件だと思います。

研修の間は覚えることが沢山あり、現場の空気がどうしても張りつめてしまうのです。先輩介護者が行っていることをそのままコピーしてやってほしい、と伝えても、難しい場合もあるのです。

お互いに精神的な余裕を持ちながら、長い期間楽しく暮らし続けていける介護者の育成は、とても難しいことだと改めて思います。お互いの力量やメンタル面を尊重しながら、よりよい生活をつくっていける自分自身になりたいといつも考えるのです。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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