地域で生きる/22年目の地域生活奮闘記85~相模原障がい者殺傷事件から6年に思うこと~ / 渡邉由美子

相模原障がい者殺傷事件から6年が経ちました。私はこの事件のことについて忘れることは出来ないのです。7月25日と26日、二夜連続でニュースウォッチ9というNHKの21時代のニュース番組が15分くらいずつ特集を組んで報道していました。私たち障がい当事者も、風化させない運動をしたいという強い思いはありますが、コロナ禍で人が集まれないという事情もあり、大きな限界があると感じざるを得ません。

そんな中で、入所施設について学ぶ機会を得ました。入所施設の生々しい現状・現実をzoom勉強会で学んだのです。その現実は、私自身のショートステイ体験を彷彿とさせるものでした。私が両親の介護を受けて生活していた時に、3回ほどやむを得ない事情でショートステイをした時感じたことを、今回は書いていこうと思います。

ショートステイであったため、そこで長く暮らすわけでもないのに、施設に着くなり持ち物をタンスに収めるという名目で、持ってきた物品を全て記録し職員が管理するシステムとなっていたことにまず衝撃を受けたことを、昨日のことのように鮮明に覚えています。

荷物整理の次は、検温・体重測定など規定の入所手続きに含まれている項目を、淡々と玄関先の談話室という外部の人も使う部屋で済ませると、ショートステイの者が使う部屋へあっという間に連れて行かれ、そこから先は食事や排せつなどの介護を受ける時以外は部屋から出ることはできませんでした。

その部屋は、無機質な介護用ベッドとテレビが一台備え付けてあり、そのテレビを見ることくらいしか時間をつぶす手段もなく、時計は置いてあるものの、時が止まったように時間の経過がとても遅く、二泊三日くらいの滞在期間が一週間にも一ヶ月にも感じられたことを今でも覚えています。

食事の時間に食堂に連れて行かれると、そこでやっと入所している人や職員、私と同じ立場でショートステイしている人との関係性や職員の方々の慌ただしく働く様子が分かるのですが、入居者同士は話せる人もきっといらっしゃったはずですが、ほとんど会話がなく、たくさん人がいるにもかかわらず静寂の中で食事をして、食べ終わったらまた自分の部屋へ帰っていくということの繰り返しで何年何十年という歳月が流れて行っているのです。

もう一つ私がとても衝撃を受けたことは、入所施設の広い浴室の中には当然男性職員もいる状況で、何も言わなければ男性職員が入浴介護をするのは当たり前という空気が流れていたことです。私は女性職員をお願いしましたが、同じ浴室内で別の利用者を介護する男性職員はその場にいたので、とても嫌な入浴として記憶に残っています。

また、入浴は週に2回と決められており、よほど何かの理由で汚してしまうとかいうことがない限り、その入浴日以外は基本着替えはできないのが当然なのだという事実でした。

私は初めて施設に短期で入所したとき、お泊りに行くみたいな気分で両親の負担を軽減したい一心で入所をしたので、新品の人に見られても可愛いと思えるパジャマを持参してしまい、玄関の荷物チェックでそのようなものは使わないので持ち帰ってくださいと言われたときに入所施設で暮らす生活の厳しい現実を知った思いがしました。

私の体験は今を去ることうん十年も前の話になりますので、今は違うのかもしれませんが、、、そして、私は入所施設の批判をしたいわけではないのです。入所定員が80人とかいる施設において手が行き届かないのはある意味当然のことだと思うからです。

それでもその入所施設に空床が出る事を待っている人が、登録名簿上で何百人もいるということを、上記の勉強会で知りました。それほどに、家族が病気や加齢に伴って、障がい当事者は、他人介護をどこかで安心安全に受けることができる生活の場をみなさん必死で探しているのです。入所が決まれば、宝くじに当たったような喜びなのだそうです。

最近新しくできる施設は、建物がとても立派で障害に即した設備が整った状態で生活できるものが増えてきています。しかし、コロナ禍が長期化する状況の中で、家族の面会もリアルにはできず入所施設の中で全てが完結してしまい、ますます一般社会とは隔絶された中で暮らしている人がたくさんいるのです。

私はこの話を耳にしたとき、施設で暮らしていても在宅の障害サービスの中にある移動支援の制度が施設入居者にも使える制度であったならば、全く別の施設生活が可能になるのではないかと強く思ってしまいました。

施設で暮らしている人と共に施設で全てを完結するのではなく、もし、昼間は外出をして外の人とも関係性を持ったり人間関係の幅を広げたりすることが可能となるような障がい者運動を展開できて、行政の側も一つのところで閉じこもって暮らす閉鎖的な暮らしの在り様は本来ではないと気付くことができたならば、施設の閉鎖性から起こる虐待事件の数や、相模原障がい者殺傷事件の容疑者が言った、「障がい者は不幸しかつくらない」などという間違った認識を正す突破口ができると思えてなりません。

今の障害福祉の考え方では、ダブル制度支給はできないと言われていますが、全く求めているサービスの質と内容が違うので施設での暮らしの場でのサポートと移動支援は重複しないと思うのです。そんな運動を改めて起こしていく中で、1人でも地域移行へと繋がる仲間を作っていきたいと強く思った相模原障がい者殺傷事件から6年の日でした。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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